廃棄街の門番

コアラ太

ある門番のながーーーーーい1日

「勇者様達が魔王を倒してくれたことで、安全が戻りましたな。」

「まったくです。」

「最初は15人も召喚されて、どうなることかと思いましたがね」

「14人ですよ・・。」

「おっと失礼。勘違いしていましたな。ははは。」



「宮廷雀どもが今日も囀っているな。」

 そう話すのは鉢巻を巻いた格闘家の男。

「高村君ががんばって魔王軍を退けてくれたから、今の安全があるのに、失礼よ!」

 杖にローブを着た少女が言葉を返す。

 彼らはちょうど2年前に異世界から召喚された高校生達だ。

 高村は勇者達が育つ前に、襲ってきた魔王軍に立ち向かい死んだと言われている。

 死体も残らず行方不明だが、まともな職業やスキルが貰えず、いなくなっても構わない存在だったのだ。

 この少女は仲が良かったこともあり、未だに高村を探している。


「二人ともこんな所でどうしたの?」

 この男が勇者と呼ばれている森崎。

「ただの雑談だよ雑談。」

「ほんとくだらない話よ。」


「そう?ところで魔王も倒してから、ちょっとは休めたかな?」

「「そうね(だね)。」」


「それなら、今度は廃棄街という街を救いたいんだ。」

「聞いたこと無いな。」

「私も。」

 廃棄街とは、方々のゴミを処理する目的で作られた街。

 だったのだが、200年以上前から犯罪者の集う街になっている。

 すべての悪人を詰め込んだような街で、殺人から軽い窃盗まで何でも行われている。

 その街の治安を良くしようと悪人を成敗しにいくらしい。


「以前助けた元奴隷の子達が、その廃棄街出身だと言うんだ。少しでもそういう子を減らしたくてね。」

「行くのは構わないが、他の奴らはどうなんだ?」


「みんな来るって。納得してもらったよ。」

「私はどうしようかな。」


「ここだけの話。高村君らしき人がいたんじゃ無いかって情報もあってね。」

「な!私も行くわ!」

「話は良く聞けよ。確かな情報ではなさそうだぞ。」

「それでも良いわ!」

「ここから1ヶ月はかかるらしい。途中街にも寄るけど、明日には出発するから準備してね。」




(勇者が廃棄街へ行くそうだよ。)

(余計な場所に手を出しちゃって。)

(役目は終わったから良いのでは?)

(そうだな。あとは好きに○えてくだされば良いかと。)







 ここは廃棄街の門。

 一人の男が眠い目を擦りながら、門の前に立っている。

「アラン。また無精髭伸ばしてカッコ悪いぞ。」

 声を掛けてくるのは、街のチンピラ共。

「うっせー。二日酔いで上手く剃れねえんだよ。見ろよここを!」

 とカミソリ負けを見せつける。

「きったねぇ!んなもん見せんなよ!」

「ふん!それよりも仕事終わって中入るんだろ?」

「おうよ。」

 という答えを聞くと、アランは目を細めてチンピラを上から下へ眺めていく。

「問題ないな。入って良いぞ。」

「問題なく?はは!相変わらずその目はおもしれぇな。」

 と雑談してると後ろから声がかかる。


「僕らも入りたいんだが、良いか?」

 アランは声の方に顔を向ける。

「見ない顔だな。」

「新人か?」

「邪魔だから、チンピラは早く入ってろー!」

 と尻を蹴飛ばす。

「いって!くそがぁ。三日酔いになっちまえ!」

 そう言って街へ走り去って行った。


「待たせたな。」

「あ、あぁ。」

 アランは再度見ると、20人近くの大勢が居た。

「団体さん?この街は廃棄街だぜ?」

「団体はダメなのか?」

「ダメじゃねーぜ。ただ入るには俺の目で大丈夫か見ることになっている。」

 そう言うと男は後ろに振り返り、仲間に話しかけている。


「そう言うことみたいだが、みんなも良いかい?」

「勇者が決めたんなら良いんじゃないか?」

「ダメな人はどうするんです?」

「そうよね。」

「入れない人もいるかもしれないか。」

 勇者って魔王を倒したとか言う奴か?

