52話 王都のホテルと異界の勇士

 『異界の勇士』の披露式典というものがあるらしい。


 古代文明の魔女が遺したとされる召喚魔法というものがあり、それに巻き込まれた者達は強力なスキルを付与されて、この世界へと呼び出されてしまった。

 それが『異界の勇士』。


 彼らはこの国、ゼルオルス王国の第二王女ルルティナ姫に保護され、彼女と行動を共にすることとなった。

 『異界の勇士』は強力で特別なスキルを有しているため、『宝剣祭』での活躍が期待されているようだ。


 そんな彼らの存在を大々的に広める披露式典が一週間後に行われるらしい。


 『異界の勇士』の存在を諸外国にアピールしてこの王国の威光を広めつつ、闇人に対する人類共通の戦力としての面を強調して他戦力をけん制する意味合いがあるようだ。


 各国の要人を大勢招き、国王が直接『異界の勇士』たちに祝福を与える式典を行うことで、彼らの地位を確立させるらしい。


 いかにも肩が凝りそうな式典だ。

 やはり俺は巻き込まれたくないな……。


 そして俺、フィア、クリスはその式典の来賓として呼ばれることとなった。そのため、俺達は今ゼルオルス王国の王都へとやって来ている。


 ……まぁ、そんなことは全て建前であり、


「ラーメン! ラーメンっ!」

「ラーメン! ラーメンっ!」

「ラーメン! ラーメンっ……!」

「はいはい、丁度今できたぞー」

「やったーーー!」


 俺は『異界の勇士』のラーメンゾンビ共にラーメンを作らされていた。


 ここは王都の一流ホテルの中。

 ルルティナ姫の口添えにより、そこの厨房を借りて料理を作っていたのである。


 故郷の味に飢えた陽翔とエイミーさん、新たにラーメンの虜となったポヨロさんにラーメン作りを強要されていた。


「ラーメンうめぇっ! うめぇよ、ラーメン!」

「これが……幸せ……」

「異文化の味……たまらねぇよ……」


 ラーメンゾンビたちがラーメンを食べ、やっと落ち着きを見せていた。


 彼らに作ったのはオーソドックスな豚骨ラーメンである。骸骨剣士などの魔物が一切入らない普通のラーメンだ。


 ちなみにここ、王都へは『転移玉石』を利用して一瞬で来た。

 『転移玉石』はダンジョン間の移動が主な用途であると聞いているが、街と街の移動にも使えるのは初めて知った。


 便利過ぎないか、転移玉石。


「わたくしはクリス様と同じ王立の学園に通っていまして、そこでクリス様は先輩にあたるわけですね」

「そうなんですか」


 一心にラーメンをすするラーメンゾンビたちは放っておいて、食事をしながらルルティナ様、ココさんと会話をする。

 出会った時にルルティナ様がクリスのことを先輩と呼んでいたことに疑問を持っていたが、その回答をここで貰った。


「僕は3学年。ルルティナ様は2学年で一応後輩ってわけ」

「クリス、お前学生だったのか」

「んー、学校行っているとこ見たことないけど、大丈夫?」

「単位取り終わってるよ!」


 クリス不登校疑惑が出たが、それは本人より否定される。


「レイイチロウ様とフィア様がクリス先輩とパーティーを組んでいたことに驚きました。クリス先輩は学園での有名人ですからね」

「女装だからですよね?」

「学年総合2位だからだよっ! ……いや、まぁ、女装の悪名は大きいけどさ」

「あ、あはは……」


 困ったようにルルティナ様が笑う。

 ていうか、クリスは学年2位なのか。凄いな。


「ま、まぁ、ルルティナ様の隣で学年2位を誇れないです。ルルティナ様はどう考えても3学年全て合わせて1位。だって『十二烈士』の一人ですから……」

「え? 『十二烈士』?」


 クリスがさらりととんでもないことを言う。


 人類世界の戦力トップ6人が『六王剣』と呼ばれており、闇人に対する最大戦力となっている。

 その下に控える12人が『十二烈士』だ。


 つまり簡単に言うと、人類世界最強の18人の中に目の前のお姫様が含まれているということだ。

 とんでもないな。


 そんなことを考えていたら、ルルティナ様が慌てて手をぶんぶんと振っていた。


「あ、いえいえ! わたくしは『十二烈士』の一員と言っても、お飾りの『十二烈士』ですから! そんな大したものではありませんっ」

「お飾り?」

「自分で言うのもなんですが、わたくしはこの国の王女ですから……。地位が先行して『十二烈士』と呼ばれるようになっちゃったんですよねぇ……」

「またまた、ご謙遜を」


 ルルティナ様が小さくため息を吐く。

 彼女の苦労も慮られるところではあるが、少なくとも圧倒的な実力が無くてはそう呼ばれることは無いだろう。


 実力トップクラスの中の謙遜というやつだ。


「わたくしのお姉様、第一王女のエリザヴェータ姉様が名実ともに『六王剣』の一人でして……その妹であるわたくしにも期待が掛かってしまっていて……『十二烈士』なんて身に余る枠組みの中に……」

