二 黒縄地獄

 だが、ここは地獄……想像を絶する恐怖はこの先も次から次へとわたしに襲いかかる。


 例えばその下の階層にある第二の地獄、殺生に加え盗みを働いた者が落ちる〝黒縄こくじょう地獄〟では……。


「――クンクン……なんだかいい匂いがしますね……あ! あれって、もしかして獄卒さん達、バーベキューパーティーでもやってるんですか? あっちは芋煮会かな?」


 風景はあまり変わり映えしないが、その空間を満たす焼き肉や豚汁のような香りに食欲をそそられていると。なにやら鬼達が火にかけた巨大プレートや大鍋を囲み、楽しそうにわいわいやっているのが遠目に見えた。


 そのとなりでは食材を切り分けてる鬼もいるし、どう見てもバーベキューや山形名物の〝芋煮会〟だ……地獄で見るには不釣り合いな光景だが、慰労を兼ねた獄卒達の親睦を深める宴会だろうか? いわゆる〝飲みケーション〟的なやつ?


「いや、あれは亡者を煮たり焼いたりしてんだよ。それがここで与えられる刑罰だ」


「なんだ、腹減ったのか? そんなら特別にもらって来てやるぞ?」


 だが、うっかりにもその大前提を忘れて勘違いをしてしまったわたしに、さも当然というように牛頭馬頭さんはそう説明をして、さらにはご親切にも亡者料理まで勧めてくれる。


「え!? じゃ、じゃあ、この美味しそうな匂いって……」


 その言葉に目を凝らせば、確かに鬼達は巨大なまないたの上に亡者を並べ、墨を染み込ませた細縄で身体に線を引くと、それに合わせて焼けたノコギリで綺麗に肉を切り分けている。


「うっ……うえぇぇぇぇ…!」


 ビジュアル的に詳述は控えさせてもらうが、わたしはその匂いの正体を認知した瞬間、今度は上がってきた酸っぱいものを堪えきれずに吐き出した……食欲をそそられるどころか、これじゃあもう、しばらくお肉は食べられそうにない……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る