花火大会で、ブヒる姫

 神社に入ると、祭り囃子と共に縁日が賑わう。


 俺も、お腹の虫が鳴り出す。「今日は夜店で食ってこい」と言われて出たので、昼から何も食べていなかった。


「先に腹ごしらえしねえか? 焼きそば食おうぜ」


「賛成!」


 進藤と共に、ミミちゃんが手をあげる。


「たこ焼きも買っていいですか? みんなでシェアしましょう!」


「わかった。あのベンチで待っててくれ。俺と進藤で買ってくる!」


 空いているベンチを指さす。

 夜店に行こうとすると、進藤はミミちゃんの手を取った。


「おい東風こち。行くぞ。お前が言い出したんだから、お前がトッピング選べよ」


「……は、はわわ」


 進藤に手を引かれ、ミミちゃんはおっかなびっくりになっている。


「返事は?」


「はい。一生ついて行きます」


「いや大げさすぎ!? じゃあ行ってくる」


 進藤が背を向けた。


「いいのか?」


「金は立て替えてもらうから」


「そうじゃなくて」


「女子二人をこんな人混みに置いといたら、ナンパ男のエサだぜ。誘蛾灯みたいに寄ってくるぞ」


 確かにそうだ。盲点だった。


「すまん」


「その代わり、取り分は多めにもらうからな」


「わかった。それで手を打とう!」


 進藤とミミちゃんの、下駄を鳴らす音が遠ざかる。


「ごめん。二人きりになっちまった」


「え、なんで謝るの?」


「いや、だって……」


 意識しすぎて、俺は音更さんと目を合わせられない。


「ミ、ミミちゃん、進藤くんとうまくいくといいね!」


「うん。俺も応援してる。進藤は決して悪い奴じゃないから、いいカップルになると思うぜ」


 俺が話していると、「誰がいいカップルだって?」と進藤が戻ってきた。手には山盛りの焼きそばが。容器からはみ出そうだ。


「どうした、これ?」


「特盛サービスだってよ。東風を連れてたら、兄妹と間違えられた。『家族と分けろ』だってよ」


 口を尖らせて、ミミちゃんも不満げだ。


「わたしは、お嫁さんに見られたかったです」


「まあまあ。一口目はミミちゃんにあげるよ。あーん」


「あーん」


 音更さんが箸で焼きそばをつまみ、ミミちゃんの口へ。それだけで、ミミちゃんの機嫌を直してしまった。ミミちゃんが単純なのかもしれないが。


「ああ、麺をすする音もいいよねえ。たこ焼きの外側カリカリな食感も素敵っ」


 俺が焼きそばを食べている音を、録音する勢いで顔を近づけた。


「怖い怖い、音更さんっ!」




 食事も終えて、神社の石段を登る。ここに、見晴らしのいいスポットがあるという。


「わたしもパパから教わったんですけどね!」


 先頭を行くミミちゃんが、神社の裏手を指した。


「おお。ここは穴場だぜ」


 ミミちゃんの働きに、進藤も関心を示す。


「えっへん。もっと褒めてもいいんですよっ」


 腰に手を当てて威張るミミちゃんの後ろで、ドーンという大迫力の音が響く。


「うわあ!?」


 突然打ち上がった花火に、ミミちゃんがビビった。


「キレイ……」


 音更さんは、打ち上げ花火を見つめながら、うっとりする。

 すさまじい破裂音に、耳を澄ませているような。

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