8話。ルカ様のような素晴らしい方にお仕えできて、幸せです!

「……幻獣ユニコーンだと!? そんな隠し玉を持ってやがったなんて、聞いてねぇぞ!」


 山のような巨体の黒いドラゴン。魔竜王ヴァルヴァドスが、迫りくるボクたちを睨みつけた。

 

「知るか! とっとと、くたばれヴァルヴァドス!」


「生意気な小娘が! 最上位精霊に認められたくらいで、調子に乗るんじゃねぇぞ。この俺様を誰だと思ってやがる! 魔王軍の中でも最強の誉れ高いヴァルヴァドス様だぞ!」


 ずん、と大気が震えた。

 魔竜王の身体から、どす黒い魔力が波動となって周囲に放たれる。気温が一気に低下したような寒気を感じた。


「まずい! 全軍、耐熱。対暗黒属性防御! 魔力をすべて絞り尽くしてもいい! ルカ様に防御を集中しろ!」


 エリザがうろたえた様子で叫ぶ。


「攻撃力なら魔王様をも上回る俺様の恐ろしさ、骨の髄までたっぷり味あわせてやるぜ!

 ちょいともったいないが、お供の美少女ちゃんたちも皆殺しだ!」


 ヴァルヴァドスは顎を大きく開き、真っ赤な口腔をボクに向けた。

 なにか、とてつもない攻撃が来る……!


 怖い、めちゃくちゃ怖いけれど……ボクが、みんなを守らなくちゃ。


「フェリオ。走ってくれ。全速力だ!」


 フェリオの腹を蹴って、さらなる加速をうながす。

 彼は抗議するような声をあげたが、すぐにボクの意を汲んでくれた。さすがは人の心が読める幻獣ユニコーンだ。


 聖騎士団を振り切るほどの疾風となって走る。

 このまま少女たちの先頭にいたら、ボクを狙った攻撃で、みんなが巻き添えを喰らってしまうだろう。


 そのため、右に旋回しながら突出して、少女たちを攻撃の射線からずらそうとした。

 途中にいた邪魔な魔物は、すべてフェリオが魔法障壁で蹴散らしてくれる。


「逃げようってか!? 無駄なあがきだぜ! 竜言語魔法奥義【破滅の火(メギド・フレイム)】だ!」


 噴火のような轟音と共に、ヴァルヴァドスの顎から黒い炎の本流が放たれる。

 それは奴の配下の兵たちも飲み込みながら、一直線にボクに迫った。


 真っ黒に塗りつぶされる視界。迫りくる破滅を拒否しようと、ボクは叫んだ。


「【光翼(シャイニング・フェザー)】!」


 ボクの背中から、光輝く二対の翼が伸びる。

 アルビオン王家は、女神の血を引く一族だという。

 これはその血を色濃く受け継いだ、イルティアに生まれながらに備わっていたスキルだ。


 その翼は暗黒の力に反発する神聖属性エネルギーの塊だった。


 【光翼(シャイニング・フェザー)】でフェリオごと身を包んでガード。フェリオも魔法障壁を前方に展開して、着弾に備えた。


 直後、意識が飛ぶような、すさまじい衝撃。

 ボクの身を守る光の翼が弾かれ、地獄の業火に飲み込まれる。

 痛み止めの薬を服用していたが、苦痛が強烈すぎて、思考が消し飛ぶ。


「ひ、姫様ぁあああ!?」


 エルザと聖騎士団の絶叫が聞こえた。

 だが。


「はぁ!? ……む、無傷だと!? この俺様、最大の攻撃を……!」


 ヴァルヴァドスが目を剥く。

 ボクが身にまとったドワーフ王の鎧は、あちこちひび割れ、破損し、無残なありさまになっていた。


 だが、ボク自身は、スキル【コピー復元】のおかげで、受けた傷はすべて復元されていた。

 はた目からは、きっと防ぎきったと見えただろう。


「よかった。みんな無事だな!」


 尾を引く痛みに耐えながら、聖騎士団の女の子たちに手をふる。


「まさか、まさか……! ルカ姫様は私たちをかばって、ひとりで奴の攻撃を!?」


「な、なんと、無茶をなさいますの!?」


「これは、お説教! 帰ったら日が暮れるまでお説教です……!」


「ぐぅうう! 私、ルカ様のような素晴らしい方にお仕えできて、幸せです!」


 すぐさま聖騎士団の隊列に合流したボクを、みなが歓呼と共に迎え入れてくれた。

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