2章-30

家に戻った俺とユレーナは、すぐにキールの街の薬草畑へ跳んだ。


「アグーラさん!アグーラさん!」


薬草畑に着くなり声を張り上げてアグーラさんを探す。

とりあえず店の方へ行くと、イレーナさんがお客を見送っているところだった。


「ヨウさんいらっしゃい。どうしたんです?そんなに急いで」


「お邪魔してます、イレーナさん!アグーラさんにお話が!すぐに呼んできていただけませんか!?」


俺の勢いに押されるように、何度も頷きながら奥へと走っていくイレーナさん。

程なくしてアグーラさんを連れて戻ってきた。


「どうしましたヨウさん。なにやら急ぎのようですが?」


「アグーラさん!これ!これを使ってポーションを作ってください!出来るだけたくさんほしいんです!」


そう言って世界樹の葉っぱをアグーラさんに押し付ける。


「え?葉っぱ?見たことのない形の葉ですね。何と混ぜればいいんですか?」


「混ぜません!これだけで!あ、いや、レージュ草とこれだけを使って作ってもらえませんか!?」


「構いませんが、この葉は一体?」


「世界樹の葉っぱです」


アグーラさんが白目を向いてしまった…

イレーナさんはピンと来ないようで首を傾げている。


「アグーラさん帰ってきて!葉っぱが枯れちゃう!早く精製しないとまた枯れちゃうんです!」


「わ、分かりました!とにかく急いで取り掛かります!イレーナはレージュ液を!」


「はい!お父さん!」


「ヨウさんはこちらで精製の立ち会いを!」


「はい!」


アグーラさんについて奥の作業部屋へと移動し、早速精製に取り掛かる。

すり鉢に世界樹の葉っぱを入れ、すり潰してゆく。


「あ…ヨウ様、今マナが弾けました…」


「え!?」


「…間違いないですね、その中の葉にはもうマナがありません」


そんな…

ポーションにするためにすり潰すことができないなんて…


「ヨウさん、すみません…不用意に世界樹の葉を使ってしまいました…」


「…いえ、製法が分かっている訳ではないので仕方ないですよ、こちらこそ焦ってしまいすみません…まだ2枚残っています、次は慎重にいきましょう!」


「ありがとうございます…。では刻んでみますか?乾燥はダメですか?」


「元々枯れていたので乾燥は意味がないと思います。1枚、刻んでみましょう」


アグーラさんは頷き、慎重に世界樹の葉を刻みだした。


「ダメです!刃を入れた途端にマナが弾けました!」


くっ、またしても失敗か…


「アグーラさん、そのまま使いましょう。葉っぱに傷をつけるとダメなようです」


「ではレージュ液を加熱して、そこに葉を入れて煮出してみましょう」


早速アグーラさんは、イレーナさんが取ってきたレージュ液を加熱し始めた。

沸点が低いのか、すぐに鍋の縁がぐつぐつし出したので世界樹の葉を手に取りユレーナ、そして俺を見る。

俺が頷き、葉を鍋に入れ煮出す。


「…ダメですね。さっきみたいに弾けることは無かったのですが、だんだん薄くなってそのまま消えてしまいました」


俺とアグーラさんは黙って俯き、歯を食いしばる。

思ったようにいかないことがこんなに悔しいとは…


「すみませんヨウさん、貴重な世界樹の葉を…」


「いえいえ大丈夫です。また取ってくればいいんです!反応からすると、煮出す温度や時間が問題なんじゃないでしょうか?」


「そうですね、私もそう感じました。レージュ液の鮮度も関係あるのかもしれません。あとは何度も繰り返して最適の条件を探り出すしか方法が無いように思います」


「ええ。…すみませんがこれからしばらくの間毎日世界樹の葉っぱを持ってくるので、精製をお願いできませんか?この通りです、お願いします!」


「そんな!ささ、頭を上げて。ようやくヨウさんに恩返しができるのです、やらせていただきますよ!まずはレージュ草をかき集めなければ!」


「あ、ありがとうございます!」


相変わらずアグーラさんはいい人だ。

いつもいつも助けられる。

たくさん試す為にも枚数を揃えたいところだが、数を揃えてもマナを放出する性質がある以上、その鮮度は急激に落ちていくだろう。

とにかく枯れ葉を集めまくって、持ち込もう。

ここでマナを流せば鮮度の問題はクリアーできる。

数の問題は残るが他に方法が思い付かない。


念のため失敗作は俺が引き取った。

もしかしたら何かに使えるかも知れないしね。

あと手元に残ったのは再生した世界樹の枝だけだ。

マナが流れた以上、植えれば地中からマナを吸ってくれるかな?


「この枝、薬草畑で挿し木してもいいですか?もしかしたらマナを吸っちゃうかも知れませんが…」


「ヨウさんが手入れしてくださった畑ですから自由にしていただいて構いませんよ。…ですが、マナを吸うならご自宅に植えた方が良さそうな気がしますが」


「あー!本当だ!そうします!」


そうだそうだ!ここの薬草畑の土、家の周りのから持ってきたんだった!

すっかり忘れてたよ…

あそこならマナが不足することはないだろう。


アグーラさんとイレーナさんにお礼を言ってシルの家に跳ぶ。


「ただいまー。あ、フィーネ、体の具合は大丈夫?」


「ヨウさん!お帰りなさい!次に帰るのは一週間後と伺っていたのですが…まさか、私に会いに…?」


フィーネさんが顔を赤くして俯いた。

うっ、これは違うって言いづらいぞ…


「そ、そうなんだ…心配になっちゃってさ!元気

そうで良かった。シルはいるかな?」


「ええ、奥に」


「そっか。シルー!ちょっと庭に木植えていい?木っていうか枝なんだけどー!」


「ヨウ?別にいいわよー、それ言いに来たのー?」


「うんー!それだけー!ありがとー!」


顔も出さずに声だけのやり取りだったが、OKは貰えたから早速植えよう。

フィーネの目が冷たくなったが、何故だかわからない。


以前土を持ち出したので、庭のあちこちがデコボコしていた。

家に近い所にちょうどいい穴が出来ていたので、そこに世界樹の枝を刺し、周りの土を被せて立たせる。

せっかくなので水もあげておこうと思い立ち、生活魔法の水を掛けておく。

生命力の強い世界樹の事だ、きっと発根してくれることだろう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る