モンスター娘だって良いじゃない!!

犬神 龍司

プロローグ

第1話 新たな門出

「ねぇ、翔ちゃん」

「なに?」

「──私大きくなったら翔ちゃんのお嫁さんになる!」

「本当に!?」

「うん!!」

 年端もいかない人間の少年と、異種族の少女が青草が生い茂る丘の上で向かい合い、端から見れば微笑ましい会話をしてる。

 そう、端から見れば……。


 朝から何てもんを見たんだ。

 今では断片的で霧がかっているような上手く思い出す事すら出来ない曖昧な幼き日の夢を。

 本当に最悪だ……。

 どれもこれも母親が悪い!! 俺が嫌いだという事を知っているというのに。

 一つ深い溜息を吐き出し、今日から通う高校『ジョイント学園』へと歩を進めていく。

 通学路を歩き十字路にさしかかると。

「よっ! 翔太」

「おう、要」

 制服を着崩し髪をバッチリセットした男性『相沢あいざわかなめ』が俺の肩に腕を絡める。

「遂に今日は待ちに待った入学式だな!」

「はぁ~? 何が楽しみだよ。俺からした地獄の始まりだわ」

 相変わらずこいつの頭の中には異種族、それも女性の事しかないのな。

「どうした、テンション上げてこうぜ! 折角、異種族の可愛娘ちゃんに会えるってのに」

「昔から言ってるけどな、俺は異種族が嫌いなんだ」

「そうだっけか? そんな風には見えなかったけどな。確かにちょこちょこ言われるようになったけど、そんなに嫌いなのか? この美しい景色を見ても?」

 と、学校へと続く桜の木々に囲われた一本道を歩く数多の異種族の女生徒を含めて指をさして言う。

「あぁ、嫌いだね。そもそも俺はこの学校に入学するつもりはなかったんだ」

「それなら何でここに入学したんだよ」

「母さんの要らないお節介のせいだ」

「そう言えば翔太の母ちゃんって俺等の通うジョイント学園の理事長してんだっけ?」

「あぁ。そういうことで俺がここに通う羽目になった」

 理由は他にもありそうだけどな……。

「すげぇ~よな。コウディネーターの仕事と両立してやってんだもん」

「両立してっけど、正確に言えばコウディネーターの仕事の一環として運営してるんだけどな」

「どっちにしてもすげぇ~けどな。そんなことよりも、早く俺達のクラス確認しようぜ」

「気が乗らないんだけど……」

「ほら、早く行くぞ!」


 俺達は自分のクラスを確認し終え、教室に着くと黒板に席順がランダムに書かれており、その通りに席に座るとスクールバックを机の横に掛ける。

 幸運にも俺は幼馴染みである要と同じクラスにはなれた。

 ──だがしかし、ここで重大な出来事が起きてしまった。

 こともあろうに俺と要の席が遠すぎる!!

 何で俺は窓際最後列で、要は真ん中の列の最前列なんだ!

 確かに窓際の最後列は喜ばしい場所なのかもしれない、普通の高校なのであれば。

 だがここは異種族と人間が共に勉学などを行う共同学校だ。

 そこで俺は友人と離れ、1人窓際とか絶望しかない。

 と、俺は頭を抱え俯く。

 扉の開く音と共に1人の女性教員が教室内に入ってくると、教卓手前の段差に躓き手にしていた名簿が宙を舞う。

「いたたた。ごめんなさいねぇ」

 そう言うと教師は床に落ちた名簿を拾い上げ、衣服に付いた埃を払い落とす。

「初めましてぇ、私は『冬空ふゆぞら吹雪ふぶき』って言いますぅ。皆さんは知ってるかなぁ? 有名な妖怪なんだけどぉ、私は『雪女』の異種族なんですぅ』

 大丈夫かよ、俺の担任は。

 段差に躓いて転けるようなドジなうえに異種族が俺の担任だって? 絶望通り越して不登校になりそう……。

 ほんとに早く家に帰りたい、出来るなら『多族市たぞくし』から引っ越したい。

「はぁ~い、皆さ~ん。これから一年間共に過ごす訳なんですけどぉ、生徒さんどうしはまだお互いのお名前を知らないと思いますのでぇ、廊下側の一番前の人から自己紹介をしてもらいたいと思いまぁ~す。それじゃよろしくぅ」

 一番前に座る女子生徒が元気よく返事をすると席を立ち、名前に趣味などを語り次々に生徒達が順番に自己紹介進めていく。

 ──遂に俺の番が回ってきたか。

 俺は椅子をずらし、立ち上がると口を開き。

「俺の名前は『神崎かんざき翔太しょうた』。先ず一つ、俺は異種族が大っ嫌いだ!! 出来るならばこの先一生異種族に関わらず生きていきたいと思うほどにだ。だがそうもいかないのが事実……。今のご時世『異種族交流法』なんてもんが出来てしまったからな。それに一番多族市が異種族の多い場所、ほんとに最悪だ。それから」

「──はぁ~い、神崎くんありがとうねぇ。もう席に座ってぇ」

 慌てた様子で担任の吹雪が止めに入り、ぽか~んとしている者やそれなら何でこの学校に入学したんだよ、と言いたげな眼差しを受けながら席についた。

 邪魔が入ったが、言いたいことは多少言えたな。

 ふと要の方に視線をやると、何てことを言ってんだ、と言わんばかりの表情をしながら俺の方を見ていた。








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