 話のネタは聞いてたけど、何しに来たんだか・・。


「じゃあ、入れなかった人は、引き返して自由行動にしよう。」

「決まりだな。」



「門番さん。待たせたね。」

「じゃあ見ていくから、一人ずつ俺の前に立ってくれ。」

 列に並んで良い子ちゃんばっかか?

 こりゃ入れないかなぁ?

 数人はただの案内だったみたいで、入りたく無いそうだ。


 結局入れなかったのは2人だけだった。

「待たせたな。全員見たが、そこの鉢巻男とローブ女はダメだな。他は入って良いぞ。」


「ちょっと待ってくれ!なんでダメなんだ!?」

「そうよ!強さなら私たちより弱い子も向こうにいるわよ!?」

「俺の目は特殊でな、ある種の力を見ることができる。お前達はその力が足りないんだよな。残念だが入っても死ぬだけだぞ?」


「それなら僕が守れば良いんじゃない?」

 と勇者君が話してくる。

 ちょっと勘違いしているようだ。

「勇者様は勘違いをされているようだ。」

「む。どういうことかな?」

 ちょっと怒ったか?

「まず、この基準を作ったのは総勢30カ国を超える国の基準だ。決定を覆したければ、全ての国主に許可を貰ってくれ。欲しくは改正させてくれ。」

「勇者でもダメなのか?」

 勇者は何でも出来ると思ってるのだろうか。

 だから門を潜れるのだろうな。

「ダメだな。嫌なら入るの止めても良いぞ?」

 俺がそう言うと諦めたようだ。


「じゃーぁねぇ。小鳥ちゃーん!」

「私たちが代わりに行ってあげるわよー。」

「はっはっは!お前も弱かったんだな!」

「弱ってる君の代わりにボークが行ってあげるよ。」

 と嘲笑しながら仲間達が入っていく。


「門番君のことは後日、国に伝えさせてもらうよ?」

 勇者君、思った通り嫌な奴だな。

「どうぞ、ご自由に。」

 と答えておく。


 勇者達が中へ入ると門は勝手に閉まっていく。



 振り返ると、入れなかった2人は残ってるな。

「君達。仲間はちゃんと選んだ方が良いよ?」

「どういうことよ!勇者の仲間なんだから良いじゃない。」


「その勇者君もどうかと思うけどね・・。鉢巻君はわかってるんじゃないの?」

「まぁ、薄々とはね。」

「何かあるの?」


「森崎は元クラスの女の子全員を手込めにしたいんだよ。お前もな。」

「時々見せる変な視線はそれなのね。乗ってやらないけどね。」

「それだけでも無いんだが、俺は門番に何が見えてたのか気になってる。」

「私も気になってた。さっきもはっきりとは言わなかったわよね。言っちゃダメなの?」


「別に?ただ初対面は無駄に話してないだけだよ。ほとんど言っても意味無いからね。」

「それはどういう・・。」

 すると門の中からかすかに甲高い音が聞こえる。


「なんか戦ってないか!手伝った方が・・」

「門の中へは入れないよー!」

 通せんぼ!


