クーデター前日の失敗

 


 旦那様から話を聞いて、その後の3カ月は一気に過ぎました。

 問題の無い他家への打診。地方貴族への根回し、クーデターを成功させるための侵攻する道筋を決めるなど、さまざまな仕事をこなしました。


 さすがにメイドの仕事を逸脱しているものも多くありましたが、お嬢様が屋敷に居ない以上、私の仕事は殆どありません。故に暇である私の元に仕事が次々と舞い込んで来るのです。まあ、給金を貰っている以上、給金分はしっかりやりますけどね。


 ここ3カ月で一番疲れた、と言うか驚いたことは何といっても、私の実家に協力を打診しようと王都にある屋敷に行ったらもぬけの殻だったことですね。これには私茫然としましたよ。実家に帰ったら誰も居ないんですよ? それも使用人も含めて全員ですから、何があったのかと戸惑うよりも恐怖が勝りますよね。


 まあ、後から報告が来て領地の方に逃げていただけだったようですけど。安心よりも呆れましたよ。付いた側が負ける可能性を考えてどちらにもつかないとか、保身に入り過ぎです。

 いえ、確かに可能性がある以上、それも選択肢の中には入るのですけれど、国が乗っ取られそうになっているのですよ? 


 それに後のことを考えれば、こちらに付いた方が良かったのです。そもそもどちらにもつかないというのは、どちらにとっても敵扱いです。そして、どちらにも付かないで逃げるという選択をした私の実家は、他家からの信頼を確実に失ったわけです。



 まあ、そんなこんなありまして、明日はクーデター実行予定日です。お嬢様もお戻りになられまして、ようやく私の本来の仕事が出来るようになったのですよ。


 ただ、気になる事といえば、お嬢様がお帰りになられた際に隣国の皇子と一緒だったのですが、あれはそういうことなのでしょうか? 何やら良い雰囲気でしたからおそらくそうなのでしょう。


 ……あの自己主張の薄かったお嬢様が、と思うと感慨深いですが、私はどうなのでしょうね?


 このまま独身を貫かないといけないのでしょうか? 

 このまま行けば最低でもお嬢様は新国家の重鎮でしょうし、私はそれについて行くことになるでしょう。そうなれば、結婚するような余裕はない気がします。


 ……まあ、今それを考えるような状況ではないですね。まずは、クーデターが成功するようにしっかりと確認をしませんと。


「お嬢様。クロエです。中に入ってもよろしいでしょうか?」

「ん? ええ、大丈夫よ」


 お嬢様の許可が出たので部屋の中に入ります。それにしてもお嬢様の声を聴いたのは久しぶりですね。さすがに3カ月ぶりともなると、なつかしさを感じます。いつも聞いていた分余計にそう感じますね。


「失礼します」


 お嬢様は部屋に置いてあるソファに座り、寛いでいるようです。ここ3カ月、家を出て慣れていない場所で過ごされていたのでしょうから、久しぶりに気を張らずに過ごせているのでしょう。

 存分に寛いでいて欲しい所ですが、明日はクーデター当日ですからそうも言っていられませんね。


「要件は何かしら?」

「旦那様から、お夕食はどうするのかと。それと、私的な様子見も兼ねています」

「夕食はいつも通り食べるけど、様子見?」


 お嬢様は私の発言が理解できないといった様子で首を傾げています。自分のことを心配してくれる人が親以外に居るとは考えていないのはお嬢様らしいですけれど、さすがにそのような反応をされると心配損な気がしてしまいます。まあ、そんなことは絶対に在り得ないのですけれど。


「いきなり居なくなったお嬢様がどうしているかを確認しに来た、ということです」

「え? あー、そう言うことですか」

「そうです」

「何も言わずに行ってしまってごめんなさい。でも、あの時は貴方も信頼できるかどうかの判断が出来なかったから仕方なかったのよ」

「え? どう言うことですか?」


 お嬢様が小さい頃から仕えている私が信頼できなかったというのはどういうことなのでしょうか。


「どうも我が家の諜報関係の者が王政側に取り込まれていたみたいなの。だから身近な者であっても下手に言えなくて」

「え?」


 え? 何それ。私そんな事聞いていないのですけれど? いやいや、この家の諜報は先代から仕えている者たちのはず。それが寝返っていた?


「少しでも情報を外に漏らさないようにしないといけなかったから」

「そうでしたか。完全に信用できないと言う判断をされたのは少し寂しいですが、それなら仕方がないですね」

「ごめんなさい」


 反省。お嬢様が凄く申し訳ない表情をしています。

 こういう表情をさせたかったわけではないのです。後悔先に立たず。こういう状況がまたあったら、その時はもっと情報を集めてからにしないといけませんね。


「申し訳ありません、お嬢様。余計なことを言いました」

「いえ、良いのですよ」


 お嬢様の優しさが身に沁みます。


「とりあえず、お夕食の件を旦那様に伝えに行きます」

「ええ」


 私は後ろめたさから逃げるようにお嬢様の部屋から退出し、旦那様の元へ向かいました。

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