第42話 12(最終話)

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 目を閉じて、主人公のキスを待つ彼女。頬を赤く染めた表情は、それまでに見てきたエキセントリックな姿とは、どれも違っていた。



 寂しかったんだと、彼は思う。彼女は、誰かに自分を伝える術を知らなくて、ずっと孤独でいるうちに、一人で居る事に慣れ過ぎて。だから、いつの間にか寂しいという気持ちも忘れてしまっていたのだと。



 彼女の生活が魅力的なのは、きっとそのせいだ。普通であれば対人関係や夢を探すために割くリソースを、彼女は全て自分の世界に注ぎ込んでいるのだから、他の人よりも輝いて見えるのは必然だ。



 ただ、その光はあまりに明るくて、近づく者を焦がしてしまう。意志とは裏腹に、全てを溶かしてしまう。理解の及ばない彼女をみんなが恐れたのは、当然の事だった。



 しかし、彼がそれでも彼女を愛したのは、同じコンプレックスを持つ者だったからなのだろう。

 寂しくないように近づいたのに、励まされたのはいつだって自分だった。そう思うと、今度こそは彼女の力になりたくて。



 だから彼は、唇で彼女に触れたのだ。



 目を開けると、彼女の金色の髪が激しく揺れた。

 匂い。柔らかな花の匂いを感じて辺りを見渡すと、教室だったはずのこの場所にはいつの間にか花びらが散っていて、後ろを振り向けば大きな白い城がそびえたっている。天使の子供、線の様に輝く日光。



 ……これが、君がいつも見ている世界だったのか。



 目を開け、彼女が彼を見る。潤んだ瞳には、熱い熱が籠っていた。そして。



 「大好き」



 呟くと、彼女は微笑んでから彼の言葉を待っていた。



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妄想ディレクション 夏目くちびる @kuchiviru

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