「この街に入れるのは悪人だけ!俺のスキルは『ごうの目』。人が溜め込んだ恨みや呪い、もしくは善行を数値で見ることができる。」


「え?それじゃあ。」

「入った奴らは。」

 2人とも良い表情しているよ。

「悪人だね。」

 俺がそう答えると2人は案内人達に振り返る。

「「知ってたのね(んだね)。」」



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 <勇者視点>


「中に入ったらすぐに廃墟かよ!?」

「きったねー街だな!」


「森崎君。何かあったら助けてね!」

「ずっるーい。わたしもー。」


「そうだね。みんな守れるよう頑張るよ。」

 クソどもが!使えそうな2人だけ入れねーのかよ。


 周りを見渡しても廃墟。

 その隙間からこちらを覗く視線が多数ある。

 戦闘には自信あるが、この粘りつくような視線が深いだ。

 男共は多少自力でなんとか出来るだろう。


「とにかく一度進んでみよう。街の情報が無さすぎる。」

「情報収集なら得意だ。先に行ってくるよ。」

 と陰キャ野郎が動き出した。

 ちょっと使えるじゃねーか。


 1時間程まっすぐ歩いたが、中心街まであと3分の2はある。予想以上に大きな街だ。

 その癖、外への門はあそこ一箇所とか、普通ならありえないだろう。


「みんなどうだ?」

 と振り返ると人数減ってないか?

「みつる達は?」

「さぁ、トイレじゃない?」

 団体行動も出来ねーのかよ!

