12話 Blade Ability《ホワイト・コネクト》
『Blade Ability 《ホワイト・コネクト》発動
HP 18/29 (+4) MP 4/6 (+2) 攻撃力8 (+1) 速度6 (+1)
Skill 《深呼吸》を獲得しました』
先程、夕飯を食っていた時のことである。
上記のようなメッセージウィンドウが出てきて、俺に何かを知らせていた。
あの時は燻製を作るために忙しく、何かを語ろうとしていたフィアの話を無視して俺は仕事を始めてしまった。
そして今再びそのことを話題に出すと、フィアが自信満々に胸を張りながら大声で喋り始めたのである。
「ブレイドアビリティ《ホワイト・コネクト》! それは私の剣の能力! 私の最強の能力なのっ……!」
「私の剣の能力?」
「『宝剣』には一本一本、特別で強力なスキルが付与されているの!」
フィアがふんと鼻を鳴らす。
彼女の講義が始まった。
「ある宝剣には力強い攻撃スキルが! ある宝剣には不思議な魔法スキルが! 宝剣の担い手には、普通では手に入れることが出来ないような強力なスキルを使えるようになる! それが宝剣の凄い点なの!」
「強力なスキル?」
「そう! 宝剣特有の強烈なスキル同士がぶつかり合い、熾烈な戦いを繰り広げることこそ、聖剣を決めるこの戦いの大きな特徴! 宝剣の持つスキルは普通のスキルとは一線を画す存在なの!」
薄暗い空間の中に、フィアの声が綺麗に通る。
今日一番テンションの高い彼女の姿がそこにあった。
「そして、私の剣の能力名は《ホワイト・コネクト》! その能力は、なんとっ……!」
「なんと?」
「色々と条件が揃うと、その相手の能力やスキルを自分のものに出来るの! すごいでしょぉっ!」
彼女が大仰に両手を広げる。
相手の能力を自分のものにする……?
「色々と条件、というのは?」
「例えば、倒したモンスターを食べるとか!」
なるほど、話が見えてきた。
つまり俺はあの時、ヘビを食べたためにヘビの能力を手に入れたのだろう。『攻撃力8(+1)』とか書いてあったから、ヘビの能力値を一部獲得することが出来たのだ。
そして、得られたのは能力値だけではない。
『Skill 《深呼吸》』も得たと書いてある。
……《深呼吸》?
「この私の能力なら、他の宝剣の能力と十分以上に渡り合っていけるはず!」
「…………」
「だってモンスターと戦って食べるだけで、たくさんのスキルと能力を手に入れられるんだもん! 普通スキルを新しく手に入れようと思ったら、とんでもない修練が必要なんだよ!」
フィアが自分の力を熱くアピールしている。
俺は彼女の話を聞きながら、自分のステータス画面を出現させる。
操作の仕方はさっきフィアに教えて貰った。
空中で四角形の図形を描くように人差し指を動かす。すると、ちょくちょく出てくる青白い半透明のウィンドウが浮かび上がってくるのである。
後は、地球で言うタッチパネルのようにメッセージウィンドウに指を当てると操作が出来た。
ゲームっぽい世界だとは思っていたが、ステータス画面を出すことが出来るなんて本当にゲームらしい。この世界の在り方に、頭が痛くなってくる。
兎にも角にも俺はステータス画面を開き、『Skill 《深呼吸》』なるものの詳細を調べてみる。
「たくさんのスキルを簡単に手に入れられる私の剣の能力は最強なんだから!」
フィアが今日一番のドヤ顔となったところで、『Skill 《深呼吸》』詳細情報が現れた。
『Skill;《深呼吸》
深く息を吸って、吐く』
「…………」
「…………」
二人で俺のメッセージウィンドウを覗き込みながら、無言になる。
……これは、あれだ。
ただの深呼吸だ。
別に何か特殊な呼吸法とかいうわけではなく、ごく普通の深呼吸である。
そういうことだよな?
あのヘビは《深呼吸》が得意で、俺はそれを手に入れたってことだよな?
そう言えば確かに、あのヘビは所々深く息を吸ったり吐いたりしていた。
しかし、別に何が起きた訳でもなかった。
「…………」
「…………」
つまり、外れスキル?
