46話。王座の間へ

 王城の小部屋に出ると、神話を描いた見事な壁画があった。

 女神ネーノイスがエルフ王に王笏を授けているシーンを描いたものだ。


「誰の許しを得てここに立ち入ったか、下等種族……!」


 部屋に置かれていた二体の戦士像が声を発して動き出した。その手には大剣が握られている。

 初めて見るが、魔法によって動くゴーレム兵というヤツだろう。

 

「このお方に剣を向けることは許さん!」


 エリザが突進して、あっという間に、ゴーレム兵を両断した。彼らは物言わぬ石像となって床に散らばる。


「どうやら、エルフの侵入者迎撃システムをそのまま使っているようですね。ルカ様に対して無礼せんばんです!」


 エリザが腹立たしそうに剣を納めた。


「下等種族って……エルフは女神に創造された種族、人間の仲間だと思っていたんだけど」


 ゴーレム兵にこんな選民思想に凝り固まったセリフをインプットしていたとは、軽くショックだ。


「エルフは純血に近いほど強力な魔力を持ちます。魔族に対抗するため、エルフの王族はその純血を維持する義務があったのですが……そのために純血のエルフほど他種族と交わるのを嫌い、人間やドワーフを見下すようになってしまったのです」


 エリザが苦虫を噛み潰したような口調で告げる。


「アナスタシア姫は、私のようなハーフエルフにも分け隔てなく接して下さいました。あのお方こそ、王の器。あのお方に私は恩を返したいのです」


 エリザがアナスタシア姫に向ける好意には、並ならぬ物があるように感じた。


「もちろん。アナスタシア姫は必ず助け出す!」


「はっ! 露払いはお任せください! いかなる罠や敵が襲って来ようとも、私がすべて切り伏せてご覧にいれます。ルカ様はどうか力を温存ください!」


 エリザが力強く胸を叩く。


「それはありがたいんだけど……」


 この先、どれだけの罠や敵が待ち構えているかわからない。エリザだけにそのすべての対処を任せるのは酷だろう。


「そうだっ!」


 ボクは聖剣の【スキル共有】で、ミリアのスキル【鑑定】を呼び出す。


『お呼びでしょうか、ルカお姉様! 私のスキルがお役に立つ時が来たんですね!』


 ミリアの歓喜の声が頭に響いた。

 【鑑定】は手に触れた物の価値を見抜き、情報を読み取るスキルだ。

 

「うん、ミリア。王城の罠やゴーレム兵の配置なんかがわかると助かるんだけど【鑑定】で、できるかな?」


『もちろんです! 半径30メートル圏内の罠や迎撃システムの情報なら、読み取れるハズですよ。ときどき壁や床に手を触れてお進みください!』


 思った通りミリアの【鑑定】は応用範囲がとてつもなく広いスキルだ。


「ありがたい! そっちの状況はどう?」


『天魔騎士団が、猛攻撃を仕掛けて来てますけど、イルティアお姉様が奮戦してくれています。聖騎士団と一丸となって戦っているので、しばらくは持つハズです』


 まずは一安心。

 だが、天魔騎士団は不死身の軍団だ。

 長期戦になれば、いかに彼女たちが協力し合おうとも勝ち目はないだろう。


 一刻も早く国王を倒さねばならない。


『私たちはみんなルカお姉様の勝利を信じています! どうかご無事で!』


 ミリアの声援を背に、ボクたちは再び駆け出した。

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