ハニワ└|∵|┐になった幼馴染みを元に戻すために必要なのはキス!?

秋月一歩@埼玉大好き埼玉県民作家

┌|∵|┘


 それは突然だった。


「た、助けて、行人(ゆきと)くんっ!」


 隣に住む幼馴染、土器山羽爾衣(どきやまはにい)が俺の部屋のドアを激しくノックしてきた。すごい切羽詰まった声だ。


「どうしたんだ、羽爾衣」

「い、いいから、開けて!」


 ただならぬ様子の羽爾衣に気圧された俺は読書を中断してドアを開けた。

 そこには――。


「なっ!?」


 目の前にいたのは羽爾衣ではなくハニワだった。

 顔文字で表現すると、これ(↓)だ。


┌|∵|┘


 しかも、人間サイズの大きさだ!

 本来の羽爾衣は金髪ロングヘアーの日英ハーフ超絶美少女なのだが……。


「ど、どうしよう、行人くん! わたしハニワになっちゃった!」

「そんなバカな……」

「そんなこと言ったって、こうなっちゃったんだよ!」


 その姿はどう見ても土器。人間味を感じられない。


 ちなみに羽爾衣の親父さんは世界を股にかける著名な考古学者である。

 土器や石器について研究していたはずだ。


 羽爾衣の家には巨大な土器もあった。だから、もしかすると現地から持ってきた着ぐるみ的なナニカではないのか? と思う。


「冗談だろ? かぶりものだろ?」

「ち、違うよ、本当にこうなっちゃったんだよ!」


 ハニワの手をワタワタさせながら羽爾衣は必死に訴える。


((└|∵|┘))


「ちょ、ちょっと触っていいか?」

「えっ? う、うん……ちょっとだけなら……」


 俺は羽爾衣の身体の前面を両手で触ってみた。


「そんなところ触らないで! えっち!」


 ハニワの手が飛んできて殴られた。

 痛い。硬い。冷たい。

 この感触はどう考えても土器。


「……なんでこんなことになったんだ? 心当たりは?」

「うーん……心当たりと言えば……お父さんの集めてる土器の置いてある土器ルームに行って土器で遊んでたんだよね……ハニワを使ったお人形さんごっことか……」


 さすが羽爾衣。超絶美少女なのに、根暗で内向的だ。

 高校生にもなってハニワでお人形さんごっことは……。


 まあ、羽爾衣はあまりにも超絶美少女なので男に言い寄られることが多く、結果として男性恐怖症・学園恐怖症になっているのだ。今でも俺以外の男とはしゃべれない。


「わたし、このままハニワのままだったら、どうしよう……」


 羽爾衣はオロオロしてうろたえる。

 しかし、ハニワなので動きが滑稽だ。


((└|∵|┐))=((┌|∵|┘))


 しかし……ハニワって、かわいいな……。

 俺にハニワ趣味はなかったのだが、これはなかなか……。


「……ハニワってかわいかったんだな……」

「真剣に考えてよ! って、わたしの魅力ってハニワ以下だったの!?」


 と言われても、まさかこんな異常事態が起こるとは……。


「どうしよう、どうしよう……」


((└|∵|┐))=((┌|∵|┘))


「うーん……なんかの童話でカエルになる呪いをかけられた人間にキスをすると戻るとかってなかったっけか……?」

「えぇっ!?」

「……うろ覚えだが、そんな物語があった気がするな。キスするとカエルが王子に戻るんだったか……」


 まあ、そんな童話が今の状況に応用できるかはわからないが……。


「……! そう言えば、確かに聞いたことがあるかも……グリム童話だったっけ?」

「そこまでは覚えてないが、そんな童話があったのは確かだな……」

「……で、でも、キスなんて……だけど、このまま元に戻れなかったら困るし……」


 羽爾衣は再びオロオロし始める。


((└|∵|┐))=((┌|∵|┘))


