(完)ささやく男子と、ブヒる姫

「そっかー。お前ら付き合うんだな」


「ああ。このとおり」


 中指に光る指輪を、進藤に見せる。音更さんと、お揃いの指輪だ。修学旅行のお土産で一緒に買った。


「それで、デートするのか?」

「まあ、な。次の土曜日に」

「よかったな。でさ、ちょっと放課後、付き合ってくれないか?」


 珍しく、進藤がマジメに尋ねてくる。


「ん?」

「自分の気持ちに正直になれって、お前に焚き付けたのはオレだ。オレもケジメを付けないとなってさ」


 約束どおり、俺は放課後に、進藤の買い物に付き添った。


 

◇ * ◇ * ◇ * ◇



 翌日の放課後、進藤はミミちゃんの前で、買ってきたプレゼントを開ける。


「ほらよ」


 進藤が、ミミちゃんに渡したのは、指輪だった。


「先輩、これひょっとして、わたしに?」

「まあな」


 突然のサプライズに、ミミちゃんは目を丸くしている。


「うわあ。キレイです。でも高かったんじゃ」

「年玉を全額使って買ったんだよ。でもごめんな安物で」


 ミミちゃんの指に、シルバーのリングを通した。


「そんな。いいのに」

「オレがあげたかったから、いいんだよ」

「ありがとうございます」


 目をキラキラさせながら、ミミちゃんは手に収まった指輪を眺める。


「オレ、お前のこと妹としか見てなかった。それじゃダメだと思っていたんだが、まだ中一だし、恋愛って感じはしなかった。今は違うから」

「いつも妹みたいに接してくれる先輩も、わたしは好きですよ」

「バッカおま……」


 照れまくる進藤に、ミミちゃんはハグをした。


「よかったね、二人とも」


 音更さんも、進藤とミミちゃんを祝福する。


「明日、棗先輩はデートなんですよね? 先輩、わたしたちはどうします?」

「家でゲームでもするか?」

「その日、おうちに誰もいませんか?」

「だからまだ早いって! ちゃんとオフクロもいるから、自重しろ! そうやって暴走するから、告白は控えたかったんだよ」


 和んだ空気の中、俺たちは解散した。



◇ * ◇ * ◇ * ◇

 

 

 デートと言っても、特別に何かするわけじゃない。昼をちょっとお高いレストランで済ませて、映画を見るだけ。それでも、俺たちは十分楽しかった。


「高校に行くって、決めたんだって?」


 落ち着いた雰囲気の純喫茶を見つけたので、そこで話し合う。こんな話は、騒がしいカフェではできない。


「うん。高校に通いつつ、バイトしてお金を貯めるつもり。でも、援助するよ、って」


 音更さんの両親は、「どういう道を選んでも、娘を応援する」と言ってくれたという。だが、音更さん自身が「甘えるわけにはいかない」と考えた。迷惑を掛けた分、取り戻そうとしているようだ。


「俺が変なコトを言ったせいかな……」

「棗くんが、気づかせてくれたおかげだよ。学校も、楽しいんだよって」


 落ち込む俺に、音更さんが手を添える。


「私にとって学校は、自分を偽るためにしか存在していなかった。だからASMR部を作って、夢に近づこうと思った。だけど、夢しか見ていなかった」


 今を精一杯楽しめないんじゃ、この先は辛いだけだ。音更さんは、それにようやく気づいたと語る。


「現実は、まだまだ捨てたもんじゃないかったのに、私は未来に勝手な理想を押しつけた。早く大人になろうと、背伸びしすぎてた。こんなんじゃさ、どこへ行っても通用しないよ」

「音更さんくらい一生懸命将来を考えているなら、きっと成功するよ。俺も応援する」

「ありがとう。だから棗くんが好きになったんだよ」

 

 注文のパフェが到着した。


「あ、スナックが突き刺さってる」


 俺と音更さんを繋いだチョコ菓子が、パフェのクリームを貫いている。


「はいどうぞ。あーん」


 音更さんが、チョコ菓子を引っこ抜いた。

 

「いただきます。あーん」


 俺はポリポリと音更さんが差し出す菓子をポリポリ……。

 

「ぶひいいいいい!」

「いい雰囲気が台無しだよ!」


(完)

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ささやく男子と、ブヒる姫 ~お昼の放送中にミュートし忘れてお菓子を食ってたら、ASMRマニアの美少女から神扱いされた~ 椎名富比路@ツクールゲーム原案コン大賞 @meshitero2

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