 頭を掻きむしりたくなるのを抑えつつ笑顔で話す。

「ちょっと休もうか。」

「「「さんせー!」」」


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 <廃墟の路地裏>

 中肉中背で白衣を着た男と、ツインテールの少女が居る。

 白衣の男が興奮したように話しだした。

「むっふー!新しーく入ってきたー。アナタ達は良い素材デスねー!」


 みつる、とおる、たける。

 3人は体中を特殊な紐で縛られ、猿轡を噛ませられた上で眠っている。

「変な先生!今日は収穫いっぱいだねー!」

「コラー!私を呼ぶ時はサイエンティスッツ!と呼びなさい!」

「サイエスッス!」

 そんな話をしていると、みつる達が起き出して唸り出す。

「うー!んー!?んー!!」


「やぁ。善良な市民達。お目覚めはいかがかな?」

「スッス!声は優しくても顔がこわーい!」

「うるさーぃ!良いから研究所へ運んでしまって!」

「はーい。みんなー出番だよー。」

 と少女が言うとツギハギの体をした化け物達が現れる。


「む。大事な検体が騒ぎ出しましたネ。みなサーン!なるべく傷をツケ無いように気をツケテくださいヨー!」

 化け物達も必死に頷き「うがぁ」と返事をする。

「じゃあ、てっしゅうだー!」


「キメラは飽きましたからねぇ。魔力耐性もありそうなので、久しぶりに魔人化を試してみましょう!ふっふーん♪」

 少女もニッコリ笑顔。

「君達楽に逝けると良いね!」



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 <勇者視点>

「みつる達も戻らないし、女共も数人消えた。どうなってんだよ!」

「さわぐなよ!あいつらもそれなりに戦えるんだ。中央にいればそのうち来るだろ?」


「そうだね。残った人達で先に行こうか。でも警戒してね。必ず3人以上で行動だ!」

「「「了解。」」」


 みんなでまとまって、進んでいくと、少し良い街並みに変わって行った。

「少しマシになってきたわねー。」

「やっとかよ。」

 そう安堵していると、横から声がかかる。


「お前らさっき門にいた奴らか?」

 チンピラだ。

「あなたは門で蹴られてた・・。」


「うっせー!あれは忘れてろ!」

 と不意に頭上からいくつかの知らない声がする。

「ぎゃっはっは!お前また門番にやられたのか?」

「毎度こりねーよな!」

「はっはっは!コリコリ?おいしい?」

「お前は骨しゃぶってな!」


「んで何だこいつら?」

「初めて来た奴らだよ。知らないけど。」

 止まらない会話に勇者達も戸惑う。


「君達は何か用かな?」


「用。用かぁ。そう言われると無いんだが、ちょっとした挨拶だな。」


「そうか。僕は勇者をしている者だ。」

 と森崎が言うと、チンピラ共は顔を見合わせ。




 笑い出す。

「「「ぎゃっはっは!」」」

「勇者様だってよ!」

「この街に?」

「勇者が入れるのか!?」

「魔王の間違いだろー!」


 その言葉には看過出来ないようだ。

「何がおかしい!」

 と剣に手を掛ける。


「おっと、危ない奴だ。」

「さすがは勇者。」

「やめときな。危険だぜ?」



「お前らが謝ればな・・。」


「ふぅ。しょうがねぇな。いつものやるかぁ?」

「「「鬼ごっこ!」」」

「こっちは5人。」

「相手は?」

「8人!」

「1人ずつ!」

 そう言うとチンピラ共は素早い動きで弱い奴を狙って捕まえる。

 その後、何かを嗅がせた者から眠っていく。

「おっと危ない!」

 勇者の剣を躱しつつ話しを続けていく。

「良い顔してるぜ?ゆ・う・しゃ・さ・ま!ついてきな!」

 そう言うと5人一斉に中心街へ向かって走っていく。


「人抱えてるのに俺らより早え!」

「僕らも油断しすぎたが、なんて奴らだ!」

「勇者のスキルじゃダメか!?」

「みんなも殺してしまう!」

「くそ!」


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 <廃墟の一角>

 勇者からはぐれ、迷ってしまった者達がいる。

「4人も居たのに誰も気づかなかったのね。」

「私もスキルで索敵してたけど、わからなかったわ!」

「何らかの妨害スキルか魔法かもしれないな。」

「愚痴を言うよりは、警戒してたほうが得策だな。」

 魔王を倒した経験から窮地の対策も出来ている。

 だが、この街は特殊だ。

 どこからか声が聞こえてくる。

「おやおや。ここらは危険だよ。」


「誰だ!!」


 姿が見えると、そこに立っていたのはスーツを着ている太った初老の男性だ。

 パン!と柏手を打って話出す。

「まぁ、落ち着きなされ。」

 とても良い声をしており、耳心地が良い。

 すぐに信頼してしまいそうになるのを堪えて尋ねる。

「俺らは中心街に行きたいんだが、方向はわかるか?」


「それならば、向こう側に行くと良いよ。すぐに街並みが見えるはずだ。」

 指を弾いた後に、向き指して教えてくれる。

「ありがたい。」

「「「ありがとうございます。」」」


「ついでだしな。私は用事があるのだが、知ってる子に案内させてあげよう。」

 後ろを向いて手を小招いていると、6歳くらいの男児が現れた。

「この人達を中心街まで案内してあげなさい。」

「わかった。」

 とても愛らしい声に聞こえる。


「みんな。付いて来て。」

 男児の先導で、一向は中心街へついていく。

 しかし、誰も気づいていない。


 前を向いて先導する男児の笑顔が。



 とても醜悪なことに。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 <中心街>

 ここは、大通りにある広場。

 人通りも多く、行き交う人々で賑わっている。


「やっと追いついたぞ!」

「散々引っ掻き回しやがって!」

「みんなを離せ!」

 僕達が言うと


 チンピラのリーダーが声を出す。

「離してやんなぁ。」

「鬼ごっこもここまでだな。」

「来たかったんだろ?」

「中心街ついたよ。」

「結構早かったな。」

 と人質を離し、ついでに気付けで起こしている。


「あれ?ここは・・。」

「捕まったと思ったんだけど。」

 捕まった者達は、それぞれ状況がわかってないようだが、僕達もわかってない。


「な!何なんだ!」

「人質をすぐ離すとは思わなかった。」

「何がしたかったんだ!」

 困惑を隠せない。


「だから鬼ごっこだよぉ。」

「だなぁ。」

「あとは、ここの人達の役割。」



「ここの人達ってどういう。」

 そう尋ねると、チンピラが嬉しそうに話す。


「だってお前勇者なんだろ?」

 と指してくる。


「だったらなんだ。」


「面白えマッチポンプだよ。」

 と言うと、いきなり大声を出し始める。


「魔王を!殺した!勇者が!来てるぞー!!!」

「じゃあな、勇者君。楽しんでくれい。」

 そういってチンピラ共は、5m程の高さを跳ねながら遠くに去っていく。


「なんだったん・・」

 言葉がこぼれ掛けた時に、ズドン!と猛烈な爆風と砂埃が吹き荒れる。



「勇者が来たってぇ!!?どっこのどいつがそうだぁ!?」

 声まで爆音で鼓膜が破れそうになる。

「っくぅ。」


 今度は静かな声で

「どいつが勇者だ。」

 と話すと、行き交ってた人が先程の様子を見てたのか、僕を指で指した。

「いらっしゃーい。勇者くーん。」

 そいつを見ると、発達した筋肉が全身を纏い、ゆったり目のボンタンに上半身は裸。

 身の丈は2mをゆうに超え、魔王よりも迫力を感じてしまう。


「い、いきなりなんだ!?」

 答えると、そいつは眉尻を下げ残念そうに返してくる。

「お前本当に勇者か?弱っちそう。」


「な!いきなり侮辱とは、さすがに許せないぞ!!」

 剣に手をかける。


「あ、ちょっと良い感じだなあ。よし死合う《やろう》。」


 僕が飛び出して駆け抜ける間に、10本。

 剣線が通る。

「魔王もこれでかなり深傷ふかでを負った技だ。」

 人に使って褒められる技ではないが、やばそうな相手だったな。



 と終わったつもりでいた。

「確かに早いけど、何だよこれ。」

 と口をへの字に曲げ不機嫌を隠そうともしない。


 すると頭上からさっき聞いた声だ。

「グランドさん。勇者どうですか?」


「お前、嘘ついてたんじゃねーの?やっぱ弱えぇぞ。」


「えぇ?ちゃんと勇者って言ってましたよ。」

 腸が煮え繰り返るように怒りが溢れてくる。

「オレが勇者だぁぁぁぁ!!!」


「ほらぁ、グランドさんが言うから怒っちゃったじゃないですかぁ。言い方も僕からオレに変わってますよぉ。」


「知らねーし。おら勇者。本気出せ本気!」

 その言葉に呼応するように、先程より素早く駆け、力強く切り裂く。

 今度はやっただろうと顔を上げる。

「どうだ!!」


「ぜんぜんダメ。お前才能ないよ。やる気が足りないのかなぁ?」


 オレの不利を感じたのか仲間達が声をかける。

「俺もやるぞ!」

「私も!」

 と攻撃の準備をしている。


「みんなで倒そう!!」

 そう言うと連携してグランドへ攻撃を叩き込み始める。

 火や雷の魔法に、槍や斧の攻撃を一身に食う。

 土埃が舞い、爆風が吹き荒れる中、森崎が魔王を倒した技を使う。

 剣身に光が宿り、空気が震える。

「これが最後だ!ホーリーインパクト!!」

 グランドに当たった攻撃は天まで光を伸ばし、地面をえぐる。



「森崎やったな。」

「あいつも魔王だったんじゃ。」


「ふぅっふぅっ!」

 息が荒れてるが、オレはやりきった。


「え?え?あれで終わり?」

 チンピラが驚いてるようだ。


「そうとも、あれが最強で最後の技だ。お前にも食らわせてやろうか?」


「お前残念な勇者だったんだね。」

 とチンピラが言う。

 なんだと?

 と言葉を返そうとしたが動けない。



「お前危機感が足りないのかなぁ。勇者って仲間死ぬと強くなるよね?なんかで見た気がする。」

 地面から声が響いたかと思うと、横から破裂音がして、生暖かい物が降りかかってくる。

 血生臭く柔らかい物体。

「きゃぁぁぁぁ!」

「え?」

 ボン!

