41話 闇人
闇人。
それは神話の時代の魔神を復活させようとする闇の一族であり、人類の敵。
宝剣の進化を歪めて魔剣を作り出すことによって、闇人たちは魔神を蘇らそうとしている。
迷宮ギルドの応接間で、グレイスさんからそんな話を聞いていた。
「この宝剣の戦い、人類が勝てば宝剣は『聖剣』へと進化し、世界は光に満ち溢れます。しかし、闇人が勝てば宝剣は『魔剣』へと進化し、魔人は復活し、世界は闇に堕とされるのです」
「……人類には明確な敵がいるということですね」
「はい、その通りでございます、レイイチロウ様」
なんてこった。
この世界、思った以上に平和じゃなかった。
フィアが時々言う『正しい者が宝剣祭の勝者とならなければならない』というのは、闇人が勝者になってしまったら世界が破滅してしまうという意味もあったのか。
「そしてその闇人との戦いに備えるために作られたのが『闇人対抗戦線委員会』。人類側の宝剣の戦いを監督し、秩序を維持し、調整し斡旋し、闇人に対抗できる強い戦力を生み出すことを目的とした組織です」
「宝剣の戦いを、監督?」
戦いを監督するとはどういうことだろうか。
グレイスさんが口を開く。
「はい、宝剣祭を順当に行っていけば担い手たちは自然と強くなっていきます。勝ち残った者が更に強い者と戦い、より高みへと昇っていく。……しかし、そうした流れから外れる決着というものがあります」
勝者がより力を付けるという流れから外れた宝剣の戦い……。
グレイスさんが何を言いたいのか、理解する。
「……搦め手の使用ですね」
「その通りです」
彼は小さく頷いた。
「例えば、人質を取った上で相手の宝剣を壊す。あるいは金の力に物を言わせ、相手を脅して宝剣を壊す。貴族が地位を利用して、相手に何もさせずに宝剣を壊す、などなど……」
「戦わずに勝つわけですね」
「宝剣祭の性質上、これでもクラウンポイントは入って宝剣を成長させることが出来ます。しかし闇人との戦いを考えた時、搦め手ばかりが強くて実力のない担い手が増えては人類全体として困るのです」
確かに。
闇人との決戦の時、人類側で最強の宝剣を持つ者が、実は戦闘経験の無いへなちょこだったではヤバすぎる。
「もちろん、搦め手も宝剣の戦いの上では重要です。宝剣祭は基本ルール無用の戦い。搦め手の知識のない者が勝利し続けられるような甘いものではない」
「しかし、そればかりに偏られては困る、というわけですね?」
「そうです、そこが重要なのです」
グレイスさんが言葉を続ける。
「そのために闇人対抗戦線委員会が存在します。なるべく健全な宝剣祭を進行させるために、出来得る限りの管理を行っているのです」
「人類が闇人に勝利できるように……」
「その通りです。そしてその一環として、今回のような事情聴取があります。宝剣の戦いで卑怯な行為が行われていないか、過度な犯罪行為が行われていないか、一般市民に被害が出ていないか、などを重点的に調べております」
なるほど、やっと話が繋がった。
俺たちが今日ここに呼ばれた理由は、その調査というわけだ。
「それで? 今回の俺たちの戦いに何か問題はありましたか?」
「なにも。バックス様の奇襲に関しましても、その程度は何の問題にもなりません。搦め手の内にも入りません」
まぁ、そうだろうな。
宝剣祭は本質的にルール無用の戦いなのだ。色々な話はあったが、その制限もかなり緩いに違いない。
「そういうわけで、我々闇人対抗戦線委員会は健全な宝剣祭の進行を目標として組織運営を行っております」
「ありがとうございます、良く分かりました」
頭を下げる。
俺の質問に対して明確な回答が返ってきたのだった。
「…………」
だけど、そうだ。俺にはもう一つ分からない単語があるのだった。
「質問を重ねて申し訳ありませんが……さっき言っていた『十二烈士』というのも教えて頂けたら嬉しいのですが」
「あっ……」
あっ、て言われた。
彼の反応から察する。これも非常識な質問だということだろう。
確かクリスがグレイスさんを紹介する時、『十二烈士』のグレイスさん、みたいな形で紹介していたと思うが。
「レイイチロウ様は記憶喪失とのことですが……もしかして、『六王剣』や『八罪将』のことも覚えておられないのですか?」
「お、覚えていません」
「そ、そうですか……これは失礼致しました……」
グレイスさんが頭をぽりぽりと掻く。
横でクリスも、そっかぁ、知らないのかぁ、みたいな顔をしている。
分かってますー。自分が無知蒙昧だってことー。
「それでは……『十二烈士』の前に、『八罪将』から説明した方が分かり易いですかね」
「痛み入ります」
「『八罪将』は……まぁ、簡潔に言ったら闇人側の最強の八人のことです。闇人の中でも強力な力を持ち、種族全体を率いています」
闇人側最強の八人……。
「闇人の幹部、みたいなものでしょうか?」
「はい、そのようなものです」
種族だから幹部って表現も違うかもしれないが、国にとっての重鎮みたいな感じだろう。
「『八罪将』は恐ろしいほどの力を有しており、並の宝剣使いでは太刀打ちできません。宝剣レベルも7とか8とかあるようで、もう少しで『魔剣』へと至るレベル10になってしまうと言われています」
「それはまずいじゃないですか」
「しかし、心配には及びません」
「……ん?」
心配を煽るようなことを言っておきながら、グレイスさんは不敵に微笑む。
「人類にもいるのです。敵の『八罪将』に対応する、人類最強の六人の宝剣使いが……」
「人類最強?」
「その名を『六王剣』といいます」
人類最強。
六人の宝剣使い。
『六王剣』の話が始まった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます