第6話 事情聴取

 私たちは乗務員室へ入った。乗務員に事情を伝えて、中林という人物を確認してもらった。その名前で「オリエンタル鉄道悠悠プラン」に申し込みがあったことが確認された。そして、私は先ほどの家族に事情聴取を開始した。

「まずはお名前をお聞きしましょうか。落ち着いて、話して下さい」

 この家族は渡辺さん一家、主人の渡辺健司さん、妻の理子さん、そして息子の浩くんだった。健司さんが質問に答えてくれた。

「……はい、四週間くらい前に、平蔵が行方不明になりました。それから数日後に、家のポストに封筒が投函されていました。中には、平蔵の写真と、このメモが入っていました」

 健司さんはポケットからメモを取り出した。新聞の切り抜きの文字を貼り合わせたもので、



  平 蔵 は あ ず か っ た

  現 金 一 千 万 用 意 し ろ

  警 察 に 知 ら せ た ら 平 蔵 の 命 は な い

  catcat ……mail.com



と書かれていた。

「このメールアドレスにメール送ったら、今日の『オリエンタル鉄道悠悠プラン』に申し込めという指示がありました」

「で、警察にはそのことは?」

「……話していません」

「そうですか」

 私は紅茶を飲んでいる時に拾った脅迫状を取り出した。

「これをさっき、最後尾の展望車で見つけました。確か、長いすの私の隣に座ったのが三人家族だったので、探していたんです」

「あっ、私が落としたものです……」

 理子さんが言った。

「それ、乗車した後で、私のポケットにいつの間にか入れられていたのに気づいたんです」

 健司さんが言った。

「では、誘拐された平蔵さんについてお聞きします。年齢、外見的特徴とかを」

「……はい、平蔵は、12歳です。身長はおそらく50センチくらいかと」

「……は?」

「体重はそうですね、5キロくらいだったと思います」

「……は?」

「色は茶色で」

「……は?」

 メモを取る私の手は完全に止まっていた。大村さんは不思議そうな顔をしながら尋ねた。

「あのー、ペットでしょうか?」

 その瞬間、家族三人が大村さんを睨み返した。

「ペットなんかじゃありません! 大事な家族です!」

 理子さんが怒った。

「あ、も、申し訳ありません! 大変失礼しました!」

 大村さんは半泣きになりながら謝った。

「平蔵は猫です。でも大切な家族の一員なんです!」

「猫ですか……」

 大村さんがふと呟いた。

「猫で悪いんですか!?」

「あ、いえ、そういうわけでは。私、犬派なもので……」

「そんなことどうでもいいでしょ!」

「大変申し訳ありません……」

 大村さんは半泣きで謝った。

「……現金の受け渡し方法は?」

「はい、メールが送られてきました。金の受け渡しは、最後尾の展望車の中で行われる覆面バイカーのコスプレショーでという指示です。ショーの最中に覆面バイカーと怪人どもが格闘する場面があり、その時に怪人に変装したやつに、乗車の際にもらったお土産の袋に金を入れて渡せということでした。渡すのは子どもで、親は個室で待機しておけということです。仲間が監視しているということでした」

 渡辺健司さんがスマホのメール画面を見せてくれた。

「わかりました。で、現金はどちらに?」

「ここにあります」

 健司さんがジャケットの胸ポケットから封筒を取り出した。

「後のことは警察にお任せください。このスマホですが、こちらで預からせていただけますか? 現金はそちらでしっかりと保管しておいて下さい」

 悲痛な表情の家族の横で、私は村田係長に電話して事の詳細を伝えた。係長はT県警からN県警に応援を要請するということだった。しかし、この列車の中で刑事は私しかいないので、自分で事件を解決しようと決意した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る