 今度は反対から。


「これでどう?まだダメかぁ。」


 気づくと、俺の後ろに回り込み、グランドが両手で女子の頭を掴んでいる。

「ぐべ。」

「たしゅ、け。」


「勇者君。力出そう?」

 という言葉にもオレは反応出来ない。


「仕方ないなぁ。」

 と右手が閉じる。

 弾ける音では無く鈍く湿った音だ。


「これでもぉ?」

 左手も閉じかけて緩め。


「もり、しゃき・・。」


「グランドさん、もう終わってますよぉ。相変わらず力加減下手ですねー。」


「またやっちまったなぁ。」

 とグランドは残念そうにしている。


「え?」

 呆けてしまい反応が出来ない。


「でも、こいつら弱すぎて手加減仕切れないぞ?」

 グランドが愚痴ってるとそこにはぐれていた仲間が現れる。


「「「「森崎(くん)!」」」」


「ひどい惨状だ。」

「何があったんだ?」


「あ、あいつだ!」

 仲間の声でやっと意識が戻ったのか話せるようになった。


「あいつがみんなを殺したんだ!く!」

「なんだとぉ!」

「ゆるせねぇ。」

「私たちで倒すわよ!」

「はい!」


「こ、これで、もう一度頑張れる。」

 と奮い立つオレにグランドが答える。


「あぁ、ダメだなぁ。アジってんなありゃ。」

「やばいっすよ!俺そこまで耐性無いから逃げまーす。」

 とチンピラが音だけ残して消えた。

「そんな趣味悪い格好してないで、戻れヨォ。」

 グランドは何を言ってるのだろうか?

 視線を追ってみると、小さな子供が見える。


「おじさんの言ってることわからないー。」

 声も子供で愛らしく聞こえる。

 殺伐としていたはずなのに、なぜか和む。


「きっしょ!やめろよ。」

 グランドがそう言った事に不快感が募る。

「おい!子供になんてことを!」

 言葉を続けようとするが、その子が話出す。

「そうか。君が勇者様だね。」

 まるで天使のようだ。

「そうだよ。君も守れるよう力をつくそう!」

 オレが守るんだ。

 子供を?

 なぜ?


「そう。」

 と言うと口元が三日月のように割れていく。

「おやつを!いっぱいあげようねー♪」

 ドス!

 という音がすると、気づけばオレの腹から血が流れ、内臓の一部が溢れ出している。

「へぁ?」


 ナイフを手に持つ仲間が見える?

「森崎君おいしい?いっぱいあげるね。」

「私もあげる!」

「俺のは君に。」

「俺はどうしようかな。」

 とみんなナイフを持ち仲間を突いていく。


「お前本当に趣味悪りぃんだよ!」

「煩いわい。か弱い老人の戦い方じゃ!」

「うっそ言うなし!普通に戦えるの知ってるぞ!」

「黙っとれ!!」


 子供がしわがれた声を出しながらグランドと話しているように見える。

「しかし勇者もこの程度じゃったな。」

「そうだよなぁ。またどこかの魔王イビリでもするか?」

「ふん。面倒くさい。」

「だなぁ。帰るわ。」


 と2人ともいなくなってしまった。

 止めどなく流れる血を見つつ体は動かない。

 麻痺毒が塗ってあったのか、痺れてしまっているようだ。

 仲間達はお互い刺しあってすでに琴切れている。

 これがオレの最後。

「惨めだ。」

 やっと出たのがこの言葉。


「森崎。来ない方が良かったね。」

 声の方を見ると、死んだと思ってた高村。

 顔中に切り傷はあるが、はっきり覚えている。

 オレがしっかりと逃げられないように足を潰したんだ。

「復讐しに来たのか?」

 麻痺が抜けて来たのか口だけ動く。

「この街に入った時点でやめたよ。」

「なぜ。」

「何もしなくても、みんな死ぬと思ったから。」

「それは。」

「この街は悪人しか、入れないんだ。君も他の奴も。そして俺も。」

「失敗したなぁ。」

 魔王倒してのんびりすれば良かったんだ。

「安心して死んで良いよ。これから殺すけど、復讐とかじゃなく仕事なんだ。ごめんね。」

 そう言って高崎は首を閉めて来て、すでに朦朧としているオレを殺そうとする。

 あぁ。

 終わった。




「ふぅ。森崎も残念だったね。」

 そう言って高崎は通信機を取り出す。

「こちら終わりました。使える検体は・・3体かな。ハイエナが来るから早く来てくださいよ?野犬のことですって。はいはい。」



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 <門の外>


「ねぇ。いつまでここに居る気?」

 あれから丸1日。

 こいつらは門前から動かない。


「森崎達の話を聞くまでは。」

「うん。」


 俺の門番スローリーライフが無くなるんだ!よ!

