2章-2

「ヨウ様、魔物です。ほら、あの木と、あの木、それにあそこの木がそうです。」


ギョエエーーーー!

いきなりじゃん!街道から離れたらすぐこんななの!?

怖い怖い!異世界怖すぎる!

おちおちフィールドワークもできないよ!

って、え?木?


「ちょっと待ってユレーナ!木ってどういうこと!?木の魔物なの!?」


「え?そうですよ。ヨウ様、もしかしてウッドマンは初めてですか?」


「いやいや!魔物自体初めてだから!さらっと言ってるけど魔物の名前なんて普通の人知らないよね?ね!?」


「街道だって確実に安全な訳じゃないですからね。普通の人でもウッドマンやマッスルームくらいなら知ってるんじゃないでしょうか。」


衝撃的事実!街道は安全じゃなかった!

どうして俺を一人で行かせたの、シル!

よく襲われなかったな、俺!

幸運の神様、ありがとう!

そして俺は聞き逃さない。


「マッスルーム?」


「はい。キノコの魔物ですね。キノコの繊維が筋肉のように見える事から名付けられたと聞いています。ちなみにウッドマンは見たまんまです。」


でしょうね。

うん、知ってた。

というか安直すぎる名付けに脱力したわ。

ユレーナも緊張感ないし、普通の人でも知ってる位だし大したことないんだろう。

で、どうするか、だね。


「ユレーナは倒せるんだよね?じゃあサクッとやっちゃって!」


「まぁ魔石が出るかも知れないので倒しはします。ですが特に害はないので、練習がてらヨウ様に魔法で倒していただきたいのですが…」


すごくキラキラした目でこちらを見ている。

どれだけ楽しみにしてるんだ…

そもそも害が無いならわざわざ倒さなくてもいい気がするけど、魔石が出るかもと言われたら倒したくなるよね。

でも俺まだ攻撃用の魔法使ったことないよ?

多分使えるだろうけど、やってみないとわからない。

使えなかったら…ぶるる。


「やってみるけど、失敗したらちゃんと助けてね。」


「大丈夫です!失敗などあり得ません!!」


わぉ、すごい自信。

実際魔法使う俺より自信満々じゃん。

分けてよ、その自信…


やる方向で決まったので、バッグから魔法ノートを取り出す。

シルから教わった魔法を書き留めて持ち歩いているのだが、魔法を全部使えるっていうのは伊達じゃなく、その種類はハンパなく多い。

意味のない魔法まである。

それを全部把握してたシルにもビックリだけどね。

もちろん覚えきれる量ではない。

攻撃魔法のページをパラパラとめくりながら考える。

相手は木だから火魔法が一番効くだろうけど、生木を火にかける罪悪感と、周りに飛び火するかもしれない危険性を考えると火は使いたくない。

土魔法はイメージしにくい。

水魔法はシャボン玉か水鉄砲ならイメージしやすいけど…

よし、風だ。

カマイタチ的な感じで、風魔法でスパッと切ろう。

マナに意識を集中させて…


「ウインドスライス!」


突き出した手から幾筋もの風がウッドマンに襲いかかる。

そう幾筋も。

一番左にいたウッドマンに見事命中したが、あっという間に何十片もの輪切りの木材と化した。

これは…使う魔法を間違えたかもしれない。

明らかにオーバーキルだ。

そして魔物は死ぬと消えてしまう運命。

輪切り木材は一瞬で消えてしまった。


「うおおおおおぉぉぉぉ!すごひぃぃぃ!さすが!さすがヨウ様です!!ぁぁぁぁぁああ!」


もう興奮しすぎて最後よく分からなくなっている。

あ、ちょっと鼻血でてる。

拭いてあげたいけど、興奮して暴れてるから近付きたくないんだよね。

残り二体のウッドマンは何事もなかったかのようにのんびり歩いている。

あ、そういえば魔石でたかな?

有るとしたらこの辺に…おっ、それっぽいの発見!

ほとんど真っ黒だ、こりゃほとんどマナ入ってないな。


「ユレーナ、ちょっとは落ち着いた?魔石でたから拾ったけど、こんななんだ。こんなに黒くてもギルドって買い取ってくれるの?」


「すみません、取り乱しました…ええ、大丈夫です。魔石でしたらどんな状態のものでも買い取ってもらえますよ。それでしたら銅貨3枚くらいですね、きっと」


おお!銅貨3枚とはいえ、立派な収入だよね!?

シルのすねかじりから卒業だ!

よし、ウッドマン、君には勝てるぞ。

ちょっと自信がついた。


「あとの二匹、どうする?ユレーナが倒す?」


「そうですね。ヨウ様に無駄なマナを消費させるわけには参りませんので、あとは私が。」


言うやいなや、ユレーナはすごいスピードでウッドマンに近づき、一刀両断にしていく。

なんちゅう強さだ…

これでCランク。

アグーラさんの店で助けてもらったときも思ったけど、ハンターのランク分けほんとに合ってる?


