第3話 時空を超えて

_ _ _

「こうして、二人で旅をするのは久々じゃな

いか?」


落ち着きとどこか優しさを感じさせる声音の男が一緒にいる相手に語りかけた。


「そうですね。しかしあのときは旅と言うよ

り、魔導書の中でしたので、あまり旅とい

う感じではありませんでしたわ」

「それに、ワタシの恥ずかしいところをたく

さんみられてしまいましたし……」


そういって相手の女性は少し頬を赤く染めていた。


「そうかぁ?俺はミーユのことたくさんしれ

て、嬉しかったぞ。」


男は腕組をしながら、裏表なく真っ直ぐに彼女にそう伝えた。


彼女、そうミーユは王都ユニガンにミグランス城という城を構え、ガルレア大陸を統治している、七代目ミグランス王の一人娘。

正式名は(ミューフィルユ)というが、世界をみてまわりたいという思いから、城を抜けだし、今は旅の剣士ミーユとして一人旅をしている。

そんな彼女の出で立ちは、本人曰く一番地味で動きやすい服装らしいが、みるからにどこかのファンタジー系RPGのお姫様のようなフリフリのピンクと白の、それこそミルフィーユのような服装だ。頭には金のティアラまで付いてるので、誰がどうみてもお姫様である。ミーユの一般的な感覚は、幼少のころからずっとお城の中で育ったため、世間一般の常識とは少しかけ離れていた。

容姿にいたっては、綺麗な金髪に、目鼻立ちもはっきりしていて、キレイなんだが少し幼さも残っており、そういったあたりがさらに可愛さを強調させている。あと、小柄なのに意外と巨乳なのだ。


そんなミーユが、男が言った言葉にさらに顔から耳まで赤く染め上げ、少し震えていた…


「………アルドの馬鹿。」


「えっ!?俺なんかマズイこといったか?」


アルドは何がいけなかったのか、全く理解できてない様子だ。


アルドには時空を超えて別の時代へいける力がある。

アルドがいる時代を現代とするならば、過去にも未来にも自由にいったりきたりできる。その、それぞれの時代でたくさんの仲間たちと出逢い、そして共に冒険をしている。

アルドの交友関係はとても広く、誰とも分け隔てなく接し、責任感が強く、一番に相手のことを考えられる、それに思ったことを裏表なく素直にいってしまうので、一緒に冒険する女冒険者の心を無意識に掴んで離さない、天然タラシでもある。

今まさに、ミーユの心も無責任にワシ掴みしたところだった。


「……まぁ、いいでしょう。」

ミーユは少し冷静さを取り戻し、続けた、


「ワタシも世界をみてまわりたく、旅をし

ていますが、過去や未来はアルドとでは

ないと来られませんからね!」


「今日はありがとうございます。アルド」


「いや、いいんだ。俺も久々にこの時代の

人達とも逢いたかったから」


アルドは、時間があるときには色々な時代の人達に顔をみせるようにしている。

もっともそれには特別な意味はなく、ただアルドがそうしたいからやっていることである。そういった性格だからか、アルドの周りには常に人がいる。

アルドの信頼度をスカウターで測ったら多分スカウターが壊れるだろう…。

そんなレベルだ。


「それで、今日はここに来たかったのです

か?」

「あぁ」

話していたらあっという間に目的地に到着していた。

「ここってぇ…」

「パルシファル宮殿だよ」

ミーユの問いにアルドが得意気に答えた



アルドとミーユがいる時代が現代だ。

アルド達の時代を現代とするならば、パルシファル宮殿は過去になる。

ミーユは世界をみてまわりたいと旅をしているが、過去や未来には当然いけない。

なので、今回はアルドにお願いをして過去の時代に連れてきてもらっている。

アルドとしてもちょうどこっちの時代の人達に、顔をだしにいきたいと思っていたところだったので、二人の思惑が一致して、今回の旅が始まったのだ。もっともそんなものなくてもアルドは頼まれれば、ミーユを過去だろうと未来だろうと連れていくだろう。

そんな男だ。


「それで…、今日は誰に逢いに?」


「あぁ、ラチェットだよ!」



ラチェット、

パルシファル宮殿の魔術師で呪いの解除を得意とする。とても気の良いおばちゃんで、アルドの持つ、オーガベインという剣の封印を部分的に解いてもらい、アルドが新たな力を獲るのに一役買ったこともあった。

