終戦
王宮への侵攻が始まった。
私はお嬢様の隊、ではなく後方での支援が主な仕事になりました。そして私が配属されたのは、公爵家のホールです。そこで、侵攻の中で怪我をした人達を治療することになっています。
出来ればお嬢様の居る隊に付いて行きたいところでしたが、私では足手纏いにしかならないことは分かっていましたので文句はありません。
既に幾人かの怪我人が運び込まれてきているのですけれど、お嬢様は大丈夫でしょうか。先ほどから大きな音が響き、床が揺れる時があるのです。それは先ほど入ってきた話からして鉱山などで最近使われている爆弾を、王宮側が使って来ているらしいのでそれが原因でしょう。
しかし、仮にも王宮側は国を守らなければならないと言うのに、率先して王都を破壊していると言うのはどう考えても問題しかないのですが。これは、もう勝てばいい、自分たちの立場さえ守れればいいと言う考えが見え透いていますね。
おそらくその指示を出しているのは、元々この国に居た者ではなくグラハルト商国から入ってきた者でしょう。
まあ、王宮側が周囲に気を使わないことは最初から分かっていたことではあります。元より今の王政はグラハルト商国に毒されていますから、この国がどうなろうと良いのでしょう。
そして、暫くすると爆弾が使われているようなことは響いて来なくなり、外の騒がしい声も減って来ているようです。
それに、先ほどからここに運び込まれてきているけが人も少しずつではありますが、減って来ていますので戦いは収束に向かっているのでしょう。
ああ、また負傷者が運び込まれてきましたね。では、治療を? ……何故、ここではなく奥に運び込まれていったのでしょうか? もしかしてお亡くなりになって? いえ、見た限りまだ生きていましたから、何か理由があるのかもしれませんね。
しかし、どこかで見たような方でしたが、顔が見えなかったので判断しかねますね。もしかして顔にけがを負っているから奥に運び込まれたのでしょうか。
まあ、ここに来ない以上私が気にする必要はありませんね。
そうして、その怪我人を最後に、大きな怪我でここに運び込まれてくる人は居なくなった。一応その後にも運び込まれてきた人は居たのですが、それは戦いによるものではなく避難中に転んで足をくじいたとか、王宮側の貴族関係で色々あった人などが大半でしたね。
そしてその怪我人も来なくなったところで、お嬢様がこちらにお戻りになられました。多少の擦り傷はあるようでしたが、それ以外に大きな怪我はなく安心しました。ですが何故、お嬢様はオルセア皇子に横抱きされてお戻りになられたのでしょう? 別に脚を挫いたという訳でもなさそうですが。
「あの、お嬢様は何故そのような状態に?」
「ああ、ちょっとあってね。別に怪我をしているとかではないよ」
「いえ、それは見ればわかるのですが……」
私がそう言ってお嬢様のお顔を覗き込むと、お嬢様のお顔が真っ赤になっていることに気付きました。まさか、ここに連れてこられるまでに何かをされたのでしょうか?
嫌な事でもされているのかとさらにお嬢様のお顔をより覗き込もうとすると、お嬢様は私が様子を窺っていることに気付いた様子で、オルセア皇子側にお顔を埋め私から見えないようにされました。
「え? お嬢様?」
「はは、すまない。これは私の所為ではあるのだが、どうも恥ずかしいようでね」
「恥ずかしい…?」
確かに恥ずかしがっている様子ではありますが、どうしてこのような状況になったのかがわかりません。
「それはまあ、置いておいて。公爵は戻っているかな?」
「え…ええ、戻っております。今は奥の部屋で入って来る情報から被害状況の確認をしています」
「そうか。なら、すまないがミリアを頼んで良いかな?」
「ええ、わかりました」
オルセア皇子はそう言うとお嬢様を床に下ろし……、何で床に座らせているのでしょうか? え、腰が抜けている? 何故そのような事になっているのでしょう。
「ミリア、また後でな」
「…はぃ」
「では、よろしく頼む」
「畏まりました」
オルセア皇子はお嬢様の頭を撫で、そう言うと奥の部屋に向かって行きました。
何ですか今のやりとり。明らかにちょっと親しい間柄にやるようなことではないですよね!? しかもお嬢様は先ほどよりも顔を真っ赤にしていますし、今までそんな反応は見たことがありませんよ。
しかし、これはやっぱりそういうことなのですよね? すぐこの場で聞くことはよくありませんし、後々機会があれば聞いてみましょう。
まあ、お嬢様が素直に答えてくれるとは思いませんけれど、さてさて、どのような反応をするのでしょうね?
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