45話 トライアングルアイズブルを使ったコンソメあんかけソースのハンバーグのタルッコ包み

 トライアングルアイズブルのハンバーグ。

 今日俺は草原地帯のダンジョンで三つ目の牛を倒した。その牛の肉で作ったハンバーグをフィアとクリスの前に差し出すと、二人は子供のように喜んだ。


「いやっほーい! ハンバーグだぁっ……!」

「待ってましたぁっ!」

「ハンバーグ! ハンバーグっ……!」

「うぅ……やっと人間らしい食事ができる……」


 クリスなんか涙を流して感動を露わにしていた。

 カマキリの唐揚げがそんなに苦しかったか。


 作り方は簡単。

 普通のハンバーグと手順は何も変わらない。


 まず市販の豚肉を買ってきて、豚と牛の合い挽き肉を作る。

 そこにみじん切りにした玉ねぎ、パン粉と牛乳、卵、塩こしょう、ナツメグを混ぜて焼く。


 軽く焦げ目がつくまで焼いたら、フライパンに水を少量加えて蓋をし、蒸し焼きにする。

 これで完成である。


 ハンバーグよりも苦労したのがソースの方である。

 ハンバーグソースとして一般的なのが、ハンバーグを焼いた肉汁を使ってケチャップと市販のソースを混ぜ合わせたものだと思う。


 しかしこの世界、ケチャップがないのである。

 いや、無いというよりバカ高い。一部の裕福な者が少量嗜む嗜好品なのである。


 なぜケチャップがこの世界ではそういう扱いなのか。

 それは簡単に推測できた。


 この世界、砂糖が貴重品なのである。

 だから、砂糖を使うケチャップなんてとてもじゃないが市場に出回らないのである。


 なので、折角だからコンソメを再利用しようと思う。

 コンソメ味のあんかけソースを作ることにした。


 まず、片栗粉……の代用品、こちらの世界独自の品の『薄タルッコ粉』を用意し、そこにコンソメスープを加えてとろみをつける。

 後は塩と香辛料で味を調える。

 今回は以前に作っておいたハーブソルトを利用した。


 これだけ。

 これだけでコンソメ味のあんかけソースの完成である。


 うむ、コンソメ万能説が俺の中で広がっている。


 これで『トライアングルアイズブルを使ったコンソメあんかけソースのハンバーグ』の出来上がりである。


 しかし、これだけでない。

 まだ俺のターンは終わっていなかった。


 この世界……というより、この国? は主食がパンでも米でもないのだ。

 『タルッコ』と呼ばれるものが主食として愛用されていた。


 今まで片栗粉の代わりとして使ってきた『薄タルッコ粉』。それよりも粘りの強い『タルッコ粉』を使って作るものである。


 作り方はこれまた簡単。

 タルッコ粉に水を加えてよく練る。すると固くなってまとまっていくので、それを自由な形にして火で炙る。


 これでこの世界の主食『タルッコ』の出来上がりである。


 食感としては団子に近いだろうか。

 もちっとした食感を楽しみながら、結構腹にたまる。


 パンと同じく自由な形に変形することが出来るため、団子のように小さな塊をいくつも作っておかずと一緒に食べる、パンのように中に具材を包み込んで一緒に焼く、スープの中に入れて具材のように煮込む、など様々な利用の仕方がある。


 今回俺がやろうとしているのは、『タルッコ包み』と呼ばれる食べ方である。


 タルッコを薄く広く伸ばして火で炙る。

 その中心にレタスとスライストマトを乗っけて、先ほど作ったハンバーグを乗せる。


 溢れない程度にあんかけソースをハンバーグにかけ、それを広く伸ばしたタルッコで包み込む。

 薄いタルッコの皮でハンバーグなどの具材を一緒くたにまとめてしまう。


 これが『タルッコ包み』であった。

 あらゆる食材に利用できるため、一般的でかつ人気の食べ方らしい。


 これでようやく『トライアングルアイズブルを使ったコンソメあんかけソースのハンバーグのタルッコ包み』の完成であった。


「じゃあ、いただきます」

「いただきまーす!」


 ハンバーグを包み込んでいるタルッコを手に取り、ぱくりと噛り付く。

 ジューシーな肉の味わいとコンソメの旨味が口の中いっぱいに広がる。


「んんんーーーっ……!」

「う、うまいいいぃぃぃっ!」


 フィアとクリスの表情がとろりと蕩けた。

 この二人は本当に飯の作り甲斐があるものだ。


 俺ももう一口ハンバーグを食べる。

 肉汁が口の中に染み込んでくる。ハンバーガーと似たような構成であるが、コンソメのあんかけとタルッコのもちもちとした食感が独特である。


 タルッコは団子とよく似ているが、火で炙るという調理工程が違うからか、手に持ってもべたつくような感じがしなかった。


「こりゃ美味いな、いける」

「これが幸せ……」

「生きてて良かった……」

「……お前らは大袈裟だな」


 二人はほくほく顔でハンバーグを頬張っていた。


「他にもあるぞ。『スライムときゅうりともやしのピリ辛ソース和え』」

「……スライム?」

「スライムの皮だ」

「スライムって食べられるのっ……!?」


 クリスが驚きを示すが、それは既に実証済みである。

 スライムの皮はところてんのようになるのだ。


 今日狩ったモンスターの中にスライムもいたので、スライムの皮を細切りにしてきゅうりともやしと一緒に『イルチャッカ』と呼ばれる市販のピリ辛ソースで和えたものである。


 この国ではメジャーな調味料らしい。


「これはこれは……独特の食感……」


 クリスがところてん……じゃなくて、スライムの皮をぱくぱく食べる。

 彼のスライム初体験だった。


「なんだよー! こんなに美味しいものたくさん揃ってたんじゃないかー! カマキリ料理だけ出された時はどうしようかと思ったよー!」

「ちゃんとカマキリも食べろよ?」

「わ、分かってるよ……!」


 夕餉は進む。


 こうして今日の食卓には、

『ブレイドカマキリの唐揚げ』

『トライアングルアイズブルを使ったコンソメあんかけソースのハンバーグのタルッコ包み』

『スライムときゅうりともやしのイルチャッカソース和え』

 が並ぶのだった。


 ……どう考えても食い過ぎだよな、これ。

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