第2話 呪いの首輪

「にゃあ」


「あっ!ホウちゃーん!!」


草むらから姿を現したのは一匹のネコだった。

そのネコは全身真っ白の毛並みの、オデコに三日月模様が特徴的だった。


(確かに月の模様になってるな、珍しい。それに……)

「…その首輪。アイシャが付けたのか?」


青いスカーフの衛兵が少し険しい顔で聞いた


「違うよ。この首輪はホウちゃんと出会った

ときにはもう付いてたよ。それに名前もこ

の首輪に書いてあったの」


それを聞き、青いスカーフの衛兵がネコの首輪を確認すると

(抱月) 首輪にはそう書いてあった。


「それはホウゲツって読むのよ!」

「パパが教えてくれたの!」

「パパは多分、東方のネコだろうって!」


「………東方か。」

そう一言だけ呟いたあと、青いスカーフの衛兵はそのまま黙った。


「てゆーかそのネコ、さっきのヤツじゃねー

か!」

突然、嫌味な衛兵が怒声に近い声で叫びだした。

「そいつが、さっきの魔物に追いかけられて

たせいで、魔物が俺のところにきたんだ

ぞ!!」

「危うく、死ぬところだったじゃねーか」


男がまた得意の愚痴と嫌味を言い始めようとしたとき、


「首輪のせいか、アイシャ?」

青いスカーフの衛兵がアイシャに尋ねた


「………うん。」


アイシャが短く返事をすると、青いスカーフの衛兵は少し離れたところで座っていた抱月を抱き上げた。


「にゃあ」


抱月が青いスカーフの衛兵に何かを訴えるように鳴いた。


「首輪から何か禍々しいものを感じる」


青いスカーフの衛兵は抱月を抱きながらそう言うと、アイシャのほうを見て、アイシャが喋りだすのを待った。


「………多分、その首輪が魔物を引き寄せて

いるの。ホウちゃんと一緒にいるようにな

なってから、さっきみたいに魔物に襲われ

ることが増えたの。」


「わたし、パパのお仕事で色々な町を転々と

しているから友達なんて出来たことなくて

とっても寂しくて、ずっと落ち込んでいて

ずっと泣いていたの」


「そんなとき、ホウちゃんが現れて、わたし

の側にいてくれたの。それからずっとホウ

ちゃんと一緒にいる。だからホウちゃん

とは友達だし、家族も同然なの!」


「衛兵さん!こんなお願い衛兵さんにするの

は間違ってるのはわかってる。けど、ホウ

ちゃんを助けてあげたい。この首輪が魔物

を呼び寄せてるから、この首輪を外してあ

げたい!

……でもどうやってもこの首輪が外れない

の。お願い!衛兵さん!

ホウちゃんを助けたい!だから、助けてほ

しい。お願いします。ホウちゃんを助け

て!」



「………アイシャ」




「オイ、オイ、オイ!……ウソだろっ!?」


嫌味な衛兵が今度は驚きと恐怖が隠しきれない、震えた声をあげた。

衛兵の視線の先にはハマーンが槍を持ち、こちらにむかって戦闘体制に入ろうとしていた。


ハマーン、二足歩行の魔物。伸びきった白髪にどこかの部族のような木製の仮面を被り、槍を武器にして戦う。どこか人間味を感じさせる、そんな魔物だ。



(先発隊が討ち洩らしたハマーンだろうか、ならば討伐しなくては)


そう思い、青いスカーフの衛兵が槍を握り返したとき、嫌味な衛兵の恐怖にかられた声の意味が遅れて理解できた。

ハマーンの後ろから、さらに大きな影が近付いてくる。

それは見た目こそハマーンと同じだが、そのサイズ感はハマーンよりも二回りは大きい。



「((冷酷なる槍))か、」

青いスカーフの衛兵が、焦りを隠すように、自分やアイシャを落ち着かせるようにも言った。その存在は、青いスカーフの衛兵も知っている。

しかし、本来の冷酷なる槍は、大抵がそれぞれ決まった場所を縄張りとし、そこで彼らが集めた宝などを守っていることがおおい。

なのでその縄張りさえ近付かなければ、特になにもしてこないので、討伐対象にはなかった。

討伐するのであれば、それこそ先発隊と後発部隊の総戦力で挑まなければ討伐できないだろう。いや、それでも討伐できるかは怪しい。そんなレベルの魔物だ。


(討ち洩らしたハマーンが連れてきたか?

それとも抱月の首輪の力か……)


どちらにしてもこの状況は不味い。このまま戦えば確実に全滅してしまう。


「アイシャ!時間を稼ぐから、そのあいだに

逃げるんだ!」


「嫌!!……衛兵さんも一緒に逃げよう!」


「ダメだ!一緒に逃げたらすぐに追いつかれ

る」


「あんた、アイシャを連れて応援を呼んでき

てくれ!」


「わかった!ほらっ、嬢ちゃん、いく

ぞ!」


「………待ってて衛兵さん!助けを呼んでく

るね!おいでホウちゃん!」


「ダメだ!抱月はおいていけ!途中で魔物に

襲われるかもしれない」


「………でも」


「抱月は責任を持って守る。約束だ。」


「……わかった。ホウちゃんをよろしくね。

すぐに助けを呼んでくるから、絶対に……

死なないでね!衛兵さん!」


そう言い残し、アイシャと嫌味な衛兵は毒々しい雰囲気のケルリの道を助けを求めて走り去っていった。

青いスカーフの衛兵が二人の姿が見えなくなるのを確認し、


「悪いな、抱月。できる限りのことはやるか

ら」


「にゃあ」


抱月は、落ち着いた様子で青いスカーフの衛兵に鳴きかけた。



_ _ _


「待って!おじさん!」


アイシャが嫌味な衛兵に呼びかける。

いや、叫んでいた。

青いスカーフの衛兵と別れた二人は、あれから全力疾走。二人ともだ。

一人は曲がりなりにも常日頃、最低限訓練はしているし、少なくとも大人だ。

そんな大人とまだ年端のいかない少女が全力疾走したところで、その差が広がるのは明白だ。

それなのに嫌味な衛兵はスピードを緩めるどころかさらに加速している。


(待つわけねぇだろ、あんなヤベェ魔物となんて1分ともたねぇよ!あの衛兵が殺られたら、すぐに俺らを追いかけてきやがる。そうなったらもう一貫の終わりだ。今のうちにあの魔物から離れれるだけ離れて、さっさと逃げねぇと!)


「嬢ちゃんは自分のペースで走ってきな!

俺は先にいって仲間を呼んでくる!」


そういって嫌味な衛兵は、アイシャの返答を待たずに、あっという間にアイシャの視界から消えていった。


「でもわたし、どこにいけばいいのかわから

ないよ……」

「………どうしよう」


アイシャは走るのをやめ、辺りを見渡した。

辺りは薄気味悪い花や、触れば被れてしまいそうな植物でいっぱいだった。

どこからか魔物か何かわからない生き物の鳴き声みたいなものも聞こえてくる。


(早くしないと、衛兵さんとホウちゃんが大変なことになっちゃう)


アイシャは一人孤独のなか、不安と恐怖で足がすくみかけたが、グッと堪えてふたたび走りだした。

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