「お、お疲れ様。ユレーナってCランクだよね?結構多いのかな?そのランクって。」


「Cランクは街に100人くらいですね。あとBランクが街に10人、Aランクが街に1人、Sランクが国に1人ぐらいの割合です。ちなみにこの前の魔物討伐の件でBランクに昇格しました。」


おお!ランク上がったんだ!

言ってくれたらお祝いを…ってもう実家でしてるかな。

できれば一緒におめでとうって言いたかったけど、まだ遅くないよね?


「ランク昇格おめでとう!」


「あ、ありがとうございます!」


あ、赤くなって俯いちゃった。

やっぱりおめでとうって言われると照れるよね。

分かるわー、俺も誕生日のおめでとうすら恥ずかしかったもん。


「魔石はなかった??」


「はい、ありませんでした。そもそもウッドマンは魔石になることは滅多にないので、ヨウ様の魔法が影響しているのかもしれません。」


どれだけ魔法信者なの…たまたまでしょうよ。

まぁとにかくこれで俺の戦闘力はゼロでは無いことはわかった。

人目さえなければ魔法は使えるので、このまま街道から外れて進んでいこう。


それからは全く魔物に出会わなかった。

新しい植物にも出会わなかった。

街道の最初にあった木や草とほとんど同じ。

見た感じ食べれそうではあったけど、あんまり美味しくはなかった。


日が暮れてきたので、野営の準備をする。

といってもやるのはユレーナだけど。

俺は邪魔にならないよう、木にもたれている。

ぼーっと火を熾すのを見ているが大変そうだ。


「火、付けようか?」


「宜しいのですか!?ヨウ様に生活魔法を使わせるなどもったいない!でも見たいので是非お願いします!」


もうごまかさなくなったね、ユレーナ…

いいんだ、別にいやじゃないから。


「マイナーファイア!」


指先から小さい火がゆらゆらと薪に向かってゆく。

ボンっという小さな爆音がして薪に火が燃え移る。


「ふぁぁぁあああ!ステキです!これが着火の生活魔法!昔の主婦はこの魔法を必ず使えたそうですよ!!!」


興奮しながらどうでもいい情報を言っている。

まぁマナさえあれば、生活魔法みたいな簡単な魔法は誰にでも使えるから、昔の主婦の強い味方だったろうね。


夕食は干し肉をパンに挟んだだけの簡素なものだったが、外で食べる食事は美味しく、思わず手近にあった草も炙って挟んで食べた。

ハンバーガーみたいになっておいしかった!

ちなみにちゃんと食べられる草だ。

期待に応えられなくてすまない。


夜は毛布にくるまって寝た。

もちろん二人別々に。

寝ずの番とか必要じゃないかと聞いたら、このあたりにはそこまで警戒する魔物はいないらしい。

盗賊や物取りにしても気配ですぐ飛び起きれるそうだ。

ユレーナすごすぎ。


そんな調子で歩き続け、予定通り4日目にロイスの街近辺に着いたようだった。

周りは草と木に覆われているので俺にはここがどこだかさっぱり分からない。

ユレーナの案内で俺たちは街道に戻った。

居合わせた人は、老人と若い娘が突然草陰から出てきたので泡を食って驚いていた。

俺がおじいちゃんでよかったよ、若い男だったら変な勘ぐりをされていただろう。

ユレーナはあんまり気にしていないみたいだ。

俺だけドキドキして逆について恥ずかしい。


「ユレーナ、ロイスの街って大きいの?色々教えてくれる?」


「えっ!色々ですか!?そんな、どうしよう…」


いや、いやいや、いやいやいや!!!

どうしてそこで赤面するの!?

何か俺やらしい事言わそうとしてるセクハラじじいみたいになっちゃうから!

やめて!みんな俺をそんな目で見ないで!


「ち、ちがうっ!ロイスの街について聞きたいだけでっ!」


「知ってますよ?」


「………」


「てへぺろ」


くっそー、まんまとやられてしまった。

てへぺろもかわいいし怒れないじゃないか!


「ロイスはキールに比べると広さも人口も倍はあるかと思います。もともと穀倉地帯から王都への輸送拠点だったので、ひとも物も集まりやすかったんです。」


おおーさすがユレーナ、よく知ってる。

すらすら言えるあたり付け焼き刃じゃないことは分かる。

きっとハンターには必要な知識なんだろう。

頭が下がるな、ほんと。

そんな人を旅の供にできた俺は幸せ者だよ。


「って出発前にイレーナに教わりました。てへぺろ」


下げた頭を返してもらおうか。

俺が白い目で睨んでもやはり効かない。

スルーするしかないようだ。

てへぺろが効くのは最初の一回だけだと思い知るべきだ!許すけど!


せっかく早く街に着いたのに、入口前で余計な時間を食ってしまった。

幸い門番には目を付けられていないようだ。

さぁ、二カ所目の異世界街ですよ!

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