後輩ちゃんの恋に、力を貸すブヒり姫

 進藤とミミちゃんが入ってくれたおかげで、ASMR研は部に昇格した。


 部費で何を買うかと思っていたが、防音パネルである。


「よーし貼るぞー」


 音更さんの号令で、みんなして取りかかった。

 まずは、床に防音シートを敷く。続いて床や壁一面に、パネルを敷き詰めた。


「先輩、高いところにパネルを貼るので、ハシゴを持っててください」

「おうっ、うえぉ?」


 きわどいミニスカートのままで、ミミちゃんがハシゴを登ろうとする。


 ちなみに、音更さんは上下ジャージ姿だ。制服が汚れることを想定しているので、当然と言える。


「待て待て東風こち、その作業は危ないからオレがやる」

「えーっ? 大丈夫ですよ。先輩が支えてくれるなら、危険な場所だってへっちゃらです」


 アクティブだなぁ、ミミちゃんは。つい最近までランドセルを背負っていたような小ささでよくやる。


 ちなみに、音更さんは黙々とハシゴを登っていく。職人芸さながらの手際で、天井にパネルを取り付けていた。俺の出る幕がない。


「オレがやるからどけ、東風」

「わーい。優しいんですね、先輩」

「うるっせ。棗、ハシゴを押さえててくれ」


 てっきりミミちゃんに支える側を担当させると思っていたが。


「お? おう」


 ミミちゃんを降ろして、進藤がハシゴを登る。天井にパネルを貼る作業を音更さんと共同で行った。


 だが、圧倒的に音更さんの方が早い。


「これでよし。もう文句は言わせないよ」


 最後の一枚を取り付け終えて、部の準備が完了する。


「これいいのか? また外すことになったら」


 心配ありげに、進藤は問いかけてきた。


「大丈夫。だから取り外し可能なタイプにしたんだもーん」


 テープの吸着力が弱いタイプを選び、スキマなくはめ込んでいる。また苦情が来たら、パネルを補充するか防音ブースを購入するという。


「なにその防音ブースって?」

「お一人様用のボックスって、あるでしょ?」


 音更さんは段ボールを頭から被った。


「ああ、あの『家にいながら引きこもれる』ってやつ?」

「もっと小さい版。机だけ遮れるヤツ」

「あれか! 知ってる知ってる! 特集してた!」 


 その商品なら、テレビで見たことがある。今だとリモートワークなんかが流行ってるため、需要があるという。


「そういう防音とか集中するための商品って出回ってるのね。それを探してくる。とにかく、予算に合わせて少しずつ充実させていくかな」


 部室も「多目的室」として活用するらしい。なので、このパネル以外にも学校側が備品をくれるかも知れなかった。


 いつになく、音更さんがたくましい。


 対照的に、後輩のミミちゃんがえらく落ち込んでいた。ずっと机に座ったまま、はあとため息をつく。


「どうしたんだ。いきなりヘンタイじみた作業を手伝わされて、めげちゃったか?」


 俺はミミちゃんに語りかける。


「なにげに失礼だよね、棗くん」


 音更さんが、腕を組んでふてくされた。


「先輩が振り向いてくれません」


 頬杖を突きながら、しかめっ面のままでいる。

 色々作戦は練っていたようだが、すべて裏目に出た。


 朝のあいさつがうるさい。

 勉強も進藤の方が進んでいる。

 お弁当は進藤オカンの方がウマイ。

 

 極めつけは、さっきのミニスカ大作戦だ。

 あれは最悪の一手だった。


 ミミちゃんの見た目があまりにも幼すぎて、犯罪臭しかしない。若干大人びていれば、もう少しドキドキするのだろうけれど。


 進藤とミミちゃんも、「兄と妹」くらいの体格差がある。

 これでは、進藤がなびくかどうか。


「もっと女性を意識した感じが、いいのかも」

「でも、沙和ちゃん先輩ほどおっぱいないし。ストーンとしてるんですよね、わたしって」


 確かに、ミミちゃんは凹凸に乏しい。音更さんも巨乳とはいかないまでも、スタイルは抜群にいいのだ。


「後輩って部分を、もっと強調したらどうだろう?」

「いいところ突くね、棗くん。じゃあミミちゃん」


 音更さんは、ミミちゃんに口添えする。


「なるほど。いいアイデアです!」

「じゃあやってみよう!」


 ミミちゃんが音更さんに先導されて、進藤の前に立つ。


「いつもの調子で

「せーんぱい」


「怒った感じで」

「もう先輩っ!」


 音更さんに指示されるがまま、ミミちゃんは進藤に語りかける。


「恥じらいながら」

「せ、先輩!?」


「恋する乙女で」

「先輩……」


「甘えた感じで」

「先輩?」


 上目遣いを駆使したり、流し目を使ったり。


「軽蔑する態度で」

「先輩……クス」


 何を見させられているんだ、とばかりに、当の進藤は困惑していた。


「ヤンデレ風に」

「先輩先輩先輩」


「中二病を発動した感じで」

「くっ、逃げて先輩!」


 おお、迫真の演技だ。


「バカにした感じで」

「ギャハハ。せーんぱいっ」

「耳元でささやきながら」


 ミミちゃんが、進藤のすぐ横に耳打ちする。


「先輩……」


 さすがにこれは、進藤にも利いたらしい。一瞬ビクッとなる。


 でも恥じらいの方が勝ってしまったらしく、ミミちゃんはすぐにどこうとした。


 そこを、進藤が引き寄せる。


「もういいから。わかったって」


 超至近距離からのささやきが、ミミちゃんの耳朶をくすぐった。


 ミミちゃんが、KOされる。


「アー疲れた。オレもう帰るわ。また明日な」


 進藤が、カバンを肩に掛けた。


「ほら東風、お前も帰るぞ」

「ふえ?」

「呆けてんじゃねえよ。外はもう暗くなるから。送ってってやる」


 フニャフニャだったミミちゃんが覚醒した。


「はい今行きます。では!」



 少しは、進展したっぽい。 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る