47話 国王シュナイゼル

 妙なことに、城内に国王の手勢はまったくい待機していなかった。

 誰もいない廊下に、先を急ぐボクたちの足音だけが響く。


 奇襲を恐れて【光翼(シャイニング・フェザー)】を展開したままにしていたけど、強兵は潜んでいないと判断して解除する。

 【光翼(シャイニング・フェザー)】の稼働時間はあと10分ほどしかない。


 罠の類はスキル【鑑定】を使って、ことごとく回避した。ゴーレム兵もエリザの敵ではなく、その配置場所も【鑑定】で見破れたため、難なく突破できた。


「ここが王座の間です!」


 そびえ立つ大門の前に立つ。女神の精緻なレリーフが刻まれた荘厳な石門だ。

 突入前に息を整えようとしたところ、門が自動的に開いた。


「よくぞ余の天魔騎士団を突破して来た。ルカよ。その力、しかと見せてもらったぞ!」


 この男が国王シュナイゼルか。

 両手を広げてボクたちを迎え入れたのは、王者の風格をみなぎらせた堂々たる男だった。


「まさに強者と呼ぶにふさわしい。貴様には、余がさらなる高みへと登るための礎となってもらうぞ」


 その身からは、秘めたる力が溢れだし、気圧されるような強大さを感じた。


「エリザ、あなたなの!?」


「アナスタシア姫!」


 シュナイゼルの背後には、鎖に繋がれた可憐な少女がいた。

 誰もが目を奪われるだろう人外の美しさを持つ娘だ。彼女がアナスタシア姫か。


 それと、もうひとり。夜のような黒い鎧を着た小柄な少女が佇んでいる。ルディア姫だ。


「イルティア……?」


 ルディア姫は、ボクを妹のイルティアと間違えて、小首を傾げる。


 彼女もアンデットだろうが、言葉を発したことといい、他の天魔騎士とは明らかに違う人間味を感じた。


 もしかすると、この娘は複製された存在ではない、オリジナルのルディア姫かも知れない。


「シュナイゼル! 今すぐ降伏してオーダンへの攻撃を中止しろ! アナスタシア姫も解放するんだ!」


 ボクは国王に、怒気のこもった言葉をぶつける。


「ルディア姫も浄化して天に還す! 自分の娘をアンデットにして使うなんて、正気か!?」


「威勢の良いことだな。ルディアには死後も余に仕えるという栄誉を与えてやったのだ。何より、こやつの力は女神を滅ぼすために必要なのでな」


「女神を滅ぼす?」


 あまりに常軌を逸したセリフに、思わず聞き返した。


「そうだ。神々こそ、この世界に争いをもたらしている元凶。女神と邪神を滅ぼし、余が新たなる神として、あまねく種族の上にに君臨する。そして、永久の平和をもたらす。余とアナスタシアなら、それが可能なのだ」


「女神を滅ぼしたりしたら、この世は闇に閉ざされてしまうだけじゃないか!? そもそも神を滅ぼすなんて、人間にはできこっない!」


「神殺しが不可能? 貴様は師より何も聞かされてはおらんのか?」


 シュナイゼルは鼻を鳴らした。


「下位神が相手とはいえ、剣聖は人の身でそれを成した。なら余にできぬ道理はない!」


 狂っているとしか思えなかった。

 この男は本気で神になり代わろうとしているのだ。


 万が一、その目論見が成功し、女神が滅んでしまったら、この世界はどうなってしまうかわからない。

 やはり、コイツはここで倒すしかない。


「ルカよ。余の力が、神に届きうる領域に達したか、貴様と剣を交えることで明らかとなる。誰にも邪魔はさせん。

 さあ、女神より下賜された聖剣を構えよ。神殺しの技を存分にふるえ。そのすべてを打ち砕いてくれる!」


「止めてくださいシュナイゼル! その方を殺めたら、女神の怒りを買い、本当に後戻りできなくなってしまいますよ!」


 アナスタシア姫が悲痛な叫びを上げるが、シュナイゼルはそれを鼻で笑った。


「愚問だなアナスタシア。すでに余は引き返せぬところまで来ているのだ」


 国王が【光翼(シャイニング・フェザー)】を展開する。


 ヤツの右の翼は、なぜか禍々しい漆黒に染まっていた。

 左の翼が、聖なる黄金の輝きを放っているのとは対照的だ。


「なんだ、それは……?」


 この黒い翼は……伝え聞く魔王の翼にそっくりだ。

 【光翼(シャイニング・フェザー)】とは対極をなす暗黒属性エネルギーで形成された闇の翼。魔王の証。


「驚いたか? 『魔王の魔導書』に所有者として認められるということは、すなわち魔王となるということなのだ!」


 シュナイゼルの全身から、どす黒いオーラが放たれる。

 

「勇者を超え、剣聖を超え、魔王を超え。そして女神をも超えて、神となる! ひれ伏すが良い。余こそが新たなる神である!」


 シュナイゼルが腰の剣を抜いて構えた。

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