 うん、ハニワかわいい。


「……って、なんでそんなかわいいものを見る瞳なの!? いつもわたしに対してそんな目で見てないのに! わたし土器以下なの!?」


 人間状態の羽爾衣は超絶美少女なのだが、俺はそんな目で見ないようにしていた。


「……いや、羽爾衣は子どもの頃から告白の嵐で男性恐怖症になってただろ……だから、俺がそんな目で見るわけにはいかなかったんだ」


 同じ年齢だが、俺は羽爾衣のことを妹のように見るように心がけてきた。

 そして、その試みは成功した。

 だから、恋愛感情は芽生えないようになっていたのだ。


「……そ、そうだよね、ごめんね。行人くん、わたしのこといつも守ってくれたもんね」


 小学生くらいの頃はまだよかったが、中学になってからは羽爾衣に強引に迫ってくる者もいた。俺は、そういう奴らに対応するためにも小4の頃から武道を習って鍛錬してきた。妹のような存在の幼馴染を守るために。


「……しかし、どうしたものかな……親父さんは外国に行ってるんだよな?」

「う、うん……。連絡とれない場所にいると思う……たぶん今、アマゾンの奥地……」


 こうなると俺たちで解決するしかないか。


「……ね、ねえ……さっきの話だけど……試してみてもらって、いいかな……?」

「えっ…………つ、つまり、キスしろってことか……?」

「う、うんっ……そ、それしか方法思いつかないし……」


 なんということだ。ファーストキスの相手がハニワになるのか。

 いや、中身は羽爾衣なのだが……。

 改めて、ハニワ(羽爾衣)に向き直る。


└|∵|┐


 ま……まぁ、生身の羽爾衣にキスするよりは難易度は低いか。


「じゃ、じゃあ、ハニワ……いや、羽爾衣……試してみるか」

「う、うんっ!」


 俺はそのまま羽爾衣に顔を近づけていった。

 アップになるハニワの顔。

 そして、その窪んでいる口の部分に――自らの唇を押しつけた。


Σ└|∵|┐


「ひゃうぅ……行人くんとキスしちゃってる……」


 いや、声出さないでほしいんだが……。

 ともかく俺は土器の硬くて冷たい感触に唇に押しつけ続けた。


「わわ……な、長い、長いよっ……!」


 ……そろそろ、いいか……。

 俺はゆっくりと唇を離して、後ろに三歩ほど退いた。


「ど、どうだ……?」


 俺はハニワに注視した。

 すると――。


((└|∵|┐))


 ハニワが小刻みに震え始めた!


「戻れ! 人間に戻るんだ羽爾衣!」


(((└|∵|┐)))


 羽爾衣から返事はない。

 ただ、ハニワの振動はさらに大きなものへ変化する。

 さらに土器が黄金色に輝き始めた!

 

「うおっ、まぶしい……!」


 思わず両目を右手でかばった。

 その間にも、ふぃいーーん……という謎の音まで聞こえてくる。


「羽爾衣、無事か!?」

「……う、うんっ……だ、大丈夫」


 ようやく光が収まったようなので、俺は手を下ろした。

 そこには――。


「え?」


 ……全裸の羽爾衣がいた。


「へ?」


 羽爾衣は視線を下ろして自らが素っ裸であることに気がついた。


「きゃああああーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!?」


 羽爾衣は悲鳴を上げながらしゃがみこんだ。

 俺も慌てて羽爾衣から顔を背けて、壁のほうを向いた。

 

