第5話 最初の晩餐 ※

 第5話 最初の晩餐 ※

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 今、俺は土の中にいる。

 流石モグラというべきか、結構簡単に地面を掘り潜ることができた。

 地下にも、危険な魔物はいるのかもしれないが、ひとまず安心と言っていいだろう。


 蜘蛛もゾンビも穴を掘って追ってはこない。

 初心者のころ、みんなお世話になっただろう。


 ……落ち着くと同時に、言いようのない怒りが襲ってくる。


 紛らわしい書かれ方をしていた【土竜】の説明、それにももちろん腹は立つが、それ以前にそんなことにすら気が付かなかった自分自身に。

 なぜもっと慎重にならなかったのかと、なぜ女神様に確認しなかったのかと、バグである可能性より俺が勘違いしているだけの可能性が圧倒的に高いのに。


 俺は似たような失敗を前世で何度もして、結局学ばなかった。

 その結果、こんなモグラの姿に。

 はぁ……


 ま、人生やり直しなんて効かない。

 そうなってしまった以上、今を精いっぱい生きるしかない。

 何度も失敗を繰り返し、学ばずまた失敗する俺に勝手に身についてしまった思考回路。


 いじめ、犯罪、借金、詐欺……今度はモグラか。


 その思考回路が、目の前のミミズがうまそうだと訴えかけている。

 どうやら俺の意志に反して、こいつはもう自分がモグラであるということを受け入れたらしい。


 鼻を近づけてみる。

 確かに、いい匂いはする。

 もぐらになっている以上、うまいと感じるのかもしれない。


 ……でも、ちょっと抵抗がある。


 ミミズを食べるという行動自体に嫌悪感があるというのももちろんそうだが、それ以上にミミズをおいしいと感じたら……

 自分自身がモグラであると、人ではないとそう見たくもない現実を直視させられたくない。


 ……そういえば、こういう魔物転生系の物語、終盤になると大体主人公が人型になっている気がする。

 人ではない。

 でも、人っぽい見た目で、人語を操り、何より強い。


 俺も、いつか人型に、人に戻れるのか?


 深呼吸しよう。

 そういう話じゃないだろう、人型になれるかどうかなんて関係ない。

 地面に潜る前、自分で答えを出したじゃないか。

 それに思考回路も言うように、今はモグラとして生きていくしかない。


 真っ暗で、じめじめした閉じた世界。

 昔の思考がフラッシュバックした。


 もぐらだろうとなんだろうといいじゃないか、異世界に転生できたんだ。

 夢がかなったんだ。

 今回のは失敗じゃない、違う形で夢がかなっただけだ。


 そう、成功だ。


 ……それはちょっと言いすぎたかもしれないが、とにかく前を向いて生きてくのみだ。


 というわけで、


「いただきます」


 みずみずしくて、ジューシー。

 肉感たっぷりでありながら柔らかくて、中の身は口に入れた瞬間とろけて口いっぱいにうまみが広がる。

 ただでさえいい香りを漂わせていたが、身を口に入れた瞬間濃縮された風味が一気に鼻を抜ける。


 ……めちゃくちゃうまい。


 さっきまで何を悩んでいたのか。

 もぐら生、こんなにうまいものが食べれるなら、悪いものじゃない。


 クンクン


 こっちの方から、いいにおいが……

 まだまだ食べたりない。


「飯はどこだーー!!」


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 ー名無しの女神様ー


「あれが、うまくやる可能性があると?」


「土竜がうまくいく可能性は低いわね。でも、何もせずに嘆いてるだけじゃ、何も変わらないわよ。私は運がよかったのもあったけど、それでもいろいろやったもの」


「いろいろ?」


「ええ、はじめは採算無視で転生者や転移者に強力な加護を与えたり、とにかく数をふやしたりね」


「採算無視じゃと? そんなことしたら存在そのものが……」


「そうね。あの頃の私は、いくら働いても存在の維持だけで精いっぱいだったわ。でも、転移者の一人が成功した。大きな、誰もがうらやむ成功を成し遂げた」


「……もぐらはそのひとつにすぎないと」


「ええ、そうよ。あなたに改めて聞くわ、今でも上を、最上位神を目指したい?」


「当り前じゃ」


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 ーー次話予告ーー


『第6話 通信障害!?』

 明日更新


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