第二章 依頼

 二〇〇五年七月一日金曜日。すでに事件から一ヶ月が過ぎようとしていた。

 荻窪の自宅で、高原恵の父親・高原政信はただ一人放心していた。部屋の片隅にある仏壇には、真新しい位牌と恵の写真が飾られている。その横にあるのは数年前に亡くなった妻の位牌だ。本来であるなら自分が娘より先に妻の隣に逝くはずだったのに、何の因果か娘の方が先に妻の横に逝ってしまった。

 自分は何のために今まで必死になって働いてきたのだろうか。すべては家族のためだった。妻が亡くなった後は娘を育てきる事にすべてを注いできた。だが、それもすべて瓦礫のように崩れ去ってしまった。

 事件の後、仕事もまともに手につかなくなり、現在は休職していた。銀行側も事情を汲んでくれて比較的あっさりと休職を認めてくれたが、おそらくこのまま退職する事になるのではないかと思っている。幸い一人で食べていくだけの蓄えはあるが、それは家族を養うためにためたお金である。今となっては、自分が生きていく意味合いを見出せないでいた。

 本来なら、こんな事をしでかした犯人を恨むのが筋なのだろうが、一ヶ月経った今でも犯人の正体はわかっていない。今でも時々刑事が家を訪れてくるが、話を聞く限りどうも捜査はうまくいっていないようである。無理もない話だ。目撃者は誰一人おらず、犯人を特定する材料が何もない状態なのだ。政信も自分なりに犯人を特定できないかと考えてみた事もあるが、一時間もしないうちにさじを投げる事になった。

 今やこのやり場のない怒りを向ける矛先が定まらず、ただ家に引きこもって無意味に過ごすだけの毎日が続いていた。このままではいけない。それはわかっている。だが、何をしたらいいのかわからないのだ。犯人がわかれば、裁判を見に行くなりする事で踏ん切りがつくのだろう。だが、自分にはそれさえも許されないのである。犯人に復讐したくとも、感情をぶつけたくとも、その標的がわからない。こんなにもどかしい事はなかった。

「恵……お前は、誰に殺されたんだ……」

 無精髭を生やし、すっかり痩せこけた姿で政信は疲れたように呟いていた。事件の数日後に開かれた葬儀の事はあまり覚えていない。今も、娘の遺品を整理する気にもなれない。それをやったら、娘が消えてしまうような気がしているからだ。だから、娘の部屋はあの日からまったく手をつけていなかった。

「俺は……どうすればいいんだ……教えてくれ……」

 政信は頭を抱えて畳に突っ伏した。警察は当てにできない。だが、自分で復讐する事もできない。何もできない。これほどの苦痛はない。

 そんなときだった。突然玄関のチャイムが鳴り、政信は顔を上げた。葬儀以来、この家を訪れるのは刑事か不謹慎な事件ジャーナリストくらいである。またその類の人間かと思ったのだが、出ないわけにもいかない。政信はノロノロと立ち上がると、玄関に向かってドアを開けた。

「あ、あの、こんにちは」

 ドアの向こうには恵と同じ制服を着た女子生徒がいた。メガネをかけて真面目そうな子である。

「私、恵と同じ部活だった尼子凛と言います。その、恵ちゃんの事は……」

 政信はそんな彼女の事を見ながら、ぼんやりと考え込んでいた。確か、葬儀の席にそんな子がいたような気がする。

「あぁ、そうですか。それで、今日は?」

「えっと、お父さんにお渡ししたいものがあって、今日は部活の代表で来ました」

 政信はしばらく黙り込んでいたが、やがて疲れたように肩を落とすと、

「そうですか。とりあえず、お上がりください」

 と、凛を中へ招いた。凛は、失礼します、と中に入ると、まずは仏壇の前に行って手を合わせた。

「……ありがとうございます。一度は来なきゃいけないと思っていたんですけど、思った以上に時間が空いてしまって」

「いえ……それで渡したいものとは?」

 凛は黙って鞄からA4サイズの封筒と、何か新聞のようなものを取り出した。

「ご存知だと思いますが、恵は新聞部に所属して記事を書いていました。実は、昨日が文化祭で、本来ならこの新聞に恵も記事を載せるはずだったんです」

 そう言って、凛は新聞のようなものを示した。どうやら、それが昨日発刊されたばかりの新聞部の自作新聞らしい。

「彼女は都市伝説について調べているようでした。あの日……もう下調べはほとんどすんで、後は書くだけだって話をしていたんです。でも恵は殺されて……結局、その際に使うはずだった資料が部室にある彼女のデスクに残される事になりました」

 そして、A4の封筒を差し出す。

「これが、部室のデスクにあった彼女の資料です。実は、この資料をお渡しするかどうかで部内でもめたんです。こんなものを渡してもお父さんの悲しみを増幅させるだけじゃないかって。でも、やっぱり渡さなきゃと思ったんです。これは恵が生きて、ちゃんと新聞部に在籍していた証ですから」

 そう言って頭を下げる。

「これは恵の資料です。私たちも中は見ていません。だから、恵がどんな記事を書こうとしていたのか私たちも知らないんです。この内容は、お父さんだけが知るべきだと思います」

 政信はぼんやりとその封筒を眺めていた。

「こちらの新聞も差し上げます。本当は恵の記事が載るはずだったスペースに、ご勝手かもしれませんが新聞部一同の追悼文を掲載させていただきました。ご迷惑だったかもしれませんが、ぜひ読んでいただければと」

「そうですか……ありがとうございます」

 政信はそう言うのが精一杯だった。

「では、失礼します。その……犯人が逮捕される事、心から祈っています」

 それで、凛は帰っていった。政信の前には新聞と封筒だけが残された。

「恵の資料、か」

 政信はどうしたものかと考えた。本音を言えば、このまま開封しないまま彼女の部屋に置いておきたい。部屋の遺品さえ手につけていないのに、彼女が誰にも見せなかったというこの部活の資料を見るのははばかられたのだ。

 だが、同時にこうも考え始めていた。このまま停滞している事を恵は喜ぶだろうか。こんな憔悴した父を、彼女は望んでいるのだろうか。今になって出てきたこの資料は、そんな父親に彼女が前へ進めと発破をかけたものなのかもしれない。この資料を見る事で、自分は前に進めるかもしれない。

 政信は葛藤した。一時間ほどその場で無言のまま悩んだ。だが、結局は後者の考えが勝った。このまま止まっていても恵は悲しむだけだ。なら、この封筒を開けることでけじめをつけよう。そう考えたのだ。

 政信は意を決したように頷くと、封筒を手にとってその封を開けた。中からは、何枚もの資料があふれ出してきた。

 だが、その資料の冒頭に記された文字を見た瞬間、政信の表情が変わった。

「これは……」

 そこにはこう書かれていた。

『都市伝説「復讐代行人」についての一考察』

 復讐代行人。聴きなれない言葉に、政信は当惑した。恵は何を調べていたというのか。政信は、自然と次の資料へと手を伸ばしていた。そこには鉛筆で書かれた記事の下書きらしい文章が、普段の彼女からは考えられない記事用の硬い口調で書かれていた。

『古今東西、様々な都市伝説が語り継がれているが、その中でも今一番話題になっているのが「復讐代行人」という都市伝説である。それについて論じる前に、まずはこの「復讐代行人」なる都市伝説がどのようなものなのかを説明しておこう』

 政信は息を呑むと、次の文章に目を通した。

『復讐代行人とは、文字通り復讐を代行する人間である。つまり、依頼主が復讐したいと考えている人間を、依頼主に代わって粛清するというのが仕事である。ただし、この復讐代行人は私利私欲の復讐に手を貸す事はない。復讐代行人が依頼を受けるのは未解決事件の犯人への復讐のみ、すなわち復讐相手がわからず自分で復讐する事ができない人間だけである。つまり、復讐代行人は依頼人に代わって復讐すべき未解決事件の犯人を独自に推理し、その上でその復讐相手を粛清する。つまりは、探偵と殺し屋を一緒にしたような人間だと言うのだ。この復讐代行人が近年日本全国で活動して極秘裏に殺人を繰り返し、警察はその影響力の大きさを懸念して事態を公表できずにいる。ゆえに、復讐代行人は世間にその存在を知られる事なく犯行を繰り返している。それがこの「復讐代行人」という都市伝説の概要である』

 いつの間にか、政信の額から汗が吹き出ていた。

『もちろん、大半の人間はこれを馬鹿げた与太話、もしくはくだらない陰謀論だのといって認めないだろう。だが、筆者はこの伝説に何か真実めいたものを感じ取った。そこで、今回筆者なりにこの都市伝説を調べてみる事にした』

 政信はいったん紙から顔を上げ、汗だらけになった額をぬぐった。自分は何かとんでもないものを読もうとしている。絵空事。そう割り切りたいのだが、割り切れない。そんな不思議なものがこの資料にはあった。

『この噂が流れているのは主にネット上である。ゆえに、この復讐代行人についてネット上で調べてみたところ、いくつかのサイトでそれらしき噂を確認できた。それによると、この復讐代行人は自身の事を「出雲」と名乗っているのだそうだ。出雲と聞けば出雲大社の事を想像すると思うが、どうやら標的を黄泉の国に送り届けるという意味で出雲大社にちなんだこの名を使っているらしい。それはともかく、さらに詳しく検索をかけてみた結果、誰も来ないような末端の都市伝説サイトでこの復讐代行人に依頼する方法が書かれているものを発見した』

 資料を持つ政信の手に力がこもる。自分の娘がこんな事を調べていたなど、今まで自分はまったく知らなかった。

 次の紙をめくると、そこには「極秘」という文字が大きく書かれており、さらにその下に「没原稿」と手書きで記されていた。内容は、問題の復讐代行人への依頼方法である。

『以下、その都市伝説サイトに書かれていた依頼方法を記す。まず、出雲出版という会社が発行している「犯罪学総論」(著・色井藻屑)という学術書が必要となる。この出雲出版は筆者が調べてみたところ特段何か変わった会社というわけでもなく、法律書などの学術書を中心に販売している中堅の出版社であった。おそらく、自分の名と一致する出版社ゆえに利用しているのだろう。したがって、この「犯罪学総論」という本も近場の本屋に行けば普通に売ってある。著者である色井藻屑についても調べてみたが、こちらも早応大学法学部所属の実在する犯罪学者兼推理作家の名前で、何か犯罪に加担しているような形跡はなかった(ちなみに「色井藻屑」は推理作家としてのペンネームで、本名は「色部久秀」という)』

 政信は息を呑んで先を読みふけった。

『さて、肝心の依頼方法はと言えば、この「犯罪学総論」に付属している読者アンケート用の葉書である。もちろん、何の工夫もなく送付したところで出版元の出雲出版に行くだけだ。問題のサイトによれば、復讐代行人に依頼をするにはこのアンケート葉書にあらかじめ書かれている郵便番号の前三桁をボールペンか何かで「092」(「阿国」、おそらく「出雲阿国」にかけているものと思われる)に変更し、表に住所氏名など必要事項を書いた後に、裏の感想記述欄に自分が復讐を求める事件を調べてほしい旨の記述をして送付するのだと言う。その後、復讐代行人の厳正な審査を通過した依頼人にのみ返信が届き、直接面談を経て依頼が成立するとの事だ。果たしてこの噂は本当なのか。実験するのが一番であろうが、復讐対象などいない筆者がこの通りの手紙を送ったところで、この噂の真相の有無にかかわらず返事など絶対に来ない。したがって、この依頼方法が事実か否かを検証する事はまず不可能である。この依頼方法の有無を確認できるのは、実際に依頼を行うほどに追い詰められた人間だけであろう。それが、この噂が事実か否かを判断するのが難しい一因にもなっている』

 ここまで書かれた後、その下に後から書き殴ったかのような記述が見られた。

『依頼方法の公表は、この噂が事実だった際に危険が及ぶ可能性あり。清書の際には省略する方針で』

 どうやら、この依頼方法に関しては恵自身も公表する気はなかったようである。次の資料からはもはや文章ではなく言葉の羅列が並んでいた。

『依頼料は? 金銭意外にも条件あり? 警察側に関しては? 今後の調査日程は?』

 こんな感じで、これから調べるべき事や不明の事象に関してただ思いつくままに列挙してあるだけといった感じで、内容に関して政信は理解できなかった。残る資料は彼女が調べたネット上の情報や、彼女が調べていたといういくつかのそれらしい殺人事件のデータを印刷したものが大半で、これといった新情報はない。

 だが、ここで政信は疑問に思った。凛の話では、恵はこの記事に関して下調べはほとんど終わって、あとは書くだけだと話していたと言うではないか。だとするなら、資料がこれだけであるはずもないし、記事がこんな中途半端なところで終わっているというのは不可解である。

「……もしかして」

 政信はそう呟くと、不意に立ち上がってそのまま二階にある恵の自室に向かった。事件以来、この部屋には手をつけていない。そして、部室にあったというこの資料がすべてではないとするなら、残る資料があるのは……。

 そう考えながら部屋のドアを開け、中を見渡す。すると、机の脇に積み重ねられたファイルの中に、それらしきものがあった。背表紙に『文化祭資料』と手書きで簡単に書かれている。政信は飛びつくようにそれを手に取ると、中を開いた。

 予想通り、そこには学校にあった資料の続きが保管されていた。

『依頼料に関しては、ネット上に散在する情報をいくつかピックアップした限りは三千万円から一億円までかなりのばらつきがあった。ネットの書き込みから推察するに、累進制……すなわち、所得の多い人間ほど依頼料が高額になるという事なのだろうか。ただ、さらに調べていくとどうやら金銭以外にも条件が存在するようである。が、この第二の条件に関しては情報が乏しく、残念ながら調べ切れなかった』

 最初のページに記されていたのは依頼料に関する追加報告だった。政信は食い入るようにそれを読むと、次のページに目をやった。

『さて、ここまで調べた上での総括として「復讐代行人」はただの都市伝説なのか、あるいは本当に存在するのかにについて論じなければならない。これに関し、私は月並みながらも「五分五分である」と言わざるを得ない。ただ、私の個人的な感覚になってしまうが、この「五分五分」は、他の口裂け女とか人面犬とか明らかにその事実が疑わしい都市伝説と比べれば比較的信憑性が高いという意味での「五分五分」である。なぜそう思うかといえば、あくまで都市伝説の範疇を出ない話とはいえ、ネット上に散在する各々の情報をつなげてみると、個々では信憑性のなかったはずの情報がなぜか真実味をもって感じられたのからである。もちろん、これは筆者の個人的な感覚で何か明確な根拠があるわけでもない。事実、実際に筆者はここ数年のそれらしい(つまり「復讐代行人」が手を下したように見えなくもない)殺人事件の記事を調べてみたのだが、どうも「復讐代行人」がかかわっているにしてはしっくりしない事件が大半なのだ。しかし、あるサイトの記述によれば、この復讐代行人は標的を殺害した際に何らかの目印……すなわち、その犯行が自身のものであるという明確な証拠を残すのだという。それが何かはわからない。だが、警察はその情報を知っていて、模倣犯を防ぐためにこの「復讐代行人」の識別ポイントとなる何かを公表していないのだという。だから、世間的にはどの事件が復讐代行人によって行われているのかわからないのだと、そのサイトは述べているのだ。ここまでくると、もはやどの情報が正しくて間違っているのか比較することさえ馬鹿馬鹿しくなってくる。そして、一都市伝説にしてはここまで多種多様な情報がネット上に氾濫している事。それこそが、筆者がこの都市伝説を絵空事と片付けられない最大の理由でもあるのだ』

 そこで恵自身の文章は終わっていた。それ以外の資料は部室にあったネット上での調査資料の補足的なものや、記事の下書きや情報の切れ端が書き殴られているものが大半で、雑文の集合体といった風である。

 政信は呆然とした様子でファイルを閉じた。まさか、娘が自分の知らないところでこんな事を調べていたとは。自分は娘の事を知らなかった……それも確かにショックであったが、それ以上に彼女の調べていた内容に政信は言葉を失っていた。

 都市伝説の「復讐代行人」。そもそも、そんな都市伝説自体政信にとっては初耳である。それと同時に、政信の頭にある疑惑が浮かんできた。

 もしや、娘はこの「復讐代行人」の事を調べていたがゆえに殺されたのではないか。つまり、この都市伝説は真実で、触れてはならない何かに触れてしまった娘がこの「復讐代行人」に殺されてしまったのではないか。

 荒唐無稽な話なのかもしれない。だが、一度浮かんだ疑惑はなかなか消えることなく、それどころかますます大きくなっていく。もしそうだとするなら、警察が事件を解決できないのにも納得がいく。何しろ、相手はプロの殺し屋なのだ。警察を出し抜く方法などいくらでも知っているはずである。

 政信は自身の想像に思わずよろめき、そのまま手近な本棚に手を着いた。何冊かの本が床に落ちるが政信に気にする余裕はない。自分はどうすればいいのか。こんな荒唐無稽な話を警察に話すわけにもいかない。思わず頭を抱えそうになって……政信の視線が床のある一点で止まった。

「これは……」

 そこには、女子高生の部屋には明らかに不釣合いな本が落ちていた。『犯罪学総論』……資料に書かれていた、「復讐代行人」とコンタクトを取るのに必要な本である。

 政信は咄嗟に本を拾うと、パッとページをめくった。そのほぼ真ん中に目的のもの……読者アンケート用の葉書が挟まっていた。

 政信は冷や汗をかくと、思わず何かに怯えるように周囲を見渡した。これだけ調べていた恵の事だ。問題の『犯罪学総論』を実際に購入していてもなんら不思議ではない。そもそも、資料の記述ではこの本は全国の書店で普通に売っているとの事で、手に入れるのはそう難しくないのである。が、都市伝説の小道具が現実に目の前にあるとなると、さすがの政信も緊張せざるを得なかった。

 そして、同時に政信はある事に気がついていた。他でもない、自身が都市伝説の「復讐代行人」に依頼する権利を持っている……すなわち、殺された恵の復讐を「復讐代行人」に依頼できるという事実にだ。つまり、もしあの都市伝説が本当なら、この葉書を所定の手続に順じて出せば、「復讐代行人」との接触がもてるかもしれないのである。

 そしてそれは、彼女が調べていたという「復讐代行人」が事件に関与しているかどうかを自身の目で確認でき、仮に「復讐代行人」が事件に関係なかったとしても、いまだに犯人の特定ができない頼りない警察に代わって恵の仇討ちができるという事に他ならなかった。

「……」

 政信の判断は一瞬だった。


 七月八日金曜日。あれから一週間が経過していた。政信は緊張で食事も満足に取れないままこの一週間を過ごしていた。

 手元にはあの『犯罪学総論』の本が置かれている。が、その中にあのアンケート葉書は存在しない。一週間前、政信は問題のアンケート葉書をポストに投函していた。もちろん、恵の資料に記されていたように前三桁の数字を092に変え、裏の記述欄に「荻窪で起きた女子高生殺害事件の真相を解決してほしい」と書いた上での事であった。

 一応調べてみたが、前三桁が092になる郵便番号の行き先は北海道の網走郡にあるいくつかの自治体であった。が、下四桁を含めて調べてみると該当する郵便番号は一切存在せず、結局のところあの葉書がどこに行くのか……もっと言えば北海道の網走に行くのかさえわからない。網走と犯罪者という組み合わせだと、政信などは安直にも網走刑務所のことを想像してしまうのだが、まさかあんな手紙が網走刑務所の検閲を通過するはずもないだろうし、謎はますます深まるばかりである。

 あれから何の音沙汰もない。事件の方も相変わらず硬直状態が続いていて、事件当初はあれだけ騒いでいたマスコミも最近はまったく報道をしなくなっている。やはり、あんな都市伝説を信じた方が間違いだったのだろうか。自分は娘が信じていたありもしない幻想に引っかかっているだけではないのか。政信はそう思いながらも、どうしても一笑する事ができないでいた。

 とはいえ、自分からどうする事もできない。問題の資料には葉書の出し方こそかかれていたものの、その後具体的にどうやってその「復讐代行人」とやらと接触し、どのような経緯で依頼が成立するのかまったくわからないのだ。何とも居心地の悪い話である。

 いい加減に諦めるべきなのかもしれない。政信は軽くため息をつくと、玄関へ向かった。このまま家に篭っていても気が滅入るだけである。だったら、少しばかり外を歩くのもいいかもしれない。そう考えての事だった。

 だが、玄関に出てドアを開けようとした瞬間、政信の足が止まった。

「ん?」

 玄関のドアの下、すなわち、ドアと地面の隙間から何かが差し込まれていた。思わず拾うと、それは何か金属の板でできたカードのようだった。一辺が十センチ程度だろうか。表面は赤く塗られ、そこに何か着物のようなものを着た女性の絵が描かれている。

「何だ、これは?」

 そう呟きながら、政信は何気なく裏面をめくった。が、次の瞬間、その顔色が大きく変わった。そこには細かい筆文字で、文字が書かれていたのだ。


『拝啓 高原政信様

 先日高原政信様が申し込みをなされた調査依頼に関し、当方で慎重に審議を行いました結果、ご依頼についてのお話をぜひとも聞かせて頂きたいという事になりました。つきましては、面談を行いたいと考える次第でございますので、以下の指示に従って面談にお越し頂けるよう、お願いいたします。なお、指定された時間・場所に面談にお越し頂けなかった場合、ご依頼は無効とさせて頂きますので、ご了承ください。

・日時……二〇〇五年七月八日金曜日正午。

・持ち物……当案内状をご持参ください。

・内容……当該時刻に新宿駅を発車する山手線内回り車両四両目に乗車し、そのまま山手線を一周して頂きますようお願いいたします。以後につきましては当日御指示いたします。なお、当日尾行など違反行為が見られた場合は、それ相応の対応をさせて頂きますのでご注意ください。

敬具』


 まるで企業の就職面接を知らせる文章のような、どこか事務的な雰囲気の漂う文面であった。が、その内容は明らかに普通のそれとは違っている。さらにこのとき政信はある事に気づいた。表に描かれた女性の絵……これは歌舞伎踊りを始めたといわれている踊り子、出雲阿国の肖像画である。つまり、「出雲」と名乗る復讐代行人からのメッセージだと暗示している事にならないだろうか。

 政信は息を呑むと反射的に周囲を見渡し、改めて裏の文面を見つめた。間違いない。都市伝説……「復讐代行人」。一週間前に出したあの葉書の返信が来てしまったのだ。その文面は杓子定規で事務的な文面が殺し屋の文章としては不釣合いで、逆になんともいえない不気味さをかもし出している。出しておいてなんだが、いるかどうか半信半疑だった相手から実際にこうして返信が来てしまうと、何とも言えない寒気が襲ってくるものである。実際、正信の体は小さく震え、金属板のカードを持つ手も小刻みに振動していた。空想などではない。「復讐代行人」は間違いなく存在したのである。

 政信は思わず腕時計を見た。文面に書かれた七月八日とはまさに今日である。現在時刻は午前十時。記述によれば、正午に新宿駅を出る山手線の電車に乗らなければならない。政信は一瞬逡巡した。今ならまだ引き返せる。この通知を無視すれば、復讐代行人との接触はなかった事にできる。行かなかった場合は依頼が無効になるだけで、この文章の最後に記された「違反行為」にはならないだろう。

 だが、政信は歯を食いしばった。殺し屋と接触する恐怖よりも、娘を殺した犯人に対する復讐心が上回ったのだ。

「くそっ!」

 政信はそう言ってカードを上着のポケットに突っ込むと、そのまま黙って家を出て新宿駅に向かった。


 二時間後、政信は新宿駅の山手線ホームにいた。まもなく、指定された電車が入線してくるはずである。政信はホームに並びながらも、腕時計を見るふりをしながらさりげなく周囲を観察していた。

 今のところ、それらしき人物の姿はない。もっとも、政信自身も「復讐代行人」の姿を知っているわけでもないし、殺し屋がいかにも殺し屋めいた格好でやってくるはずもないので、こんな事をしても無駄なのかもしれない。が、これから殺し屋と接触する以上、どうしても神経質にならざるを得ないのだ。だが、多くの路線が接続する新宿駅のホームは人混みであふれ、政信はやがて小さくかぶりを振って観察を諦めた。

『まもなく電車が参ります。危険ですから、白線の内側にお下がりください』

 やがてアナウンスとともに、問題の電車がホームに入線してきた。ドアが開き、政信は静かに深呼吸すると車内に足を踏み入れる。文章に書かれていた通りの四両目。正午とはいえ車内の乗客もそれなりに多く、政信は近くの吊革につかまって様子を見ることにした。

 ドアが閉まり、電車が発車する。指示によれば、このままこの電車で山手線を一周すればいいらしい。山手線は一周一時間。つまり、この一時間の間に『復讐代行人』から何らかの接触があるはずなのだ。政信はいよいよ緊張した様子でその瞬間を待った。

 電車は一駅、二駅と停車しては発車する事を繰り返していく。乗客の乗り降りも激しいが、政信はただひたすらに相手からの接触を待ち続けた。緊張で吊革を持つ手が震えているが、周囲の人間は誰もそんな政信の様子を気にする気配すらない。渋谷、恵比寿、目黒、五反田……電車が定刻通りに各々の駅に停車していく中で、政信は絶えず緊張の意図を張り巡らせていた。

 だが、それでも相手からの接触は一切ない。電車がほぼ半周して東京駅につく頃には、政信の精神も限界に達しようとしていた。

「どうなってる……」

 一際多くの人々が乗降する東京駅での喧騒の中、政信は思わずそう呟いていた。ここまで接触がないと、自分が間違っていたのではないかと不安にもなってくる。もしや、自分は今とんでもなく無駄な事をしているのではないか。だが、こんな人混みの中でポケットに突っ込んだままになっているあの金属カードを見るわけにもいかない。政信の表情には、いつしか疲労と焦燥が浮かんできていた。

 だが、だからと言っていまさら降りるわけにもいかない。そんな事をすれば相手がどんな行動に出るかもわからないのだ。政信はただ歯を食いしばって耐えるしかなかった。東京駅を出た後も、電車は何事もないかのごとく進んでいく。神田、秋葉原……すでに乗客の顔ぶれも最初に乗ったときとは変化していて、もはや誰が「復讐代行人」なのかを推察する余裕もない。

 そして、電車に乗ってから一時間後、電車はもといた新宿駅へと滑り込んだ。約束通り一周した以上、もう電車から降りても問題ないだろう。政信は疲れきった様子で吊革から手を離すと、そのままよろめくように電車からホームへと下車した。

「何だったんだ、これは……」

 政信はとりあえず改札から出ると、とりあえず呼吸を整えるために手近なトイレに足を運び、その個室で大きく息を吐いた。その瞬間、全身からドッと汗が吹き出す。自分の側にミスはなかったはずだ。文面通りの電車に乗り、文面通りに一時間待った。にもかかわらず、指示どころか接触すらないとはどういうことだろうか。自分は何かに担がれたのではないか。

 そう思いながらも、政信はもう一度文面を確認するためにポケットに入れたままになっていたカードを取り出した。が、カードをポケットから取り出した瞬間、政信の顔色が変わった。

「これは……どういう事だ」

 取り出したカード、その表側は本来赤く塗られているはずである。にもかかわらず、今自分の手元にあるカードは、黄色い下地の上に出雲阿国の絵が描かれているのだ。政信は狐につままれたような気分になった。まさか、色が変わる仕掛けでもあったというのか。

 そう思いながらも裏面を確認してみる。が、それを見て政信の表情が一気に青ざめた。何と、そこに書かれている文面までもが変化していたのである。


『拝啓 高原政信様

 この度は面談においで頂き真にありがとうございます。厳重なる審査の結果、高原様に警察の尾行等がない事を確かに確認いたしましたので、正式に直接面談を行いたいと考えています。つきましては、この案内状をお持ちの上、十四時までに秋葉原駅で下車した後そのまま歩行者天国までお進み頂き、十分経過後にメイド喫茶「どんぐり」にお立ち寄り頂けますようにお願いいたします。以後の指示は「どんぐり」にて行わせて頂きます。それでは、高原様にお会いできる事を心より楽しみにしています。

敬具』


 政信はトイレの個室にもかかわらず咄嗟に周囲を見渡し、改めて冷や汗をかきながらこの文面を眺めていた。尾行がないかどうかを確認した、と書かれているという事は、自分が一時間山手線に乗っているのをどこかでしっかり確認した上でこの文章を書いた事になる。つまりこの文章が書かれたのはついさっきの事であり、したがってこのカードはさっきまでポケットに入れていたカードが何らかの理由で変化したものではなく、「復讐代行人」によって直接入れ替えられたものだという事になってしまう。おそらくは、政信が疲労困憊しながら電車に揺られていた一時間の間にいつの間にか政信の傍に近づいてスリの要領で摩り替えたのだろうが、政信自身はまったく気づいていなかった。

 とにかく、これで次にやるべき事はわかった。政信はカードをポケットに突っ込むとトイレを飛び出し、そのままホームに駆け上がって今度は外回りの電車に乗った。目指すは秋葉原駅である。だが、いざ目的地がわかってみると時間の過ぎるのは思ったよりも早く、秋葉原に着いたとき、実際は三十分近く経過しているにもかかわらず政信にはわずか数分程度の感覚に思えて仕方がなかった。

 秋葉原駅を出て、指示通り秋葉原の歩行者天国へと進む。かつては電気店街だった秋葉原は、今やサブカルチャーの街へと大きく変貌を遂げている。漫画やアニメのキャラらしき看板があちこちに掲げられ、いわゆるメイド喫茶という政信からしてみれば理解しがたい店が多数出店している。

 人混みにもまれながら、政信は油断なく周囲を見回していた。この中に問題の殺し屋が潜んでいるのかもしれない。そう考えると、平和なこの歩行者天国が一気にきな臭い何かに思えてきてしまう。指示ではこの歩行者天国で十分間待機せねばならない。政信は腕時計に注意しながらも、十分が経過するのを待ち続けた。こうなると、さっきまでとは逆に時間が経過するのが遅くてたまらない。

 やがて、約束の十分が経過した。政信は踵を返して歩行者天国から出ると、そのまま次の指示……すなわち、「どんぐり」なるメイド喫茶を探し始めた。メイド喫茶に行くなど政信にとっては初めての経験以外の何物でもないが、この際、そんな事をいっている場合ではない。

「……これか」

 問題のメイド喫茶「どんぐり」は思ったよりも奥まった場所にあった。歩行者天国となっている表通りから少し外れた脇道の一本、その少し奥にひっそりとたたずんでいたのだ。この場所まで来ると人通りも少なく、いかにも秘密の待ち合わせ場所といった感じである。他のメイド喫茶だったら店の前に売り子のメイドが出て呼び込みを行っているはずなのだが、この店はそうした事は一切行われていない様子である。

 さすがに政信も一瞬考え込んだが、やがて意を決してドアを開けて中に踏み込んだ。

「お帰りなさいませ、ご主人様!」

 中に入ってみると、メイド服を着た少女が弾けるような笑顔でこちらに呼びかけてきた。政信の他に何人かの客はいるが、全員いわゆるオタクといった風貌で、政信の姿は明らかにこの場で浮いている。それでも笑顔を忘れないこの接客役のメイドの姿に、政信はある種の感嘆さえ覚えた。

 席に案内され、メニューを見る。が、何が何だかよくわからないメニューばかりで、正直政信としてはお手上げである。大体、自分はここに食事しに来たわけではないのだ。かなり迷った末、自分に唯一理解できるホットコーヒーを注文する事にした。さすがにこれだけはこの店でも普通の表記がなされている。

「かしこまりました、ご主人様!」

 そのご主人様というのをやめてもらいたかったが、どうもそんな事を言い出せる雰囲気ではない。政信はため息をつきつつも、改めて店内を見やった。

 見た限り、「復讐代行人」らしき人間はいない。これからどうすればいいのだろうか。さっきのカードではここに来た後に指示を出すとの事であったが。

 そう思って何気なくポケットのカードを手に取ろうとして、ハッと気がついた。さっきも同様の状況で、いきなりカードが入れ替えられていたではないか。だとするなら、さっき歩行者天国に立てといわれたのも……。

 政信はカードを慎重にポケットから引っ張り出した。予想通り、その色は先ほどの黄色から青へと変貌している。またしても自分が気づかぬ間にカードが入れ替えられているのだ。政信は緊張の面持ちでカードをめくった。


『拝啓 高原政信様

 秋葉原への到着、確かに確認いたしました。これより面談に際しての手順及び注意事項を申し上げます。「どんぐり」入店後、テーブルに千円札を置いた上でトイレに行き、トイレ横にある裏口から外に出てください。そこから裏路地をまっすぐ進んで頂くと、開けた場所に出ますのでお待ちください。そこで顔合わせを行いたいと存じます。

 なお、万一広場到着から十分以内に誰も姿を見せない場合は、残念ながら何らかの理由で契約不成立になったという事ですので、この案内状をその場に残した上でそのままお帰りください。また、この指示に反して広場到着から十分以内に勝手に帰宅した場合、契約辞退、もしくは契約違反となる場合がございますのでご注意ください。この際、極めて悪質な契約違反が認められた場合は処分対象となる場合もございます。

 この手紙の内容は「どんぐり」入店後十分後まで有効です。万一、それまでにこの案内状に気づかれず、所定の行動を取られなかった場合は残念ながら契約無効となりますので、テーブルにこの案内状を残した上でそのままご帰宅ください。

 それでは、高原様とお会いできるのを楽しみにしております。

敬具』


 やはりあった。いつの間にすり替えが行われたのかなど政信にはわからない。大切なのは、いよいよこの事前手続きもクライマックスに差し掛かったということだ。

 政信はカードをポケットにしまうと、代わりに財布を取り出して千円札をテーブルの上におき、そのまま立ち上がってトイレへと向かった。

「ご主人様、どちらへ?」

 と、さっきのメイドがやってきて尋ねた。

「えっと、トイレに」

 そう言われて、メイドは一瞬テーブルの上を見ると、それで何かを悟った様子だった。

「わかりました。早く戻ってきてくださいね、ご主人様」

 どうやら、店側にも何か暗黙の了解があるらしい。政信はそのままトイレに向かい、記述通りその横にあったドアを開けた。ドアの向こうは薄暗い裏路地が一本道になっており、政信は軽く深呼吸するとその裏路地へと足を踏み入れた。

 今度は五分もかからなかった。周囲をビルに囲まれた小さな広場。太陽の光をコンクリートの壁が遮っているので昼にもかかわらず薄暗く、ほとんど誰も来ないのか壁の辺りにゴミのようなものが多数置かれている。ここで十分待てとの事だ。

「いよいよ、か」

 政信はそう言うと、近くの壁にもたれかかってその時を待つ事にした。そのまましばらく時間が経過していく。

「さて、どんなやつが来るのか……」

 そう呟いたときだった。


「お待たせいたしました」

 その瞬間は、あまりにも唐突に訪れた。


 急に声をかけられ、政信はバッとそちらを振り返った。広場の一角、光の加減でより薄暗くなっている場所から音もなくそれは現れた。

「……え?」

 それが政信の第一声だった。そこに現れたのは、あまりにも予想外すぎる人物だった。


 何と、暗闇の中から現れたのは、黒いセーラー服を着込んだ恵と同年代程度の一人の少女だったのである。


 最初からそこにいたのか、あるいは自分に気づかれずにその場所まで移動したのかはわからない。ただ、確実なのは今この瞬間まで、この少女は一切の気配を政信に感じさせていなかったという事である。

「君は……」

「初めまして。東和銀行新宿東支店支店長、高原政信様、でございますね?」

 少女は飴玉を転がすようなどこか可憐さが伺える声で、改めて政信に呼びかけた。

「そうだが」

 そして、少女は名乗りを上げる。

「ご挨拶が遅れました。高原様のご依頼を受け今回はせ参じました、『復讐代行人』でございます。便宜上、『黒井出雲』を名乗っておりますので、以降はそちらの名前でお呼びください」

 そう言って、少女……否、復讐代行人・黒井出雲は微笑を浮かべながらも事務的に頭を下げた。

 政信は思わぬ不意打ちに少々混乱していた。相手は殺し屋という事で、政信の中ではその姿はどこかプロフェッショナルな雰囲気を醸し出すベテランめいた男性だと勝手に想像していたのだ。が、実際に目の前に現れたのはそんな想像とは大きくかけ離れた存在……というより、むしろ対極に位置する存在だった。

 改めて見ても、その姿は異様だった。年齢は恵と同じくらいだろうか。だが、そうだとしても普通の女子高生とは明らかに異質な雰囲気を漂わせていた。

 まず、着ているセーラー服からしてインパクトがあった。普通のセーラー服はどこか紺色めいた色のはずなのだが、彼女の着ているセーラー服は文字通り真っ黒で、白いラインとのコントラストが一際強調されている。おまけに、それに反して首にかけられたスカーフは血のように真っ赤であり、それがまた黒一色のセーラー服との違いを強調するアクセントになっている。こんな不気味な制服など政信は見た事がない。黒一色のスカートは膝下まであり、その下に同じく真っ黒なニーソックスとローファーを履いている。

 顔はどちらかといえばきれいな部類に属するだろうか。その肌は真っ黒なセーラー服に反してかなりの美白であり、それがまた暗闇の中で顔だけが浮かび上がっているような錯覚にとらわれる。目は閉じているのか開いているのかよくわからない薄目で、口元には謎めいた微笑を浮かべている。そして、その頭から伸びる黒髪はまるで平安時代の姫かと思うほどに長く、腰どころか膝下まで伸びた長髪をまとめる事なく無造作に流している。

 最後に、彼女の左手にはこれまた真っ黒なキャリーバッグが引かれていた。そこに何が入っているのかうかがい知る事はできないが、その真っ黒な下地を背景に、キャリーバッグの側面にはカードにもあった出雲阿国の絵が描かれている。とにかく、何から何まで黒一色のある種異様ないでたちの人物だったのだ。ここが秋葉原だけに、そうした格好はどこかコスプレめいても見える。

 だが、その体から発せられるオーラは明らかにその辺の高校生とはわけが違った。その黒い姿を背景に、どこか禍々しいというか威圧的というか、どう表現したらいいのかわからないが何とも言えない不気味で恐ろしいものがあふれ出ているような気がしたのだ。会って数秒しか経っていないにもかかわらず、政信は確信していた。間違いない、姿はともかく、これは本物だ。本物の裏の世界の人間だ、と。

「早速でございますが、ただ今よりご依頼頂きました復讐要請に対する依頼受理手続きを行わせて頂きます」

 そんな政信の驚きとは裏腹に、相手はただ事務的に話を進める。だが、その前に政信には確かめておかなければならない事があった。たとえ、ここでルール違反となって殺される事になったとしても、だ。思わず政信の拳に力がこもる。

 だが、その前に出雲の方が先手を打った。

「ですが、その前に一つ聞いておくべき事がございます。政信様は、どうやって私との接触方法を知ったのでございましょうか?」

「……娘が調べていた」

 政信はそう言って出雲を睨みつけた。

「お亡くなりになった高原恵様でございますか?」

「知ってるんだな」

「葉書を頂いてから一通りあなたの事は調べさせて頂きました。当然、問題の葉書に書かれていた事件の事も」

「……なら、逆に私からも依頼の前に最初に聞いておきたい。もしやとは思うが、娘が殺されたのは、君の事を調べていたからだという事はないだろうな?」

 一か八かの発言だった。が、出雲は表情を変える事無く口元を緩める。

「それは、つまり私が私の事を調べている人間を消したのではないか、と、このようなご質問でございましょうか?」

「そういう事だ。どうなんだ? それいかんによって対応も変わってくる」

「もし『はい』と答えれば、私を殺すおつもりですか?」

 その瞬間、穏やかな表情のままの出雲の全身から、確かに殺気のようなものが立ち上った。返答いかんによってはこの場で殺す。冗談でも何でもなく本気の殺気である。その迫力に怖気づきそうになりながらも、政信ははっきりと押し殺した声で告げた。

「あぁ。娘の敵なら、たとえ殺し屋だろうがなんだろうが許すつもりはない」

 その答えに対し、出雲はしばらく考え込むような動作をした後、やがて立ち上っていた殺気を急に沈めて静かに首を振った。

「……ご期待に沿えず残念でございますが、高原恵様を殺したのは私ではございません。それは私のルールに反しますので」

「ルール?」

「私は殺し屋でございます。ですが、だからと言って誰でも理由なく見境なく殺すというような事はいたしません。私には私なりの信念がございます。ゆえに、私の場合、依頼された復讐対象者、契約違反をした依頼人、もしくは明らかに私の命を狙ってくる人間でない限りは殺さないという縛りをつけているのでございます。極秘としている私の素性を暴いてしまった、というのならともかく、単に私の噂や依頼方法を調べた程度で殺すような事はいたしません」

「殺し屋にしては、ずいぶん律儀だな」

「殺し屋であるがゆえ、でございますよ。それが『復讐代行人』を名乗る私の……人を殺すという仕事をしている私の守るべき最低限のマナーでございます。それと、私は実際に殺害を行った場合でも、私の犯行である事が明白であるように必ず目印を現場に残します。したがって、私の犯行であるなら警察が気づかぬはずはありません」

「目印、だと?」

「それでございます」

 出雲はそう言って、政信が持っているカードを示した。

「どのような状況であれ、私は自身の殺害現場に必ずカードを残します。詳細は申し上げられませんが、警察も私が現場にそのカードを残すという事はすでに把握しています。ゆえに、その恵様の殺害が私の手によるものであるのなら、警察がそれに気づかぬはずがございません。必ず第二の復讐を防ぐために、事件が私の犯行である事をあなた様に申し上げているはずでございますが、そのような事はなかったのではありませんか?」

「……あぁ」

 警察は一切の情報を自分に話そうとしない。というより、明らかに捜査が進展していないのが門外漢の政信にもわかるほどなのだ。

「それこそが、その恵様の殺害が私の手によるものではないという明確な証拠でございます。納得して頂けましたでしょうか?」

 理路整然とした言葉だった。

「……という事は、警察も君の存在そのものは知っているわけか?」

「何しろ私の仕事は殺人ですございますから。いくら凄腕の殺し屋でも、殺人そのものをすべてなかった事にはできません。当然、いずれ警察に存在は知られます」

「にもかかわらず、君は都市伝説『復讐代行人』としてしか知られていない。警察は君の情報を秘匿しているという事か」

「当然ございまでしょう。私の存在が事実とわかれば、私に復讐殺人を依頼する人間が増えるのは間違いないのですから。警察としても、秘匿するしかないのでございます」

 そう言って、出雲は小さく微笑んだ。

「さて、今までの話はご理解頂けましたでしょうか?」

「……まぁ、一応は」

「では、改めまして依頼受理手続きに入りたいと思います」

 そう言うと、出雲は一礼して説明に入った。

「さて、接触方法が恵様の調べた資料なりによるものである以上、私への依頼に関する詳しい知識はない、という事でよろしいでしょうか?」

「あぁ」

 恵の資料にも大雑把な事だけで、核心部分はほとんど書かれていなかった。

「では、最初に私こと『復讐代行人』への依頼に関する注意事項を申し上げます」

 出雲は一呼吸を置くと、話し始める。

「まず、私は『復讐代行人』、すなわち殺人事件等で大切な人を失った方のご依頼で、依頼人に代わって犯人に対する粛清を行う者でございます。ただし、すべての復讐を受け付けるわけではございません。私が請け負うのは『犯人がわかっていない未解決の殺人事件』の復讐でございます。すなわち、犯人がわかっている事件の復讐は一切行いませんし、殺人事件以外の復讐もほとんど受け付けておりません。私の仕事は、犯人がわからず自分で復讐する事もできない依頼人に代わって犯人を突き止め、その犯人の罪を暴き、その上で粛清する事でございます。この点、最初にご理解ください」

「どうして、そんな縛りを?」

 思わず政信はそう口を挟んでいた。が、出雲は気にする様子もなく、その問いに答える。

「こうして『復讐代行人』をしている私が言うのも変でございますが、本来、復讐などというものはそう簡単にするべきものではございません。犯人が警察に捕まっているというのであるならば、司法に任せるのが一番なのです。殺された被害者も、自分の親しい人間の手を自分のために血で染めてほしいなど思っているはずがございません。ただ、もちろんそれでも復讐をせずにはいられないというお方も多いでしょう。しかし、だとしても本来であるならば復讐は自分で行うものでございます。自分が安全地帯にいて他人にやってもらう復讐など本当の復讐ではございません。それは何の信念もないただの人殺しに過ぎません」

 意外な事を言い始めた出雲に、政信は呆気に取られる。が、出雲は気にする様子もなく言葉を続けた。

「ですが、中にはそれさえもかなわない方々も世の中にはたくさんおられます。自分で復讐したいのに、その復讐相手がわからないから復讐できない。これは、先の復讐相手がわかっている方々とはまるで立場が違います。私の仕事の信念は、そうした自分で復讐をやりたくてもできない方々の手助けをするという事なのです」

「なるほど、ね」

 政信はただ頷くしかなかった。

「さて、そのような方針でありますので、私は復讐の依頼には依頼人にもそれ相応の覚悟をして頂くというコンセプトを貫いております。何しろ、本来自分でやるはずの復讐を他人に任せるのですから、依頼人にもそれなりのものを求めるのは当然という考えです。ですから、私の復讐代行の依頼料は依頼人にとってはかなりリスクの高いものとなっております」

「一体、何を払えば?」

 政信は緊張した様子で聞く。

「一つはお金。私も商売でございますし、何より人の命を奪う依頼でございますので、それ相応の金額をお支払い頂きます。金額は依頼人の状況によって変動いたしますが、高原政信様の場合は五千万円程度が相場とお考えください。もちろん、殺しの契約でございますので期限内の一括払いを基本としております」

 予想通りかなりの金額だった。が、恵の資料を見た段階でこの程度は予測できている。

「払おう。娘の復讐のためなら、借金してでも絶対に払う」

「結構でございます。ですが、依頼のためにはもう一つのリスクも負っていただきます」

「もう一つのリスク?」

「他でもない。あなたの人生でございます」

 その言葉に、政信の顔を汗が伝った。

「命をもらうという事か?」

「いいえ。より正確に申し上げるなら、『依頼人が警察に逮捕されるリスク』、これを背負って頂きます」

 政信が首をひねっていると、出雲が解説に入る。

「先ほど申し上げた通り、私は殺人現場に必ずカードを残し、その殺人が私の手によるものである事を警察にお知らせします。この意味は二つ。一つは、警察に私の仕事である事を知らせる事でそれ以上の復讐の連鎖を防ぐため。もう一つは、私の殺したその被害者が何らかの事件の犯人である事を明確にするためです」

 その瞬間、出雲の薄目から鋭い視線が政信を貫いた。

「当然、警察はその被害者が何の事件の犯人であったのかを徹底的に調べます。最初から犯人がわかっていて関連する事件を調べるだけなのですから、警察もそれほど苦労せずにその被害者が何の事件の関係者かを調べ上げます。そして、その後警察は誰が私に犯人の殺しを依頼したのか……つまり依頼人が誰なのかを調べ始めます」

 その瞬間、政信はハッとした。出雲は満足そうに頷く。

「ご想像の通り、この依頼人を見つけるのはそう難しくございません。殺された犯人が関与した事件の、被害者の関係者を洗えばよいのですから。つまり、私が私の犯行を明らかにした時点で、依頼人の方にも逮捕されるリスクが発生するのでございます」

 出雲は政信に視線を向ける。

「要するに、依頼人だけが安全地帯で高みの見物するようなまねは許さないという事でございます。先ほども申し上げましたように、本来復讐は自分で行うものでございます。それを捻じ曲げて他人に代行してもらっているのでございますから、依頼人の方にも自分で復讐をしたときと同じリスクを背負って頂くのは当然でございます」

 出雲は当然のように述べた。政信は足を震わせる。確かに、復讐をするなら本来当然のリスクである。が、改めてこう言われてしまうと何とも重い条件のように思えてしまう。

「念のために申し上げますが、依頼達成前にこの重圧に負けて依頼人の方が自殺された場合、その時点で契約無効として依頼をキャンセルいたします。『死に逃げ』は許しません。また、依頼達成後にこのリスクを逃れようとする行為……たとえば、カードを隠蔽したり、他人に罪を押し付けたりの行為をなされた場合は、契約違反として粛清の対象になります。さらに依頼達成後の自殺も契約違反とし、この場合は残念ながら依頼人の代理として依頼人がもっとも大切に思っている人間を代わりに粛清する事となります。こんな事は私もしたくはございませんが、リスク逃れは私の中ではそれだけ重大な違反であるという事をご承知ください。この点に関しては、私は妥協するつもりはございません」

 出雲の言葉に、政信は唇を噛み締めた。この出雲という殺し屋が、普通の殺し屋とは違うという事を嫌でも実感していた。要するに、自分の手を汚したくないから依頼するという事ができない殺し屋なのだ。依頼人ではなくあくまで殺された被害者の無念を晴らす事を第一にする殺し屋。それがこの黒井出雲という少女なのである。

「なお、補足させていただきますと、依頼遂行前に警察が犯人を逮捕した場合、もしくは犯人が自首をした場合は、その時点で依頼無効となり、以後の事は司法に一任いたします。ただし、警察の捕まえた犯人が冤罪だった場合は依頼続行となります。もちろん、依頼達成前に依頼人が第三者と内通して依頼内容を喋った場合は、裏切りとして依頼の無効及び粛清対象となりますのでご注意ください」

 そう言うと、出雲は一歩前に出た。政信は思わず一歩後ろに下がる。

「以上が依頼にあたっての大まかな説明となります。これを踏まえた上で依頼をなされるというのであれば、先程お渡しした青の案内状を私に渡した上で、依頼される事件のお話を始めてください。辞退される場合は、案内状を地面においてそのまま先程のメイド喫茶にお戻りください。さて、どうなさいますか?」

 政信は一瞬迷った。さすがに、逮捕リスクの話は予想外だった。警察に逮捕される……今まで普通に生きてきた政信にしてみれば考えた事もない話である。何とも言えない恐怖が体の中を這いずり回っているようで、このまま回れ右をしてメイド喫茶に戻りたい気分になってくる。

 だが、恵を殺した犯人に対する復讐心の方が政信の良心をわずかに上回った。政信は今にも後ずさりしそうな足に力をこめ、歯を食いしばりながら宣言した。

「上等、だ」

 そう言って、持っていたカードを出雲に差し出す。その瞬間、出雲の表情がどこか悲しげなものに変わったように政信には見えたが、すぐに元の微笑みへと戻って彼女はカードを受け取った。

「確かに受け取りました」

 そう言って、出雲はカードを掌で一回転させた。とたんに手品でもやったかのようにカードが消える。もう、後には引けなくなった。出雲は笑みを消さないままこう告げる。

「ですが、実際に受けるかどうかは、この後高原様の話を聞いてから私が最終判断する事になります。そういうわけでございますので、ご依頼内容をお話いただけますでしょうか」

「私の事については調べてあるんだろう?」

「それでも、本人から話を聞く事に意味があるのでございます。先程も言いましたように、受けるかどうかの最終判断はそれを聞いた上で判断いたしますので、それなりに具体的にお話ください」

 政信は覚悟を決めた。カードを渡した以上、このまま進むしかないのだ。一度覚悟が決まると、逆になぜか気持ちが落ち着いてきて、意外にもスラスラと事件の事を話すことができた。もっとも、娘の遺体が発見されたときの事を話すときは、さすがに声が震えて時間がかかっていた。

 自分が知っている事をすべて話し終えて改めて出雲の方を見ると、出雲はキャリーバッグを持っていない方の手で長い髪をかき上げながら何かを考え込んでいた。どうも、それが彼女の物を考えるときの癖らしい。

「話は以上でございますか?」

「あぁ。後は私にはどうとも……」

「そうでございますか」

 出雲はそのまましばらく黙り込んだ。

「その、依頼を受けてもらえるのか?」

 しばらく経って、たまりかねたように政信が尋ねた。それでも出雲は何事かを慎重に考え込んでいたが、やがて顔を上げてはっきりとこう言った。

「いいでしょう。この依頼、お引き受けいたしましょう」

 その言葉を聴いた瞬間、政信は一瞬何を言われたのかわからなくなったが、すぐにその意味するところを理解して大きく頭を下げていた。

「ありがとう! 本当に、ありがとう!」

「高原様の話を聞いて総合的に判断した上での結論です」

 そう言うと、出雲は今後の手続きに関して話し始めた。

「先程も申し上げましたように、依頼料は五千万円。一週間以内に指定する口座にお振込みください。振り込みが確認され次第、仕事に取り掛かります。依頼遂行は振り込みを確認した日を始点に一ヶ月以内とお考えください」

 つまり、少なくとも一ヶ月以内に真犯人を突き止め、その殺害を請け負うというのである。

「なお、依頼遂行後に依頼人の方に私の仕事内容を納得して頂くために、推理過程などを記述した依頼報告書を送付いたしております。その送付を持って依頼契約の終了といたします。なお、この報告書は未来永劫依頼人が天寿を全うするまで厳重に保管するものとし、破棄及び紛失が確認された場合は制裁対象といたしますのでご注意ください。紛失された場合は依頼時と同じ方法で、紛失した旨を記述した葉書を紛失から一週間以内にお送りください」

「どうしてそんな事を?」

 その瞬間、出雲は薄笑いを浮かべる。

「これも逮捕リスクの依頼料の一環でございます。この報告書は、依頼人が私に依頼したという決定的な証拠になるのでございます。同時に、私の殺した犯人が犯した犯罪を立証する決定的証拠にもなりますので、警察はこの報告書を必死に探します。つまり、その報告書を持つ事で、依頼人に科す逮捕リスクが未来永劫なくならないようにする狙いがあるのでございます。したがって、これの破棄は逮捕リスクからの逃避とみなし、制裁対象といたしております。もちろん、警察に自主または逮捕されて報告書が押収された、という場合は例外でございますが」

 政信は息を呑んだ。

「ちなみに、依頼達成後に何らかの契約違反で依頼人を制裁する事になった場合は、この報告書が警察に送付され、事件の真相を含めた依頼のすべてが明るみになる事になりますので、その点はご容赦ください」

「……わかった」

 政信は頷いた。元より、契約違反をするつもりなどない。その逮捕リスクとやらも甘んじて受け入れるつもりだった。

「では、これで『復讐代行人』に対する依頼手続きを終了します。それでは、申し訳ございませんが、そのまま後ろをお向きください」

「は?」

「そのまま一分間、動かないようにお願いいたします。一分経過後はそのままメイド喫茶に戻り、以降はご自由になさってください。それでは、お願いします」

 一方的にそう言われて、政信はわけもわからぬまま体ごと後ろを向いた。しばらくすると、後ろにあった出雲の気配が消えていく。カラカラとキャリーバッグを引く音がしばらく鳴ったかと思うと、その音も次第にかすんでいく。

 やがて一分が経過した。政信が反射的に振り返ると、どこにも出口がないはずのこのビルの間にある広場から、出雲の姿は忽然と消えうせていた。

 気がつくと、政信はそのままその場にへたり込んでしまっていた。そんな政信の傍を、生暖かい風が吹き去っていった。


 その三日後、某銀行の預金口座に、五千万円の振込みが確認された。そして、事件はここから大きく動き出す事となる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る