1章-6

聞かされた事実を噛み砕く。

ここのポーションはよく効くと常連がいるようだが、魔法ポーションほど即効性がないのでハンター客は皆無。売上が伸び悩んでいる。

持ち家なので家賃は無いがそれでもジリ貧だという。

そこを「あいつら」に狙われたようだ。

「あいつら」とは地上げ屋である。

レジスタンスがどうのとか一瞬でも考えた自分が恥ずかしい。

しかも別のポーション屋の息が掛かっているため、店舗としても邪魔のようで早く潰してしまいたくて仕方ないらしい。

ここで会ったのも何かの縁、なんとかしてあげたいがいかんせん武力がない。魔法使っちゃだめだし。


「それでもここの薬草畑をお世話させていただけませんか?もちろん私の知る限りの知識を使って商品開発もします。形はポーションとは違ってきますが…」


そこでポーションだけではなく、お茶や漢方、外用薬など、ポーションに拘らずにこの薬草畑で取れるものを使って、色んな商品を作る。

お客の裾野を広げ、売り上げ増加を目指す。

取りあえず売れ上げが上がって懐に余裕ができれば、取れる手段も変わってくるだろう。


「分かりました。店の現状を知ってまだお手伝いして頂けるというのであれば歓迎いたします。ただ、給金には期待しないで欲しいのです。何せ家族経営で、人を雇う余裕がないのが正直なところです。」


「こちらのわがままでお手伝いさせていただくのです。給金など不要です!」


アグーラさんは「さすがにそう言うわけには…」と渋るが無い袖は振らない方がいい。そこにイレーナさんが助け船をだした。


「ではお昼を一緒に召し上がりませんか?今は妹のユレーナが魔物討伐の出稼ぎに出ていて父と二人きりなので、食卓が寂しいんです。」


妹がいた!魔物討伐とか怖っ!治安維持部隊に所属しているとかかな?アグーラさんもイレーナさんも心配だろうな。

でも出稼ぎってことはしばらく帰ってこないってことかな?

ま、とにかくお金には不自由していないので、この提案は嬉しい。

山菜スープも好きだけど、せっかくの異世界なんだから、異世界飯を堪能したい。


「これは嬉しい。是非おねがいしたいです。

魔物討伐ということはユレーナさんはハンターをされているのですか?」


「あたしの双子の妹なんですけど、ハンターとしてはCランクでソコソコ腕は立つので、魔物を倒して得られる魔石を売って家計を助けてくれているんです。」


「え、魔石って魔物を倒すことで手に入るんですか?もうちょっと詳しく教えてもらえませんか?」


そういえばシルもそんな事言ってたな。

突っ込んだらもっと詳しく教えてくれてたかな?

ちらっとシルがいると思われる虚空に目を向けるが、やっぱり見えないのでどこにいるか分からない。


「ええ、知っていることでよければ。魔物を倒すと、たまに魔石に姿を変えます。魔石になるかは運なので沢山の魔物を狩る必要があるようです。そして手に入れた魔石はハンターギルドで買い取られ、魔石屋に卸されます。魔導具を持ってる人はその魔石屋から燃料となる魔石を購入するわけです。」


世の中知らないことばかり。

魔石って魔物のなれの果てだったのか。

じゃあハンターってかなり重要な職業なのでは?人を襲う魔物、倒すと人の役に立つ魔石になる、素晴らしい循環!

といっても獣を狩っても肉や皮を使うから、そっちの感覚に近いような気がする。

あとでシルに詳しく聞いてみよう。


「なるほど、これはひとつ賢くなりました、ありがとうございます。ユレーナさんも家計を助けるためとはいえ、大変な仕事をなさってますね。」 


「いえいえ、あの娘は好きでハンターやってますから。イレーナと似ているのは顔くらいなものです。」


アグーラさんはそんな事を言いながらもやはり心配そうな顔をしている。

そりゃそうだろう。普通の父親なら娘が魔物と戦うなんて考えたくもないだろう。

母親だったらなおさら…ってお母さんはいないのかな?プライベートな事だから聞きにくい。

とりあえず、気がつかなかったことにして。


「ではひとまずユレーナさんが戻られるまでということでいいでしょうか?いつ戻られるかは分かりませんが、出来るだけ早く形になるよう頑張ります!」


そういって細い腕を出して力こぶを作ってみせる。


「ほんとにお元気。お話ししてても若い人と話しているみたい。そういえばヨウさんはおいくつですか?