「案内人さんは良いのぉ?」

 と一緒に待ってる案内を巻き込む。


「入れなかった勇者の意向は聞きますよ。」

 とニコニコ顔だ。

 そんな言葉が欲しいんじゃないっつーの!


 すると遠くから馬車が来るのが見える。

「門番の仕事だから邪魔すんなよぉ。」

「「うん。」」



 結構豪奢な馬車。

 見たことあるなぁ。

 娼館のか。

「オーナーもう帰り?」

 と声を掛けると、窓からこちらを見て話してくる。

 いつもこんなだ。

 男なら全員振り返るって言われるほど、すっごい美人なんだ。

 俺?

 趣味じゃないかな。

「うーん。良い収穫無くて・・・ねぇ。あら。そちらの・・女の子良いわね。」

「あれは入れない奴だよ。」

「残念。ところで、なんで・・そんな人が居るの・・・かしら?」

「中に入った仲間を待ってるのさ。」

「へぇ。」

 と言うと珍しく扉を開けて出て来た。


 2人も案内達も呆然として動けなくなってしまっている。

「あなた達。」

 と声がかかる。

「「はい!」」

 緊張でそうなるわなぁ。


「中に入った・・人なら、会わない方が良・・いわよ?」

「それはどういう。」

「アランちゃん。あとは・・教えてあ・・げて。」

 そう言うと馬車に戻り、門の中に入っていく。


「うまく言えないが、すごい人だったな。」

「語彙力終わってるわ。それよりどういうこと?」


「簡単な話だよ。あの門を潜った人間の選択肢は2つ。」

「それは。」

「死ぬか。犯罪者になるか。」


「「・・・。」」

「案内人さんも言ってあげなよぉ。」

 と俺が懇願するとやっと話してくれる。


「私たちも又聞きですが」

 と前置きしつつ。

「門の中は犯罪の温床で、人は殺し、騙し、しゃぶり尽くす。生きたまま魔物にされるという噂もあります。そして門から出てくる人間は、一定の信頼ある極悪人の許可があって外に出れるそうです。その時に厳しいルールが課せられます。」

 俺もうんうん頷く。

「そのルールって?」

「決められた人物か人種だかしかを殺せないことです。」

「人を殺さないことが厳しいって。」

 ここで俺も口を挟む。

「そういう人間達しか中に入れないんだよ。」

 と目を指す。

「ちなみに、チンピラを蹴った蹴りだが。」

 と地面を蹴ってやる。


 ズゴン!

