第5話 三匹目

――〇〇さんは基本的に野良猫に餌やりをしているが、良く懐いている猫には首輪を付けて特別扱いしている様だ。餌やりの時間に抱いている猫は確認しただけで三匹、前回捕まえてY湖へ捨てに行った奴以外にもう二匹可愛がっている猫が居るはず。残った首輪付き猫二匹を捕まえてギャフンと言わせてやりたい。今回は竹輪ではなくて鮭の皮を(捕獲器の)フックに付けておいた。少し魚臭いが猫をおびき寄せるためだ、仕方がない――


 叔父は猫ではなくて、猫に無責任な餌やりをする○○さんを困らせたかったようだ。最初は捕獲器に竹輪を仕込んでいたが、鮭の皮や生魚などの『いかにも猫が好む餌』を仕込む様になったらしい。フックにぶら下げる餌を試行錯誤すること数日、三匹目の猫が捕獲器に閉じ込められたらしい。


――餌を仕掛けること数日、○○さんが一番かわいがっていたであろう猫を捕まえた。二匹目とよく似た柄をしているが、体が一回り大きい。栄養状態が良いのだろう、丸々と肥え太ってシャーシャーと威嚇してくる。態度の悪さも体形も○○さんといっしょだ、魚の皮で捕まる意地汚さも含めて――


 今回の餌は焼き魚か何かの皮だったらしい。


――非常に大きな頭をしている。カゴの中で御暴れしたのだろう、フックが首輪に引っかかってもがいている。二匹目と違って大きな頭がつっかえて首輪が外れない。必死になって外そうともがいてパニックになっている。フギャーフギャーと大騒ぎをして静まる気配が無い。ご近所に見つからないうちに捨てに行こう。スタッドレスタイヤに交換しておいて良かった――


 やはり今回もY湖へ捨てに言ったらしい。日記の日付けからすると雪が積もっている時期だろう。Y湖は雪深い県北部にある。暖かい場所が好きな猫が捨てられると生きて行くのに少々厳しい場所だ。恐らく二度と叔父の家を荒らすことはできないだろう。


――道中も首輪に引っかかったフックと格闘していた馬鹿猫だが、Y湖に着いても外れる事は無くフギャーフギャーとパニックになっていた。カゴの蓋を開けて首輪からフックを外そうとしたら引っかかれた。爪の手入れをされていないのだろう、凄い切れ味だった。今後は気を付けよう――


 三匹目にして叔父は猫に引っかかれて痛い目に会ったらしい。閉じ込められてパニックになっている所へ首輪にフックが引っ掛かって大混乱していたことだろう。猫に同情する。


――何とかフックを外したが、ギャウギャウフーフーと唸りまくる。今後どこかに引っ掛からない様に首輪を外してやろうとしたらまた引っかかれた。そんなに首輪を外したくないなら一生付けていれば良いと少しだけきつく首輪を締めて逃がしてやった。脱兎のごとく逃げた猫だったが、パニックになっていて周囲を見ていなかったのか家と反対側へ逃げて行った。少し走った後でキョロキョロとしていた――


 雪深いY湖に捨てられた猫はパニック状態で自分がどの方向へ向かっているかわからなかったのだろう。猫は方向感覚が優れていて、うっかりトラックの荷台に乗って運ばれたとしても住処の方向へ歩く生き物らしい。行方不明になった猫が数年後に帰ってくるみたいな話はこの辺りから来ていると聞いたことが有る。


 その後、叔父の日記に『猫が帰ってきた』と記されている事は無かった。叔父が捨てた猫はおそらくY湖周辺で暮らしたかどこかで迷ううちに命を落としたかしたのだと思う。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る