「……び、びっくりした……! けど、元に戻れてよかったよ……」

「……お、おう……そのようだな……よかった」


 ちなみに羽爾衣は巨乳である。

 すごいものを見てしまった……。

 胸が土器土器……いや、ドキドキする。


「な、なにか着られるもの出すから!」

「う、うんっ……」


 キョドりつつもタンスから羽爾衣でも着られそうなシャツとズボンを取り出し、後ろ手で羽爾衣に渡した。


「あ、ありがとう……」


 そのまま羽爾衣が服を着るのを待つ。

 やがて――。


「着替えたから、もう振り向いてもいいよ」

「お、おう……」


 羽爾衣の許可を得て、俺は振り向いた。

 俺の服を着た羽爾衣は――顔を赤くしながら、ペタンと女の子座りしていた。


「ごめんね。なんだか色々ありすぎて立つ気力ないよ……」

「……まあ、なんとか元に戻れてよかったな……」


 まさか本当にキスで元に戻れるとは。

 まあ結果オーライだ。


「……とりあえずお茶でも飲んで饅頭でも食べるか……」

「う、うん……」


 まずは温かいものと甘いものを摂取して心を落ち着けたほうがいい。


 俺は台所に行ってお茶と饅頭(日英ハーフの金髪美少女なのに羽爾衣は饅頭が好物なのだ)を用意して二階の自室に戻った。


「ほら、羽爾衣の好物の饅頭だぞ」

「わあ、ありがとう♪」


 そのあとは一緒に座布団に腰を下ろしてお茶を啜り、饅頭を食べた。


「ふぅ……♪ ようやく落ち着いたよ。ありがとう、行人くん」

「ああ、ほんと、びっくりしたけどな……」


 テーブルを挟んで向かいあってので、つい羽爾衣の唇に視線がいってしまった。

 しかし、まさかファーストキスがハニワ(羽爾衣)になるとは……。


「あっ……え、えっと……」


 俺の視線に気がついて、羽爾衣は居心地悪そうにする。


「ご、ごめん!」


 俺としたことが、つい羽爾衣の唇をガン見してしまった。

 だって、唇の形が良すぎるんだから仕方ない。

 というか、やはり羽爾衣を異性として意識してしまっていることを認めざるをえない。


「……ごめんね、行人くんのファーストキス、ハニワになっちゃって……」

「いや、あれはノーカウントだろ……」

「で、でも、わたしの視界に映ってたのは完全に行人くんの顔だったし! く、唇の感触もわかっちゃったし!」


 いや、そんなふうに言われるとこっちが恥ずかしくなってくるんだが!

 しかし、そうか……羽爾衣側からすれば完全に俺がファーストキス相手なのか……。


「いや、俺のほうこそ謝るべきだな。ファーストキスの相手が俺になっちゃって……」

「う、ううん! 謝る必要なんてないよ! むしろ、その、ごめんなさい……!」

「いや、羽爾衣が謝ることもないだろ……ともかく茶を飲もう」


 俺はごまかすようにお茶に口をつけた。

 羽爾衣も、うつむきながらお茶を飲んでいたが――急に俺のことを見つめて口を開いた。


「き……キス、やり直そっか?」

「ごほっ、げほっ……!」


 羽爾衣の提案に思わずむせてしまう。


「な、なに言ってんだよ……」


 しかし、羽爾衣は真剣そのものだった。


「なんだかこのままだと不公平な気がするし……」


 なんだその理屈は……。

 でも、俺からするとハニワにキスしただけなんだよな……完全に土器の感触だったし。


「……か、感謝の意味もこめて……え、えっと……します!」


 そして、変なところで頑固な羽爾衣は決意のこもった表情で俺を見つめてきた。


「え、いや、無理しなくていいというかもっと自分を大事にしたほうがいいというか」

「わ、わたし、行人くんに十分に大事にしてもらってるよ……だから、するね!」


 羽爾衣は立ち上がって移動すると俺の横に正座する。


「ま、待てっ、羽爾衣」

「……んっ!」


 羽爾衣のほうに顔を向けた瞬間、向こうから唇を押しつけてきた。

 それはもろに俺の唇に接することになった。

 接吻――つまり、完全にキスである。


「……っ……! わわわっ、しちゃった!」


 羽爾衣は唇を離すと、顔を真っ赤にして唇を押さえる。

 ……ほんと、羽爾衣は変なところで大胆だ。


 しかし、今度こそ生身の羽爾衣とキスをしてしまったわけだ。

 ハニワの土器土器しい感触とは違う柔らかい唇! ドキドキする!


「……きょ、今日はもう帰るね! ありがとう! 服はあとで洗って返すから!」


 急に恥ずかしくなったのか、羽爾衣は立ち上がると逃げるように部屋から出ていった。


「……人生なにがあるかわからないものだな……」


 その一言で済ませていいのかどうかわからないが、俺はこうして幼馴染とファーストキスをしたのだった。


 まさかハニワがキューピッド的な役割を果たすことになるとは――。


 今までハニワを不気味な人形としか認識してなかったが、俺はハニワの存在を見直したのであった。

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