第9話 〜"学校のカイダン"編⑥〜

 「おはよ、茜。それと…近藤さん」三芳が茜の机に手を置いて、おしゃべり中の茜と近藤に話しかけた。後ろには、いつものメンバーを引き連れて。

 「おはよう」茜と近藤が同時にあいさつする。

 「どうして最近私達に話しかけてくるの?」茜は無垢な瞳で、初めて三芳の目を見た。

 うっと声を上げると、三芳は顔を赤くした。しかしすぐに、「何でだと思う?」と茜の目を見た。

 「分かんないから、答え教えて」

 「うーん、ナイショかな」三芳は得意のはにかみ笑顔をした。

 大抵の女子は、これで三芳のトリコだ。近藤も今、その1人となった。

 「三芳君、襟にゴミがついてる」茜は三芳の襟をいじってあげた。

 

 「陽菜太、顔赤いよ。どうしたの?」もはや三芳たちのグループの住処と化している男子トイレで、松下が聞いた。

 三芳は「赤くねぇし」と言ってベンチに座り、腕を組んだ。「…初めてこっちを見た」

 「良かったな。必殺技も使ったし」陣台が三芳の隣に座る。

 「丹波、確かめて来い」と三芳が丹波を見ずに言う。

 「えっ?あ、うん。今?」

 「今!」三芳は赤い顔をなおしたが、耳は赤いままだった。


 「谷川さん。ちょっといいかな」と丹波が茜の席の隣へ座る。

 「丹波くん。何?」茜は丹波の目を見た。

 「谷川さんって、三芳のことどう思ってるの?嫌い?」

 「突然だね…何でそんなこと聞くの?」

 「だって、谷川さんってあんまり三芳の目を見て話さないから」

 「5段組の人とは目を合わせない方がいいって聞いたんだよ」

 「えっ?誰から?」

 茜は近藤の方を見たが、近藤がだめ!と言わんばかりの目で見つめてきたものだから、「誰だったかなー、覚えてないや」と言った。

 「そっか。で、どうなの?嫌い?」

 「教えて欲しい?答えがどんなものでも」

 丹波はゴクリと唾を飲み込み、「それって、どういう意味?」と聞いた。

 「私が知りたいこと教えてくれたら、教えてあげる。どんな答えも覚悟してるんでしょ?」

 「そんな、覚悟するような答えなの?」

 「さあね。さ、どうする?丹波くん」3年間も中学三年生の経験がある夏は、駆け引きなんてお手の物だ。

 「ちょ、ちょっと待っててもらえる?」丹波はトイレへ駆け込んで行った。

 

 「茜ちゃん、モテモテだねぇー。恋愛しないの勿体ない」

 「座れ座れーいっ!」吉野がチャイムと同時に教室に飛び込んできた。

 生徒たちは次々と席に座り、吉野が配っていったプリントを読んだ。

 「相談の予約が始まったそうです。俺と同じ、今年から来た心理カウンセラーの小瀬先生が話を聞いてくれるので、悩みがある人はこのプリントに記名して下さい。特に君らは受験のこととかでストレス溜まってると思うから、遠慮せずに記名するんだぞ」

 前の方の席の女子がざわざわしだした。「小瀬先生見たことある?」「イケメンなんだよねー!」「しかも高身長!」「優しいし、もちろん記名するよね?」「うん!」

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