 と響かせて、土が2m程の深さまで抉れる。

「「「「な!」」」」

 案内人まで一緒に驚いた。


「今は軽く蹴ったんだけど、生き残った中の子供もこの位軽くできるんだ。」

「すごい力ね。スキルか魔力で強化したのかしら?」

「そうだな。それなら納得できる。」


「残念だが、素の力でこれだ。生き残るにはこれが最低限。ところでお前のとこの勇者ってどの魔王を倒したんだ?」

 この質問がわからないようだ。

「どのって、魔王はギールっていうデーモン種よ。」

「正確には子爵級のデーモンだな。」


「誰だそいつ?魔王って王なんだろ?子爵じゃ子飼いだろ。」

「門番殿。」

 と案内人が話す。

「我々にとっては子爵級も魔王なのです。我々は魔王を大中小まで分けて呼んでいます。ギールは小魔王でした。」


「そいつは初耳だな。」

 というところで、チンピラが現れた。


「アラン終わったぞぉ。」

「ほらお待ちかねの奴が来たぞ。」

「なんだ、入れなかったの、まだ残ってたのか。」


「悪かったわね。聞きたかったのよ。」

「俺もだ。」


「そういうことなら一緒に。」

 そう言って先程あった話をしてくれた。

 あまり良い表現は無かったが、概ね予想通りだな。

 ちょっと言い方がよく無かったか、嗚咽しちゃってるし。


「でもアジ来ちゃったの?可哀想だったね。」

「ありゃあ、俺もさすがに逃げたぜ!」


 回復した男が話出す。

「話にあったアジってやつと、グランドさんは誰なんだ。」

「外じゃ知られてないのかな?」

 と案内人に向く。

「グランドという名前は聞いたことがあります。7星の1人ですね。」


「そう。グランドさんは『暴力』って言われる人だ。こいつの親分でもある。」

 チンピラを指す。

「アジさんは、『メンタル扇動者アジテーター』からアジさんだね。本名知ってる人のほうが少ないよ。最後に現れた男は知らないな。でも、たぶんマッドの使いでしょ。マッドは『研究者』だな。」

「その3人とも7星なの?」

「マッドさんは違うよ。君らは1人会ってるよ。」

 と言うと、あっとした顔をして見合わせる。

「「オーナー!」」

「そう。あの人は『傾国』さん。5個くらい国を潰しているらしい。というのは正確な数がわからないから。他にもいるけど、今回は関わりないから良いね。俺も2人知らないし。」


「アランだけじゃないぜ?俺もグランドさんも知らないよ。1人は子供ってのは聞いたことあるけどな。」

「アジさんじゃなくて?違うならやっぱり知らないな。」

 とここで一度話を区切る。


「軽く話しているけど、このチンピラも所謂いわゆる極悪人だよ。」

「言い方はアレだが、否定しねーよ。好んで殺しはしないけどな。」

「君らもこいつは信用するなよ。関わらないことだ。内容は言わないでおいてやる。」


「なんで。」

「おい!やめとけ。」

 ローブ女が何か言いたいようだが、鉢巻が止めている。

「なんでそんな奴らを外に出すのよ!危険じゃないの!?」

 なるほど。


「答えは簡単だ。廃棄街と各国で決めたからだ。」

「そんなんじゃ納得できないわよ!」


「アランはいつも言葉が足りないんだよー。国強者を集めても親分達は殺し切れない。残った奴が方々に散って蔓延はびこるのが一番危ないんだ。」

「お前が言うなよ。そういうことだ。別に納得する必要は無いぞ?」

「どういうことだ?」

「お前もか?お前らが召喚される前の国にも、法律があるんだろ?これは法律なんだよ。」

 黙ったってことはもう良いのかな?


「ほら、早く帰れ。犯罪者以外はお断りだぞ。」



「帰り前に聞きたいんだけど、あんたは何でここの門番なんてやってるの?」


「あぁ、言ってなかったな。このスキルを貰ったからってのもあるが、俺もこの街の住人だ。」

「「「「え?」」」」

「そいつは『流水』のアラン。何でも受け流す奴だよ。触れると関節外す癖があるから気をつけろよ。」

「だからお前が言うなっての!じゃあな!俺はこれから帰って日記を書くんだ。もう邪魔すんじゃねーぞ?今日は2日分使っちまいそうだな。」

「帰りに飯食おうぜ。バージェスの店が安売りだってよ。」

「あいつたまに、人肉出すだろ?カニバルは嫌いだ。」

 チンピラが呆けている。

「え?お前知らなかったの?うっわ。」

「俺もカニバルやだ・・。」

「大丈夫だって、あの親父も好きな奴しか出してねーよ!あぁぁぁ。じゃあそこで聞きにいくぞ。」

「おう・・。」





 そんな会話を遠目に見つつ、案内人達と1組の男女が離れていく。

「俺たちの世界は狭かったな。」

「分かってたつもりになってた。自分が弱いってやっと分かったのかしら?」


「もっと強い人は多いかもしれません。それでも、あの街に入らなかった、あなたがたは立派に勇者です。」

 その言葉に少し救われた気がする2人であった。

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廃棄街の門番 コアラ太 @kapusan3

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