「…………」
「……いや、ええと……レーイチロー……、あのね?」
フィアがおろおろとし始める。
でも冷静に考えれば、確かにそうかもしれない。
低レベルのモンスターが貴重なスキルなんて持っているはずないのだ。
そもそも強いスキルなんか持ったモンスターなんて、一般人Aである俺が倒せるはずもない。そのスキルで俺は殺されてしまうだろう。
だからあのヘビが強いスキルを持っていなかったのは、むしろ俺にとって幸運だった。
「……フィア」
「な、なに……?」
それはさりとて、俺は言う。
「申し訳ありませんが、今回の契約は見送らせて下さい」
「違うのおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ……!」
俺は頭を下げ、フィアは絶叫する。
「違うのっ……! 私の《ホワイト・コネクト》の能力は本当に優秀なのっ! 今回はたまたまあのヘビが弱いスキルしか持っていなかっただけなの! 本当はもっとすごいスキルをたくさん得られる能力なのっ……!」
「申し訳ありませんが、今回はご縁が無かったということで……」
「違う! 違うの、レーイチロー! ねぇ、待って……!?」
「フィア様のより一層のご活躍をお祈り申し上げます」
「違うのおおぉぉっ! こんなんじゃないのおおおおぉぉっ……!」
フィアが慌てて両手をぶんぶんと振る。
今回、俺は《深呼吸》なんていう微妙なスキルしか得られなかった。
はっきり言って、たいした戦力にはならないだろう。
「本当なのっ! 本当に私の能力は優秀なのっ……! 無能じゃないの! 信じて、レーイチロー!」
「いや、そこを疑っているわけじゃないんだ……」
「え?」
だが、俺はフィアのこの能力が無能だと思っているわけではない。
むしろ優秀。彼女の言う通り、最強に近い能力であると言っても過言ではない。
ちゃんとそう思っている。
この剣の能力は強い。それは間違いない。
この能力で長く修練を積めば、戦いを勝ち抜くことも夢じゃないだろう。
「この剣の能力はとてもつもなく優秀。それはしっかり分かっている」
「な、ならっ……!」
「でも残念ながら、俺ではそのフィアの能力を活かすことができないんだ」
「え……? 活かす?」
「俺ではこの能力の良さを十分に引き出せず、この聖剣の戦いを勝ち抜くことは出来ないんだ」
フィアが目をぱちくりとさせる。
俺は説明を始めた。
「まず前提として、この《ホワイト・コネクト》の能力は使えば使うほど自分を成長させるスキルだと考えていいか?」
「うん」
「つまりこの《ホワイト・コネクト》によって、モンスターとかのスキルをどんどん手に入れて、がんがん強くなっていく。そうやって自分を強化していくための能力だ」
「うん、そうだよ。だからすごく強いの」
フィアがこくこくと頷く。
「つまり、中盤から終盤にかけて大きな効果を発揮するスキルだと言える」
「うんうん」
「逆に言えば、序盤はあまり強くないスキルとも言えてしまう」
「…………」
彼女は唇を小さく尖らす。
それでも別に口答えをするでもなく、フィアは真剣に俺の話を聞いてくれていた。
「そこで、俺のステータス画面を見てくれ」
「うん?」
そこで、俺はまた自分のステータス画面を出した。
そこにはこう書かれている。
『名前;零一郎 種族;人間
Lv.1 HP 21/29 MP 6/6
攻撃力8 防御力6 魔法攻撃力1 魔法防御力2 速度6
クラス;――
スキル;《深呼吸》Lv.1
アビリティ;《ホワイト・コネクト》Lv.1
Crown Point;0
Base Point;81』
クラスとか、クラインポイントとか考察しなければいけないことは色々あるが、今大切なのは一点だった。
「俺のレベルを見てくれ」
「1……」
Lv.1
最弱中の最弱。
別の世界から来たからなのか、今俺は全く育っていない子供のような存在であった。
「最弱の男に、序盤はあまり強くないスキル。……後はもう自明だな」
「…………」
「つまり俺はこの宝剣の戦い、最序盤を生き抜くことが出来ないんだ」
「~~~っ!」
俺の説明に、フィアの顔が引き吊る。
悲しい現実がここにあった。
もし、この世界の全ての人間がLv.1で、ヨーイドンのスタートだったら勝ち目もあったかもしれない。
しかし、現実的に考えるとそうではないはず。
この世界で普通に暮らす人たちはもう既にレベルが20とか30とかある状態で、更にその上宝剣の強力なスキルを持つのだ。
端から俺に勝ち目など無い。
「フィアの能力は、今現在の時点である程度の実力を持っている人が扱えばもの凄く活きてくるのだろう。序盤を生き残りつつ力を蓄え、戦いの終盤に備える。それが理想の形だ」
「で、でも……」
「例えば今俺が『周囲一帯を炎で包む』ような強力な攻撃スキルの持ち主に出会ったら、どう防ぐ?」
「……死ぬ」
「まさにその通りだ」
どうするもこうするも、防ぐ手段は何一つない。
死ぬ。
極めてシンプルだ。
まさに今この場で戦いが起こったら、《ホワイト・コネクト》の能力は何の役にも立ってくれないのだ。
むしろLv.1の俺にとって必要だったのは、超強力な攻撃スキルとか超強固な防御スキルとかだったのだろう。
その方がまだ生き残る可能性があった。
「という訳で、申し訳ありませんが、自分には君のスキルを十分に生かすことが出来ません。今回はご縁が無かったということで……」
「嘘だああああああああぁぁぁぁぁぁっ……!」
俺は頭を下げ、フィアが頭を抱える。
最強格の能力《ホワイト・コネクト》。
でも俺にはかなり相性が悪い。
というより、Lv.1の俺に合う能力なんて何も無いだろう。
やはり、Lv.1の俺ではこの戦いを生き抜くことはできそうにない。
「というわけで、俺はこの宝剣の戦いには不参加ということで……」
「嘘だああああああああぁぁぁぁぁぁっ……!」
薄明かりが広がるぼんやりとした暗闇の中。
今日もう何度目だというのだろうか。フィアの悲鳴が響き渡るのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます