第8話 六匹目

 基本的に猫という生き物は夜行性だ。夜に行動して悪さをして、その流れで捕まっていたらしく、叔父の日記には『目覚めて捕獲器カゴを見たら』と何度か書いてある。秋から始まった猫捨ては冬になっても続き、寒さをしのごうと叔父の農機具倉庫やガレージに忍び込んだ猫は、捕獲器に吊るされた餌におびき寄せられて捕まっていたようだ。


―――少し呑みすぎた。夜中三時に便所で用を足していると車庫からカシャンと音が聞こえた。カシャカシャと音が聞こえる。何かが罠にかかったらしい―――


 夜中三時と言えば丑三つ時、化け物や幽霊が出る嫌な時間帯だと言われている。


―――捕獲器カゴを懐中電灯で照らしたら茶色い縞模様の猫が居た。私を見た途端に出してくれとでも言うようにニャーニャーと鳴き始めた。ご近所に見つからないうちに捨てに行くことにした。問題はどこへ捨てに行くかだ―――


 六匹目となると捨て場所も心当たりが無くなったらしく、この辺りから今まで捨てに行った場所へ再び向かうことが多くなった。


―――今回もY湖へ捨てに行こうとしたのだが、草木も眠る丑三つ時となれば私も眠い。途中の道端で車を停めて捨てた。途中とはいえ家から二十キロ以上離れているのだから帰ってくる事は無いだろう。いくら猫が頑張ってもトンネルを抜けられないはずだ―――


 夜中三時に着替えて猫を捨てに行こうとした叔父の行動力に感心するが、さすがの叔父も眠気には勝てなかったらしい。猫を捨てに行って事故を起こしていたら猫捨てがばれてしまう。賢明な判断だ。


―――放つ前に(捕獲器を?)振り回してから蓋を開けた。フラフラしながら家と反対側の山奥へ走って行った。帰ってくる事は無いだろう―――


 わが叔父ながら悪い男だと思う。


―――捕獲器カゴは五千円と少々だったと思う。これで捕まえた一匹当たりのコストは千円を切った。十分に元を取ったと言えるだろう―――


 だが、この『五千円少々』で買った捕獲器はこのあと更に猫を捕まえ続けるのだった。

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