20.神保ヒロト その2

 僕はまあまあ恵まれていると感じている。


 まずチームの女子がみんな可愛かったからだ。小島サキはモデルみたいに美人だし、落ち着きがある。星アヤナは胸がおっきいし、握手したときのやわらかい手の感触がまだ残っている。芝原スズカはかわいい上に話しやすい。挨拶の勢いでなんか下着も見せてくれた。


 よくアニメだとそういうのに興味がない感じのキャラがいるけど、僕には無理だ。素直に「下着見れたラッキー」と思ってしまう。


 男子もいい。タクはちょっと怖そうな見た目だけどフレンドリーに話しかけてくれた。ケイスケは年下で気軽に話せそうだし、何より頭がよく、そして料理が上手かった。




 部屋に荷物を置き、Aチームのキッチンに集まった僕たちは、タクの発案に乗った。ひとりずつ質問していき、その質問に全員が答えるというものだ。


 それで色々わかったことがある。




 僕を除いた全員が『雪』クラスに満足せず、Sランクを目指していること。正直、星アヤナはそういうタイプではないと予想していたのに、意外だった。僕もみんなの流れでSランク目指しているって言ってしまったけど、仕方ない。




 他には、出身中学も、進学先高校もみんなバラバラということ、本当かどうかは知らないが恋人は誰もいないということ、みんなが第二次選抜までで大体何点くらい取ったか、なども話した。ケイスケが1000点を取ったことにみんなは衝撃を受けていた。僕はやっぱり上に行く人は凄いなという感想しか湧かなかった。




 唯一驚いたのは、タクの質問だ。


「これは言いたくなけりゃ嘘ついて構わないし、具体的には聞かねえ。それで信頼しない、協力しないってこともない。みんなは隠れネクストか? あんまし使えねえ能力だが、俺は隠れネクストだ」




 みんなも固まっていた。隠れネクストが多いというのは公然の秘密だ。毎年13歳から15歳の0.2%である約2000人がネクストとして報告されている。ただ実際は1%近く、約1万人いるだろうという話だ。


 要は毎年8000人くらいの隠れネクストが誕生しているということ。彼らは親しい者にしか言わず、場合によっては親しい者にさえ言わずにその能力を行使しているという話もある。隠れネクストによる犯罪も毎月のように起きているから、僕はそれほどいいイメージを持っていない。


 誰かが自治体に「前橋タクは隠れネクストだ」と報告すれば、すぐに政府の人間が飛んでくることだろう。別に普段の生活を制限されるわけでもないし、監視されるってこともないらしいけど、年に一度検査を受けなければならないと聞いたことがある。




「僕はネクストじゃあないよ、まだ13歳だから今後はわからないけどね」


 ケイスケが答える。嘘をついているかもしれないが、年齢を考えるとネクストではない確率の方が高い。


「私もネクストじゃないよー、証明できないけどー」


 飛び跳ねながら星アヤナが言う。やめてくれ、胸に目が行ってしまう。


「私はネクストだよ」


 全員の目が一斉に向く。視線の先は芝原スズカだ。


「隠しているというよりは、国に注目されるのは何かやだなあって思っているだけなんだよね」


 芝原スズカが明るく付け加えた。結構爆弾発言だと思うが。


「私は残念ながらネクストじゃあないよ、目覚めたいけどね、三月生まれだから可能性はあるし」


 小島サキだ。三月が誕生日ということならまだ14歳。あと一年くらいは期待できるということか。




「僕もネクストではないよ」


 最後になってしまったが、僕も答える。みんな何も言わないが「だろうね」って視線に感じるのは気のせいだろうか。


 ともあれ、二人の隠れネクストがわかったのだ。




 そこから僕たちのチームは大きく前進した。心の距離はずいぶん近くなったように感じる。食事の準備も全員が協力し合った。芝原スズカのリクエストによりカレーを作ることになったが、分担し合いながら順調にこなしていく。特に「家で料理もしている」と答えたケイスケは慣れた手つきで作業を進める。


 こういう場面で普段は動かない僕も、ケイスケが巧みに指示を出してくれて、人参を切ったりお皿にご飯を盛ったりした。


 サポートの美江寺さんも「大学生のサークル合宿でもこんなにテキパキできないよ」と感心していたくらいだ。




 出来上がったカレーも美味しかった。食べながらみんなで中学校の話や習い事の話で笑い合う。連絡先も交換した。スマホがなかったからみんな紙に書いて渡すのがレトロでよかった。


 大岩先生も途中で会話に加わり、昔は部活動と言って放課後の学校単位で野球部やサッカー部として運動していたんだよ、と話してくれた。高国が始まってからは、地域ごとにクラブチームや地域のグループで活動する課外活動に変わったとも教えてくれた。僕は課外活動をあまり真剣にやってなかったから新鮮な話だった。


 大岩先生が去った後も僕はあまり会話に参加せず、専ら聞き役だった。それでも距離感はだいぶ縮んだと思う。タクと芝原スズカが話を盛り上げ、星アヤナや小島サキが反応する。いい形のコミュニティができていた。ケイスケも話を振られたら返していたものの、大岩先生をじっと見ていることが多かった。




 このチームの明るさと、高国1000点のケイスケがいれば、本当にみんなSランクに行けるのではないか。そんな思いがよぎる。




 僕もできる限りのことはやろうと決意した。

 

 ここまでが僕にとって恵まれていると感じた点だ。




 不安な点もあった。僕はあまり喋らない代わりに周りを観察する癖がある。ネクスト能力ではないからただ観察した感想でしかないのはわかっている。一応感じたことを心に留めておきたいだけだ。


 ひとつは僕たちAチームの星アヤナと小島サキの二人だ。


 自分を出せていないような気がする。隠していることや言えないことがあるのだろうか。とはいうものの、傍から見れば僕も自分を出せてないように見えるし、そもそも初日で心を許せる方が珍しいのだから、気にする必要はないかもしれない。




 もうひとつはBチームだ。腰くらいまである髪の女の子。川口アンジュと言っていたか。彼女はこちらをもの凄く敵対視しているように感じる。事あるごとにこちらを意識しているのだ。


 なんと言ったらいいのかわからないが、入試を受けに来ているという感じがない。昔見たボクシングの試合前のような独特の緊張感を纏っている感じというか、表現しづらい。


 何事もなければいいんだけど。


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