第3話 一匹目

 ――平成〇年〇月○日 ガレージに捕獲器を置いた当日に一匹目を捕まえた。三毛の子猫だ。捕獲器に近づいたら大きな猫が二匹逃げて行った。親か仲間だろう。少なくとも我が家に悪さをする猫はもう二匹いるはずだ。餌は竹輪、やはり猫は魚が好きなようだ―――


 今じゃ動物愛護法で駄目だけど、二十年以上前は悪さをする猫や害獣を捕まえて遠くへ捨てに行くのはよく有ったらしい。捨てに行くだけならまだマシかもしれない。川や池に沈めて殺してしまう事もあったとか。


 ――一晩中ニャーニャーと情けない声で鳴いていた。脱出しようともがいていたようだ。おかげで買ったばかりのカゴ(捕獲器の事らしい)の色が取れて(塗装が剥がれて)しまった。あとで色を塗っておこう――


 叔父は猫を殺してしまうほど憎んではいなかったらしい。ノートに書かれていた日付だと叔父の年齢は五十代。まだ元気だった頃で、動物愛護法が出来るずいぶん前の日付だ。


 ――近くに逃がすと帰ってくるかもしれない。人目に付かないY湖に放した。道中ニャーニャーと鳴いていたが、車を十キロほど走らせたらおとなしくなった。諦めたのだろう―― 


 Y湖と言えば叔父の家から北に三十キロほどの所に有る静かな湖だ。釣りシーズン以外は人気が無い。だから叔父は猫を捨てる場所として選んだのだろうか。


 ――Y湖に着いてカゴの蓋を開けたが逃げようとしない。ニャーニャーと鳴いて必死になってカゴにしがみ付いている。申し訳ないが我が家で悪さをした罰だ。カゴを揺さぶって振り落した。帰ろうとしたらトランクの中が臭い。あの猫は小便を漏らしたようだ。カゴを積むときにトランクが汚れない様にトロ舟(トロ舟・トロ箱など数種類の呼び名が有るコンクリートをこねるのに使うプラスチックの箱)を敷いておいて良かった――


「そういえば、コンクリートをこねる箱が有ったなぁ」


 叔父の遺品の中にコンクリートをこねるトロ舟があった。メダカを育てるのに使おうと思っていたけれど、猫を捨てに行くときに使ったのだろうか? 少し複雑な気持ちになった。

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