第15話 生きている君がいい

万葉集の恋の歌には、恋が孤悲こいと当て字されているものがあるそう。

一人で思いつめて、心が張り裂けそうに悲しい。手の届かない恋。つまり片想いですね。


『うつくしと わが思ふ妹は 早も死なぬか  生けりとも われに寄るべしと 人の言はなくに』

(いとしいと思うあの子。早く死んでくれない? 生きていたって、私になびくだろうと言ってくれる人はいない)


好きなあまり、死んで欲しいと思ったことのある人いるかしら?

そんな人には、安水稔和やすみずとしかずさんの『君がほしい』という詩がおすすめです。



***



君がほしい    



君の体を

めったやたらに切りきざみ

ようしゃなく殺してしまおう。


さて商人に身をやつし

町から町を旅する。

潮風の町。

山と川のある町。

熊笹の鳴るばかりの町。

どこであろうと君はもう逃げられない

君をひきよせようと伸ばしたぼくの手から。


ところで

自責の念はさらさらないにしてもだ

そろそろ君のばらばらの体が重くなってくる。

万々発覚することないとおもうのだが

やっぱり殺人事件にかわりない。

刑事の姿がちらちらすることにもなる。


だからやっぱり

君をようしゃなく殺すのはやめることにする。

それにやっぱり

同じ重いめをするなら

五体そろった君

である方がいいにきまっている。

それでやっぱり

はっきり君に云おう

君がほしいと。



***


ですよね!

やっぱり生きている君がいいですよね。

手が届かなくたって、君が幸せなら、それでいいよ。















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