第三一匹 少年

 アキトは新調された有坂銃の手応えを確かめるようにして、試し打ちや弾薬の装填、排莢を繰り返す。そうして、辺りに何十発もの空薬莢が散乱し、周囲には焦げた匂いが漂う。


「この銃のクセは大体わかった」


アキトはそう言い、有坂銃を構え引き金を引けば、乾いた破裂音と反動、それを合図にすばやくボルトハンドルを起こし後ろに引き、完全に引き切ったと同時に空薬莢が銃から弾き出される。


そして、再びボルトハンドルを前に戻して、ハンドルを倒し引き金を引く。


ヅァッーーーン!!


鋭い破裂音が再び鳴り響く。


「ざっと、こんなもんか」


アキトがそう言うと、二匹の首が弾丸で粉砕されたカラスが空から落ちてくるのであった。



 その日の夜、アキトは集落の村長宅で男衆を集めて、イノシシの巻き猟の作戦を説明していく。


「ここで皆は、大声で自分の気配をイノシシに悟らせて、巣からおびき出してくれ。それを俺が撃つ」


熱心に説明を聞いている男衆は、自分達の動き方を覚えていく。


そうして、男衆全員の役割分担を終えた頃。


「皆衆、明日はアキトさんの作戦通りイノシシを狩るべさ。今日はよく寝るんだべ 」


そう言って村長が締めの言葉を言って男達は各々の家へと帰っていく。


「それじゃあ、アキトさんさ。今日はここで寝泊まりしてくだせ」


と、村長はそう言ってアキトとヘカテリーナを二人っきりにするのである。


 先程までのざわつきはどこへやから、大部屋は静かさに至る。


「アキトさん、今日はお疲れ様でした。もう私、クタクタです」


ヘカテリーナは眠たそうに目を擦ると、


「まだ寝るには早いぞ。おい、そこにいる小僧、降りてこい。居るのはわかってるぞ」


アキトがそう言うと物音が上の方からガタガタとし、天井の勝手口が開いてそこから10歳ほどの少年が降りてきた。


「ずっと天井にいたようだが、俺に何か用か? 」


アキトは、無表情で少年を見る。


その少年は、アキトの圧に圧倒されながら、恐る恐る言葉を捻り出す。


「お、おらも一緒にイノシシ狩りに連れていってくれ」


「駄目だ」


アキトは即答でそれを断る。だが、少年はそれで引き下がろうとせず、自分を連れていくよう説得し続ける。


「どうかお願いだ、どうかおらを狩りに一緒に連れていってくれ。おらはこの集落でブタやヤギを飼ってるだ。だばって、解体の腕ならこの村一番だ、頼むだおらをどうか連れてってくれ」


最後には少年は懇願するようにアキトに申し出る。アキトは、ヘカテリーナに問いかける。


「ヘカテリーナ、この少年からはどんな匂いがする」


「え、そうですね・・・ちょっと、獣くさい感じです」


その言葉を聞いて、アキトは決断を下す。


「よし、おい少年。今から、言うことを約束できるなら連れて行ってやる」


「おう、なんだって聞くだ」


「いいか、心して聞けよ。一、俺より前に進むな。二、獲物に情を湧くな。三、俺の命令は絶対厳守だ。この三つを守れるなら、連れていってやる」


「合点承知だべ、恩に着るだ。それだば、おらは家に帰って明日に備えるだ」


少年はそう言うと、風の如く去っていくのであった。


「さて、ヘカテリーナ。そろそろ寝るか」


そう言って、ヘカテリーナの顔を見ると彼女は不安そうな顔をしていた。


「アキトさん、あの子を連れていって本当に大丈夫なんでしょうか? 」


「大丈夫だ、あの年頃の子の考えることは大体わかってる。さて、そろそろ俺は寝るぞ」


そう言って、アキトは目を閉じて眠りにつくのであった。

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