「へぇ、六王剣……」


 第一王女で、世界最強の六人のうちの一人。

 宝剣の『第二覚醒・極式』という技を使える人が、人類唯一の六人にして『六王剣』と呼ばれる者達だと聞いている。


 凄いな、そのエリザヴェータって人。


「……俺ら、グレイスさんには会ったことありますよ。十二烈士のグレイスさん」

「あぁ、『闇人対抗戦線委員会』のグレイス様ですね。あの方は本当の実力者です。わたくしのようなお飾りの十二烈士とはわけが違います」

「この人はすぐに自分を貶めるんだ。もっと堂々としていればいいものを」

「ココ様、ご容赦を……」


 ココさんの言う通り、やけに謙遜するな、ルルティナ様。

 自分に自信がない性格の人なのだろうか。


「それはさておき、ですよ」


 ルルティナ様が露骨に話を切り替えようとする。


「わたくしは貴方たちが魔物を食べていたことに疑問を覚えているのです。ファングボア、食べていましたよね?」

「…………」

「…………」


 そこを問われ、俺達はさっと視線を逸らす。

 そうだった。魔物を食べていたところを見られていたんだった。ラーメンの話題でなぁなぁになっていたが、そこを問いただされるのはキツい。


「……俺達は魔物を食べられる特殊体質でして」

「いや、嘘ですよね。そんなの今まで聞いたことも……そんな特殊体質、今まで聞いたこともありません。そもそも、クリス先輩がそうだって聞いたことありませんよ」

「…………」


 そうだった。

 彼女とクリスは面識があるんだった。もしクリスがそういう特殊体質だったら、ルルティナ様はとうにそのことを知っているだろう。


「それに、つい25日前に第5層でレベル上げしていた人たちが、どうしてさっき第21層にいたのですか? どうやってそんな短期間で急激なパワーアップを?」

「そ、それは陽翔のやつにも言えることじゃないですか……」


 俺達はこの古都都市のダンジョンを第5層から第20層まで一気に駆け上がったが、それは1日で全て行われたわけじゃない。

 15層分の攻略は4回に分けて攻略は行われた。1回の攻略で大体4層分進んだこととなる。


 ダンジョン攻略1回ごとに4日の休日を挟んでいたので、前にダンジョン第5層で陽翔とルルティナ様と出会ったのが25日前であった。


 そんな短時間でどうしてこんなダンジョン攻略が進んでいるのか。


 着実にルルティナ様が俺達の隠し事に迫ってきている。

 魔物を食べられること、俺達が急激なパワーアップ手段を持っていること。それは確かに繋がっている。


「ハルト様達『異界の勇士』の方たちは強力なスペシャルスキルを持っておりますから。レベルが低くてもそのスキルでなんとかなるのです」

「へぇ、いいですね……」

「それに『獲得ベースポイント5倍』っていうアビリティも持っておりますし」

「なにそれずるっ……!」


 『異界の勇士』の人たちは思ったよりもチートだった。


 俺だって異世界人なのになぁ。彼らの言うようなスペシャルスキルを全く持っていない。

 不公平である。


「さぁ、どうしてレイイチロウ様とフィア様が第21層まで来られたのかを話すのです」

「…………」


 ルルティナ様が俺にぐいと顔を近づけてくる。

 俺の方は視線を逸らすしかない。《ホワイト・コネクト》のことはどうあっても説明できない。


「そこら辺は……全部黙秘でお願いしたいところです……」

「……困った人ですね、ほんと」


 両手を上げて降参のポーズを取りながらそう言うと、ルルティナ様からジトっとした目を向けられる。

 まぁ、怪しい人間であることは自覚している。


「正直、第21層にいる理由はただレイがムチャクチャ無理やったからってだけだよね?」

「ん、私たち巻き込まれただけ」

「そこ、シャラップ」


 クリスとフィアから裏切りを受けそうになったが、そこは強引に口を閉じさせる。


「ラーメンおかわり! 替え玉でっ!」

「あたしもっ! あたしもっ……!」

「オレもオレもっ!」

「あぁ、もう、分かったから」


 そこでラーメンゾンビ三人組から声が掛かる。

 でもちょっと話を切りたいタイミングだったから、それはそそくさと席を立つ。


「しかし、本当に美味しいな、このラーメンという料理は」

「……ココさんは正気を保って頂ければ」

「あのバカたちのようにはならないくらいの節度はあるさ、レイイチロウ君」


 ココさんというきっちりした女性の存在がとてもありがたかった。


 ていうか、ラーメンゾンビの内の二人、エイミーさんとポヨロさんとはほとんどまた喋ったことないのだが……。

 彼らと意思疎通を出来る日は来るのだろうか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る