44話 ブレイドカマキリの唐揚げ
「ねー! コンソメスープそのまま食事に出せばいいじゃん!」
「美味しい料理をムダにするものじゃないー!」
「無理にカマキリ料理を作ろうとしなくてもいいじゃないかー!」
「レーイチローは人の尊厳を踏みにじっているー!」
「はいはい、うるさいうるさい」
「あーーーっ!」
クリスとフィアのクレームを聞き流しながら、俺はカマキリの唐揚げを作り始める。
唐揚げ粉の材料は揃った。
小麦粉と薄タルッコ粉を2:1の割合で混ぜ、そこに塩に各種スパイス、コンソメスープを入れる。
水溶きの唐揚げ粉だ。
これをカマキリによく絡め、油でじゅっと揚げる。
カマキリの唐揚げの完成である。
「二人ともー、カマキリの唐揚げできたぞー」
「…………」
「…………」
フィアとクリスの返答はない。
どうやら歓迎されていないようだ。
有無を言わさず、山盛りのカマキリが乗った大皿をテーブルの上に置く。
二人の顔がより暗くなった。
「じゃあ、いただきます」
「い、いただきまーす」
「……いただきます」
三人でカマキリの唐揚げを頬張る。
熱々ジューシーなカマキリの風味が口いっぱいに広がった。
「…………」
思わず皆で無言になる。
アレだ。唐揚げの衣は美味しい。自分で言うのもなんだが、よくできている。
衣がさっくり揚がっており、スパイスとコンソメの味付けがしっかりと効いている。
しかし、中にあるのがカマキリなのだ。
カマキリの存在がどうしても無視できない。
「ま、まぁ……不味くはない。……不味くは、ない? アリジゴクの直焼きに比べたら、まるで天国だ」
「……比較する対象が間違ってるよ、レーイチロー」
「……この唐揚げ粉で、普通に鶏のから揚げが食べたかった」
「今度作ってやるからさ」
「絶対だよ」
「絶対だからね」
二人から強い圧が掛けられた。
そうやってムシャムシャとカマキリを食べていると、例のアビリティが発動した。
『【零一郎】
Blade Ability《ホワイト・コネクト》発動
MP 18/19(+1) 魔法防御6(+1)
Skill《カマキリスラッシュ》を獲得しました』
『【クリス】
Ability《白絆の眷属》発動
MP 72/96(+1) 魔法防御35(+1)
Skill《カマキリスラッシュ》を獲得しました』
「おっ……」
《ホワイト・コネクト》によって、《カマキリスラッシュ》というスキルを手に入れた。
「……カマキリスラッシュ?」
「なにそれ?」
誰も分からなかったので、シェアリーの窓を操作してスキルの詳細を調べる。
『Skill;《カマキリスラッシュ》
カマキリのように斬撃を放つ。剣を逆手に持って、振る』
「逆手での攻撃スキルか」
「……ちょっとかっこいいかもじゃん」
クリスの男の子の心が刺激されていた。
「でもこれでもうカマキリを食べる必要なくなったよね! じゃあごちそうさま! コンソメスープでも飲んで口直ししよう!」
「現実逃避はよせ、クリス」
「ん。まだカマキリたくさんある」
「そーなんだよねーっ……!」
今日狩ったカマキリは複数体いる。
つまり、複数回《ホワイト・コネクト》が発動する見込みなのだ。俺は倒していないが、ブリジッタさんの子供たちが倒した分のカマキリの肉も貰ってきている。
まだお皿には大量のカマキリが積まれていた。
「いっぱい食え、おかわりもあるぞ」
「あ゛ーーーっ!」
やけくそ気味のクリスの叫び声が響き渡った。
「…………」
「……そ、そういえば今日クリスはクリスでダンジョンに潜ってたんだよね? どんなモンスターが狩れた?」
目の前の現実から逃げるように、フィアがクリスに話を振る。
ここでクリスが美味しい魔物をとってきてくれたのなら、食卓に喜びが生まれる。
そう思ってフィアがクリスに語り掛けたのだろうが……、
「……ゴーレムでしょ、ゴーレム、ゴーレム、あとマジックゴーレム」
クリスがアイテムボックスから今日の戦利品を取り出してきた。
「またゴーレムかよ」
「しょうがないじゃん! 今、僕がレベル上げしているのがゴーレム地帯なんだからっ……!」
仕方ないから、この前と同じようにゴーレムを粉末状にして飲み込む。
『【零一郎】
Blade Ability《ホワイト・コネクト》発動
HP 18/53(+2) MP 19/20(+1) 攻撃力16(+1) 防御力13(+1)
Skill《ロケットパンチ》がLv.2に上昇しました』
『【クリス】
Ability《白絆の眷属》発動
HP 48/71(+2) MP 76/97(+1) 攻撃力38(+1) 防御力17(+1)
Skill《ロケットパンチ》がLv.2に上昇しました』
腕を切り離して攻撃するという、人間には使えないスキル《ロケットパンチ》。
そのスキルレベルが無駄に上がってしまった。
「…………」
「…………」
「…………」
俺たちは黙々とカマキリの唐揚げとゴーレムの粉末を食べ続ける。
みんな下を向いて俯いている。まるでお通夜のような空気が漂っていた。
「……僕たちって、ずっとこうなのかな」
クリスがぼそっと、まるで未来に絶望した少年兵のようなセリフを口にした。
「……仕方ない。そろそろアレを出すか」
「ん?」
俺は席を立ち、厨房の方に移動する。
今日、俺たちが倒したモンスターは何もカマキリだけではない。
こんな空気になることは予想出来ていたから、メインディッシュを隠しておいたのだ。
厨房からとある料理を持ってくる。
「ほら! トライアングルアイズブルで作ったハンバーグだ! みんな大好き、ハンバーグだぞっ!」
「わーい!」
「やったー!」
「ハ、ハンバーグだぁっ……!」
「いやっほーい! ハンバーグだぁっ……!」
フィアとクリスが子供のようなはしゃぎようを見せる。
こうして俺たちの食卓にやっと笑顔が戻ってきたのだった。
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