第8話 ヒイロガネとオリハルコン

 第8話 ヒイロガネとオリハルコン

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 レベル上げついでに、ヒイロカネとかオリハルコンみたいなレア鉱石でないかなぁ、なんて考えながら掘ることしばらく。


「……もしかして」


 俺は驚愕の事実に気が付いた。


 もしかりにそんなものを見つけたとして、気づくわけがないという話だ。

 そもそも、ヒイロガネもオリハルコンもいわゆる金属の一種だ。


 さて、精錬前の鉄鉱石が目の前にあったとして、気が付くかだが……

 事前にある程度予備知識がある人間ならわかるのかもしれないが、少なくとも俺は普通の石との区別がつかない気がする。


 さらにここでは、土にまみれた状態で出てくるわけだ。

 土竜のどれかのスキルのおかげで視界は良好だが、泥だらけの原石を見たところで気づくわけないだろうというのが本音だ。


 なぜそんなことを考え始めたかといえば、ずっと下に向かって掘り進めてきていまだそれっぽいものを見つけられずにいるからだ。

 実はとっくの昔に掘り当てていて、見逃してるだけなんじゃないか?

 という不安が付いて回る。


 レベル上げという目的もある以上、完全な無駄というわけでもないんだが、それでもなんか時間を無駄にしている感がすごい。


 それに、見つけるたびにおやつ感覚でむしゃむしゃしていたミミズをはじめとした虫たちが、ぱたりと見かけなくなってしまった。

 彼らは、地中の奥深くにはあまりいないらしい。

 新たな発見だ。


 で、まぁその小さな楽しみもなくなったせいもあり、自分で下に潜るのをやめる理由を探しているだけとも言える。


 やめたいならやめれば?

 なるほど正論だ。

 だが、結局穴掘りをやめたところで、ほかにやることもないのだ。


 異世界で娯楽が未発達なのはテンプレだが、ここまで何もないのは逆に珍しさすらある。

 俺が特殊なだけだが。

 現代でも、モグラになって地下にいたらきっと暇だろう。


 少し手を止めてひと休憩。

 後ろを見上げると、長い穴が直線に伸びている。

 いわゆる、ボーリング痕みたいな感じだ。

 結構頑張った、という謎の達成感がある。


 ……いまさらになって、ふと思ったんだが。

 俺は今、下の方に向かって一直線にせっせと穴を掘っている。

 掘った土どこ行った?


 ひと掘り、ふた掘り……


「き、消えてる!?」


 穴を掘るとき、これはモグラに限らず人がトンネルなどを作ったりするときもそうだが、掘った結果出てきた土というのは案外処理に困るものだ。

 昔少し経験したことがあるが、重金属を含むそれらの処理がどれだけ面倒だったか……


 もぐらなんかもわざわざ地上まで運んで捨てている。

 それによって、周りが盛りがる特徴的な巣になるのだろう。

 掘ってる時間より、土を運んでる時間の方が名がいいんじゃないか? ってぐらい面倒だ。


 その手間がかからない。


 きっとこれも、どれかの土竜スキルのおかげなんだろ。

 流石というかなんというか。

 もぐらとして生きる分には、申し分ないほどに便利なスキルだ。


 贅沢を言うなら、これの人版が欲しかった。


「って、もしかして……ヒイロガネとかオリハルコンも一緒に消えてたりします?」


 ……十分に可能性がある。

 いや、土や石が消えるのに、それらが例外になる意味が分からない。

 モグラにとっては全部一緒だ。


 土竜スキルは、モグラの固有スキルだ。

 モグラにとっては、どちらもただ邪魔なだけのものでしかない。


 ……マジか。

 マジでか……


 いや、今日はレベル上げをしていた。

 そうだ。

 ただレベル上げをしてただけ。


 レベルも上がったし、オールオッケー。


「タイヘンユウイギナジカンダッタ」


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 ーー次話予告ーー


『第9話 土竜VS土竜』

 明日更新


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