第15話 〜"学校のカイダン"編⑫〜

 三芳と谷川が手を洗い終わり教室に戻った時、茜は黒板掃除をしていた。

 「あの、茜ちゃん。私、手伝ってもらわなくて平気だよ」日直で1段の山田やまだ 由美ゆみが言った。

 「ううん、いいよ。二人でやった方が早く終わるし、次は給食でしょ。準備しなきゃ」

 「茜ちゃん。何してるのよ」いつの間にか茜の背後には、山沢やその取り巻きたちがいた。

 「由美ちゃんの手伝い。あなた達も手伝ってくれるの?」

 「は?」山沢はチョークを手にし、茜がきれいにしたばかりの黒板に、上の方から1番下まで線を引いた。「あなた、4段になったからって、調子に乗りすぎるのは良くないわよ」

 そうよそうよ、という顔で取り巻きたちも茜を見る。

 茜は近くから椅子を一つ持ってくるとそれに乗り、山沢が書いた線を一気に消した。「調子に乗ってなんかないよ。何しに来たのか考えた時に、手伝ってくれるのかもと思っただけだから」

 「あっそ」怒りで顔を赤くした山沢が吐き捨てるようにそう言った。


 「今まで不思議に思ってなかったけど、こうして見ると違和感すごいな…」教室のドアに寄りかかって、谷川が言った。

 「2年以上この学校にいますけど、僕もこんな光景は初めてですよ」谷川の隣で、三芳はポカンと立っている。

 二人の目の前で、茜を取り巻いて1段から3段の女子生徒たちが、仲良く会話していたのだ。全員で15人程いる。茜の転校初日に質問コーナーが開催されたとはいえ、4段の生徒たちばかりが質問していたため、他の段の生徒たちは聞きたいことが聞けず、ムズムズしていたのだ。

 

 給食が終わり、お昼休みになると、さっきの女子メンバーに加え、男子まで会話に入りだしていた。

 「前の学校のあだ名って何だった?」と2段の高良こうらが聞く。

 「谷ちゃんとか、あーちゃんとかかな。普通に茜って呼ぶ人もいたよ」 

 茜の隣にいたくせに、中々会話に入れなかった(しかも他の男子生徒から避けられていた)三芳は勇気を出してその会話の中に入っていった。「たまに、谷川先生も他の先生から、谷ちゃんって呼ばれてるよね」

 「うちの親戚はみんなあだ名が谷ちゃんだよ」茜は優しい笑顔で三芳を会話へ引き入れる。

 お喋りしていた女子たちは、やっと三芳君が会話に入った!と内心で歓喜し、男子たちは少々の嫌悪感を見せた。

 その空気を察した茜は、「謝った方がいいよ」と三芳に耳打ちした。

 三芳はまたもや勇気を振り絞ると、「なあ、今までごめん。学校のしきたりだからって、差別とかいじめとかは良くないよな。これからは、もうそういうのなしにするよ。ほんと反省してるんだ」と頭を下げた。

 それを聞きつけた他のほとんどの4段生徒たちがやってきて、三芳と同じように頭を下げる。

 ただ一人、山沢を除いて、3年4組のクラスメイトたちは"学校のカイダン"の廃止を受け入れたのだった。


 その後、三芳は谷川の協力を経て、校内に「"学校のカイダン"の廃止について」というプリントを配り、ほとんどの生徒の立場は平等となった。

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