「じゅうろk…じゃなくて70歳ですじゃ」


危うくほんとの年齢を言いかけて焦る。

まぁ中身16歳って言ったところでどうせ信じてもらえないし70歳で通そう。

口調は早くそれっぽく言えるようにならないと違和感があって気持ち悪がられるかも。


ともかく植物に触れられる環境をゲット出来た。これは滑り出し上々じゃない?

あとでシルに褒めてもらおう!


「さっそく明日から寄らせてもらおうと思いますがかまいませんか?私の家は街から少し離れているのでお昼前には来れると思います。」


「街の外にお住まいでしたか!これは申し訳ない、ご老体に無理をさせてしまうことになってしまった。せめてユレーナがいれば道中護衛がてらお送りできたのですが…」


アグーラさんが恐縮しきりに頭を下げてくる。

腰の低い人だな。うん、この人もいい人だ。

でも他の人がいると疲労回復の魔法も使えないから、実は一人の方が都合がいい。

普通に歩いて帰ったら夜になっちゃうよね。


「いえいえ、運動も兼ねていますしお気になさらず。自分のペースで歩いて植物をながめながら歩くのも楽しいものです。ではあまり遅くなってもいけないので今日はこれで失礼しますじゃ。」


そう言ってポーション屋を出た。

もう日が傾いている。

昨日は考えてなかったけど、この世界は太陽もあるし、自転してるのか太陽が回ってるのか分からないけど、昼夜がちゃんとある。ただ体感だけど1日が少し長い気がする。

これもあとでシルに聞こうっと。


そんな事を考えながら帰途につく。

帰り道、ハンターギルドの前を通ったが、明かりが煌々と点いておりまだにぎわいの中にあるようだった。

そのまま何もなく門を出て行くが、門番はチラリとこちらを見るだけで、特に気にも留めていない様子だ。仕事しろ。

いや、実際止められたら困るんだけどさ。

街を出て少しのところでシルが話し出した。


「植物が好きとは言ってたけど、あんな話になるとは思わなかったわ。明日からあのポーション屋に通うの?」


「そうだね。あの薬草畑を見てうずかないなんて植物オタクの名折れだよ!一月は通ってじっくり観察したいね。あ、もちろん土壌改良とか商品開発もしていくよ?しばらく忙しくなるなぁ!」


明日からの植物ライフを夢想するとニマニマしてしまう。

たぶん端から見たら気持ち悪い。

暗くなりかけた街道にうすら笑いを浮かべた老人が一人歩いている。

絶対に近づいたらあかんやつです。


「あ、実はシルに教えて欲しいことがいくつかあるんだ。帰ったら教えてくれない?」


「あたしで分かることならいいけど…このまま歩いて帰ったら夜遅くなるわよ?帰還魔法使いなさいよ。」


帰還魔法?ああ、昨日教えてもらったやつか。

でも自分産マナだけでは足りないんじゃないかな?

失敗しても嫌だしシルの協力が必要だ。まだ一人では使えない、と思う。

というのも俺はマナの制御がうまくできないので、燃費が悪いらしい。ヨークラム様なら自分産マナだけで大抵の魔法は使えたらしい。

大気中のマナ濃度が上がれば魔法は簡単に使えるようになるみたいなので、世界樹の再生は生活の面から考えても早く成し遂げたいところだ。


「じゃあ人が通っても困るしちょっと木陰に隠れようかな。シル、悪いけど協力お願いね。」


「別にいいけど、ヨウ一人のマナでも帰還魔法1回なら使えるわよ?」


そうだったの?でもまぁ一緒にいるんだからいいよね。

目の届く範囲に人が居ないことを確認してから脇の木陰に身を隠す。

息を整えて集中する。

自分が出てる周りのマナ、シルから出てるマナを意識して捉える。

(これ最初はできなかったんだよ)

うん、大丈夫そう。


「シルも一緒に跳ぶのに俺だけマナ使うのなんかずるいじゃん?いい?いくよ、リターン!」


例のごとく自分産マナが光り出すが今回は隣のシルも光っている。

しかしあの薬草畑、手の入れ甲斐があるなぁなどと考えていると、自分たちが淡い光に包まれて光の粒になっていく…

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る