19.芝原スズカ その8

「ご存知の通り、第三次選抜はチームで行っていただきます」


 大岩先生が説明しだす。


 ざっくりまとめるとこんな感じだ。


 評価は350点満点。


 内訳は課題に対する発表が200点で、その他の項目で150点。その他は詳しくは極秘らしいが、リーダーシップ、サポートシップ、協調性、コミュニケーション、発想力などを含めた七個の項目で評価をしていくようだ。




 今日の流れとしては、これから各自の部屋に行き、ひととおりコテージ内の説明が終わったあとから本格的にスタートする。


 昼食の準備、昼食、課題の発表と相談、レクリエーション、夕食の準備、夕食、課題の相談、風呂などを含めた自由時間と進み、二十三時に就寝となる。


 翌日は六時半起床、朝食の準備、朝食、散歩、課題の相談、昼食の準備、昼食、課題のまとめと発表、先生からの講評を聞いて終了とのこと。大体十五時半には終わるらしい。




 評価の対象となる上で最も重要なものは発表だ。何せ200点の配点がある。これまでに学んできたことや経験を活かしてほしいと言っていた。


 ただ、それ以外にも食事の準備と食事、課題の相談をしている時間は真剣に取り組まなければならない。その他の項目をこれらの時間で評価するから注意してほしいと話していた。


 ちなみにスマホなどの通信機器はこのあと回収だった。充電器意味なかったな、と言うと、隣にいたケイスケが「受験票に書いてあったよ」と突っ込んできた。そうだったのか。私はポケットに入れていたスマホの電源を切り、バッグにしまった。




「何か質問はありますか? 答えられる範囲なら答えますよ」


 一通り説明を終えた大岩先生が尋ねる。私は特にないかな、と思っていたら後ろから声が上がる。


「はい。キッチンはAチームとBチーム共同で使うんすか?」


 手を挙げたのは同じチームの金髪だ。


「いえ、ここはキッチンが二ヶ所にありますので、チームごとに別々に料理できます。なお、食材はあらかた揃っていますので、その範囲内で作ってください」


「わかりました。ありがとうございます」


 意外と礼儀正しいぞ、金髪なのに。


「他に質問ありますか?」


「はい、課題を発表するときは口頭で行うんですか? それとも手書きで何かを書いてそれを発表する形でしょうか?」


 ケイスケを睨んでた髪の長い子が手を挙げた。確かにそれはそうだ、思考速度が早いと感心する。


「発表の際には資料を作ってもらいます。ただ、手書きではなくパソコンで表や文章を作ってください。それぞれのチームにネットに繋がらないノートパソコンを貸し出しますので、そちらでまとめたものに沿って発表してもらう形です。社会人でいうところの『プレゼン』ってやつですね。将来の役に立つ人材を発掘することが高国の目的ですから」


「なるほど。理解しました」


 髪の長い子は理解したようだ。私はプレゼンがいまいちわからない。何かをあげるってことだろうか。




「もう質問もないようですので、ここまでにしましょう。それでは各自名前の付いた部屋に行き、荷物や準備が終えたら戻ってきてください。十一時から各チーム料理のスタートですから、三十分後までに集合でお願いします」


 大岩先生の一言で解散となった。あれ、チームで集まった意味は?




「ね、みんな。とりあえずチーム内で簡単に自己紹介しない? せめて名前だけでも」


 勢いだ。私は動き始めたみんなに勢いで声をかけた。すると金髪が真っ先に反応する。


「そうだな、すぐにみんなで料理することになるし。俺は前橋タク。結構親しみやすいってみんなからは言われてるんでよろしくな」


 タクは笑顔を見せる。最も親しみにくそうな人が最初に自己紹介してくれた。金髪だし、背が高いし、怖そうな人が着てるコート姿だけど、案外いい人そうだ。流れを作ってくれた。ありがとう。


「僕は習志野ケイスケ。飛び級なんで今は十三歳です。できる限り役に立てるようがんばります」


 これまた笑顔で自己紹介する。さらさら髪が風になびく。ケイスケは私より背も低く、童顔というか実際幼いわけだけど、人畜無害な印象を与える。でも頼りないかというと逆だ。私より賢そうな感じだ。


「小島サキ。何としてもSランクになりたいので、みんなで協力しよう。よろしく」


 ベリーショート髪の子がサキ。改めて見ても細い。モデルみたいなスタイルだ。細身の白いパンツスタイルがカッコいい。肌も白くて少し健康状態が不安になるくらいだけど、目に力があるし、そんなことないのかな。Sランクになりたい気持ちは私も同じだ。


「神保ヒロトです。よろしくお願いします」


 普通だ。背も顔も普通だし、服装もパーカーに黒のパンツ。おいおい話していこう。


「星 アヤナですー。一生懸命足を引っ張らないようにがんばりますー」


 いるのか。ここまでテンプレっぽい子が。語尾を伸ばし、話し方はスロー。ふわっとしたピンクのスカートにベージュのニット。そして恐るべきはその巨乳。サキや私とは正反対だ。だいたいこんな寒いのにコートの前を開けているなんて、男にアピールしてるだろ。


 いけない。私の悪い部分が出てしまった。そうだ、モナミだってでかいじゃない! 気にすることなんてない。


「芝原スズカです。みんなと仲良くなって、チームワークでこの一泊二日の入試を乗り切りたいから、一緒にがんばろう! よろしくね!」


 盛大に深く礼をする。その拍子に手に持っていたバッグを落とす。横向きに落ちたバッグから零れ落ちる私のスマホ、そしてお気に入りの派手な黒とピンクの花柄ブラ。いい加減にバッグへ入れたせいで起きた不幸な事件。


 ケイスケはあわてて目を逸らし、タクは女慣れしているのか苦笑いをする。ヒロトはガン見。健全な中学生男子って感じ。サキはあんたも男にアピールしてるだろって目で私を見て、アヤナはあなたのサイズはそんなものなのねみたいな勝ち誇った表情で下着を眺める。




 いけない。私の悪い部分が出てしまった。


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