その他にもアルドの仲間達がかかっていた呪いの解除に知恵を貸してくれたこともある。




パルシファル宮殿の入口は

重く、頑丈そうで高さ10メートルほどある立派な門がある。

アルドはそこの門の前に立っていた二人の門番の衛兵に挨拶をし、門を開けてもらった。

門は人、一人の力では到底あけられない。なので門番が二人がかりで開けるのだ。


「毎回思うけど、古代とはいえかなり立派な

門だよな」


「そうですね、ミグランス城の門と比較して

も、なんら遜色ありません。」


二人はパルシファル宮殿のクオリティの高さに感心しつつ、宮殿の中に足を進めた。

宮殿を入ると、そこはとても開放的な空間でグレーとブルー系で統一された宮殿内は、落ち着きのある、安心感を与えてくれる仕上がりになっていた。ところどころ細かく目を凝らせば、この時代でできる最高級を詰め込んだ作りをしていた。


「素敵ですね」

ミーユは嬉しそうに辺りを見渡していた。


一階には食堂があり、ラチェットは普段そこにいることが多いので、食堂に向かうことにした。



「あらっ!アルドっ!久しぶりじゃない!」


食堂につくと、実家に帰ってきたような落ち着きのある声でラチェットが声をかけてきた。


「久しぶり、ラチェット。元気だったか

い?」


「元気なさそうにみえる?」

そういってラチェットは目の前の酒が置いてあるテーブルを持ち上げようとした。


「わ、わかったよ!ラチェットが元気なの

はわかったから!」

そういって、アルドはテーブルが持ち上がるのを阻止した。


「そう?……ならいいわ」

行動を抑制され、ラチェットは少し不満そうだったが、どこか納得した様子でアルド達のほうに体を向けた。


「ラチェット、もしかして酔ってるのか?」


「私?………全然酔ってないわよ!!」

そういってまたラチェットがテーブルを持ち上げようとする、慌ててアルドがそれを止めにはいる。


「わかった、わかったから!」

「悪いっ!ミーユ手伝ってくれ!」


「エっ!?」

突然振られたのでミーユも少し困惑気味だった。


「ミーユゥ??…………アルドォ」

ラチェットが小気味良く笑う。

「あんたは本当に女の子を取っ替え引っ替

えね!毎回毎回イチャイチャしてぇ、見せ

つけてくれるじゃないの!」



「……毎回毎回、イチャイチャ?」

「取っ替え引っ替え?」

ミーユの半径3メートルが次第に氷のように冷たくなっていった。


「ミーユ!早く手伝ってくれ!」

「このままだと押さえられない!」

アルドはラチェットを取り抑えるのに手一杯だ。


「知りません。そんなこと自分でなんとかし

てください。」

そんなアルドにミーユは冷たく吐き捨て、部屋からでていってしまった。


「浮気者〜、捨てられたな〜」

ラチェットはなぜか上機嫌だった。

「わかったから、落ち着けよ」

なんとかラチェットを落ち着かせ、アルドは先に出てしまった、ミーユを追って酒場をあとにした。


「ミーユ、待ってくれ!どうしたんだよ?」


「知りません。アルドはラチェットさんと

お話があるのでしょ?ワタシはこの辺り

をみてまわりますのでお構いなく!」


「ラチェットはいま、まともに話せるよう

な状況じゃないよ。」


「そのようですね、でもそれはワタシの知っ

たことではありませんので。」


アルドはミーユが何で怒っているのか全く検討がつかないでいる。


(なんでミーユは怒ってるんだ?)

アルドは少し前の出来事を思い返す………


(わかった!ミーユは腹が減ってるんだ!!

食堂でミーユはご飯を食べる気で食べ損ねたから怒ってるんだ、それなら……)


「ミーユ!水の都アクトゥールにいかない

か?」


「……なんですか?!急に」


「アクトゥールに上手い魚料理の店があるん

だ!

一度ミーユといってみたかったんだ!」

(前に確か、ミーユも魚料理が好きっていってたよな?)


「……ワタシとですか?」


「あぁ!ミーユとじゃなきゃダメなん

だ!!」

(魚料理苦手な仲間多いからな…)

アルドは拳を強く握り、力強くミーユに訴えた。



「………わかりました。」

ミーユはまた全身の血が頭に昇ったように、顔を赤くさせ、震えながら答えた。


「本当か!?断られたらどうしようかと思っ

たよ!」


「……ワタシが、アルドの誘いを断ることは

ありえません。」

ミーユが小さく呟いた。


「なんかいったか?」


「なんでもありません!…さぁいきます

よ!アクトゥールはどちらの方角です

か?」

ミーユはさらに顔を赤くし、まともにアルドの顔を見れないでいた。


「どうしたんだよ、ミーユ?めちゃめちゃ顔

赤いぞ!熱でもあるのか?」

アルドがなんの悪びれもなくミーユに近づこうとする。



「それぐらいにしてやりな!」

女性が二人の中に割ってはいってきた。



「ラチェットか!もういいのか?」

アルドは何のことかわからず、ラチェットの酔いがさめたか少し警戒しながら尋ねた。



「もともと私は酔ってなんかないわ!

私よりもアルド、あんたのタラシぶりは

メガトン級ね!………まぁいいわ。」


「それよりも少し気になることがあるの」

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