2章-38

ガコン!


鈍い音が響き、目の前の男が白目を向く。

崩れ落ちる男の後ろには…

誰もいない。

…いやぁーー!ゆ、幽霊ーー!?


「何バカな事言ってんの、ヨウ。ほんっとバカなんだから」


へ?シル?

フリーズってこういう事を言うんだろうね、頭も体もなんにも動かない。


「上よ、うえ」


俺の視線が徐々に上にあがっていき、シルの姿を捉える。

体に不釣り合いなでかいハンマーを担いで、片手を腰に当てたシルがにっこりと微笑み、ブイサインを作った。


「シル?なんで…」


「だから最後まで気を抜くなって言ったでしょ?」


「じゃなくて…どうやってここに?」


「ヨウのマナを辿ったのよ。あたし天才だからなんでもできちゃうの!オーホッホ!」


ようやく頭が回りだした、シルが助けてくれたのか、あのハンマーで。

助かったのか、俺…


「うわーーーーん!怖かったよーーーー!」


シルを両手で掴み、顔を擦り付ける。

涙で、俺の顔もシルの全身もぐじゃぐじゃになってもなお、俺の涙は止まらなかった。



「落ち着いた?」


「…うん、少し」


「まったく…大きい赤ん坊をあやした気分だわ」


「ごめんって…死ぬかと思って、ほんとに怖かったんだ、大目に見てよ…」


「まぁいいけど。顔洗ったら?ひどい顔してるわよ?」


俺は素直に頷き、男が持ち込んだ小さな灯りを頼りに流し場へ行き、ざぶざぶと顔を洗う。

冷たい水が気持ちいい。


「何があったのか聞いてもいい?」


「色々あった。ちゃんと話すと長くなるから今は全部は話せないや。みんなを待たせてるんだ」


「そう。じゃあ家で待ってるわ、落ち着いたら帰ってきて話して?」


「うん、そうする」


「わーわー泣いてた事、あの二人には内緒にしてあげるわ。でももう無様な真似は許さないわよ?」


「分かってる…つもり。覚悟が足りなかったって」


「ならいいわ。あーあ、最近ほんっと母親みたいね、やんなっちゃう」


「その言い方がなんだか母親っぽいよ」


「うそっ、しゃべり方変えようかしら?」


「いや?そのままの方が俺は好きだよ?」


「なにさらっと告白してるのよ、相手が違うでしょ、相手が」


「ちぇ、なんだよそれ」


「ふふっ。さぁって、じゃああたしは帰ろうかな、またバカな息子に泣きつかれたら敵わないし」


「さっきは母親みたいで嫌だって言ったくせに…」


「あたしが言う分にはいーの!」


「ふぅん…俺ものんびりしてられないし、行くよ」


「そ?じゃあ見送りだけしてあげるわ」


「帰るんじゃなかったの?まぁいいや。次帰るのはかなり先になると思う。その…い、行ってきます」


「いってらっしゃい、ヨウ。焦らないでいいから、自分のペースで歩きなさい」


また母親みたいな事言ってる。

いつかほんとに母さんって呼んでしまいそうで怖いな。

顔を合わせていると恥ずかしくなってくるので、ドアに向かいながらおざなりに手を振る。


「次に帰る時は赤ちゃんがいたりしてね」


ズコッ


「な!なに言ってんの!」


慌てて振り返り抗議の声をあげたが、そこにシルの姿はなかった。


ちなみに床には男が倒れたままである。



「ごめん、随分遅くなった!みんな無事!?」


「ヨウさん!」「ヨウ様!」


みんなが一斉に駆け寄ってきて抱きついてきた。

リリアは踏み切りが早過ぎて、またミサイルになっている。


「心配…かけたかな?」


「当たり前です!どれだけ心配で不安で心細かったか…」


フィーネが涙ながらに気持ちをぶつけてくる。

俺は目を逸らさず、しっかりとフィーネを見つめて肩に手を置く。


「ごめん、フィーネ。こうしてちゃんと来たんだ、許してよ」


「ご無事でなによりです、ヨウ様」


ユレーナはいつものように飄々としているけど、目が潤んでいて、少し赤い。


「ありがとう、ユレーナ。心配かけてごめん」


「ヨウ様、おせーよ!」


モクロは着慣れない外套を着て、収まりが悪そうだけど、頭で手を組んで笑っている。


「モクロ、遅れてごめんな」


「ヨウさま!ヨウさま!」


リリアは泣きながらずっと顔をグリグリ押しつけてくるので、頭を撫でてあげる。


「リリア、もう大丈夫。これからも一緒に居るよ」


リリアを抱き上げ、みんなの顔をもう一度見る。

俺の守りたい人たち。

本当は俺が守られているのかもしれない。

でも、そんな関係も悪くない。

だって家族みたいじゃない?


「さぁ、出発しようか!だらだらしてると追っ手が来るよ!」


「「はい!」」


それぞれに荷物を持ち、俺たちは歩き出す。

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世界樹再生記 楓梢堂 @fuushoudou

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