第16話 ゴールデンウィーク最終日

 



 合宿から帰って、しっかり睡眠をとった。


 翌朝早くに起きて、身支度をする。


 朝早く起きる習慣がついたなぁと感じる今日この頃。


 さっさと朝ごはんを済ませる。

 朝ご飯を作らなくてもいいことがすごくありがたいことだと実感した。

 そういえば昨日夜ご飯の時に「いつもご飯作ってくれてありがとう」って言ったら母さんが泣いていたな……。


 そんなことを考えながら家を出て、学校に向かう。


 電車から降りて、学校への道を進む。


「お、伊織」


「あ、河田先輩。おはようございます」


「おはよう」


 偶然会った河田先輩と並んで歩く。


「…………」


(は、話すことねぇー!)


 沈黙に耐えかねたか、河田先輩が口を開いた。


「あ、あー。いい……天気だな?」


「曇ってますけど……」


「あー、うん。すまん」


 最初の頃は普通に話せていたのに、何故か会話が続かない。


(ど、どうしましょ。これは……)


 そうこうしているうちに学校に着いた。


 体育館に入って、用意をする。


「おはよう伊織」

「おはようございます、植原先輩」

「おはよー」


 挨拶を交わしつつ、各自アップをする。



 柔軟運動をしていたら、武田が隣にやってきた。


「おはよう伊織」

「おはよう」

「明日から学校だよ」

「お前はそれをいうだけのためにここにきたのか」

「……そ」

「そじゃねぇよ……。明日から学校とか、現実に引き戻すんじゃねぇバカヤロー」


 学校はあまり好きじゃない。

 できればずっとバスケだけしておきたい。


 けど、学生の本分は勉強である。

 それについて武田に聞きたいことがある。


「武田、お前ゴールデンウィークの宿題は終わってるんだろうな」


「?!」


「終わってないんだな?」


「……ハイ……」


 やっぱりな。

 そもそも武田が俺に明日から学校だってことだけを伝えにくることは考えられない。


「て、手伝ってくれ伊織ー」


 そんなところだろうと思ったよ。


「計画的に宿題をこなさないからこうなる」

「す、すんません……」


 ちなみに俺は、合宿前にはすでに宿題を半分以上終わらせていて、合宿中に全てを終わらせた。


「仕方ねぇな。今日は練習が昼までだし、終わったら俺ん家こいよ。多少は手伝ってやる」

「ありがとー伊織ー!」

「その代わりに明日のカレーパンを俺に譲れ」

「うぐっ」


 俺ももう一度食いたいんだよカレーパン!

 本当に手に入らないカレーパン、俺は一度だけ手に入れることに成功し、食べることができたのだ。あれは本当に美味しかったなぁ……。


 この条件が無理ならこの話はなしである。


「わ、わかった。なんとか手に入れるよ……」


 ということで、カレーパンを対価に宿題を手伝うことになった。


「練習始めるぞー!」


 河田先輩の声が体育館に響いた。


 ***


 今日の練習は、主に実践編が多かった。

 オフェンスにディフェンスに……。

 走り回った。

 練習の最後には試合もやった。

 今日は調子が悪かったのかあまりスリーが入らなかったのは悔しいところで八田が。


 そして、ゴールデンウィークの全ての練習が終了した。


 監督から、ゴールデンウィークを締め括る話があって、顧問の先生からの話があって。


「「「お疲れ様でした!!」」」


 チームで円陣を組んでおしまいだ。

 いやー、長かったよ。特に合宿は大変だったね。楽しかったけど。



「かいさーん!明日は朝練あるぞー!そして学校だぞー!忘れんなよー!」


 みんな笑顔で帰ろうとするところに、河田先輩が叫び、みんなピシリと固まった。


「ああ、明日から学校……」

「憂鬱……」


 一気にどんよりムードになった。やはりみんなバスケは好きでも勉強は好きじゃないらしい。


 ***


 家に帰り、着替える。

 汗だくのTシャツを洗濯機に放り込みながら、母さんに武田が来ることを伝える。


「あら、お友達?!」

 というので、

「まぁ、うん」

 と言ったら嬉しそうな顔された。

 なんでだよ。俺友達いないとでも思われてたのか?!


 昼食の焼うどんを平らげてから二階にある自分の部屋を片付け、ちゃぶ台を置く。

 これで準備万端だ。

 それから少しして、インターホンが鳴った。


 ドアを開けて、武田を迎える。


「上がれよ」

「お邪魔しまーす!!」

「なんか本当に邪魔しそうだな。帰れ」

「しねぇわ!! 帰れって、なんで?!」


 冗談を言いつつ俺の部屋に案内。


「ふむ、ここが伊織くんの部屋ですか。なかなか綺麗ですね。すごく片付いていて、いいと思いますよ」


 いや、あんた誰だ。

 お部屋のアドバイザーみたいなのを呼んだつもりはないぞ。


「いいのか、宿題やらなくて」

「はっ!やばいんだった!」

「いや、やばいって……」


 武田が取り出したワーク類の山を見て絶句。


「え、お前ほとんどやってねぇじゃんか」

「はぃ」

「はいじゃねぇこの大馬鹿者!!!!」


 おそらく今家に雷が落ちた演出がなされたはずだ。


「ほとんど白紙じゃないか!!」

「……」


 最悪だ……!


「お前、徹夜覚悟で必死にやれよ」

「は、はひぃ」


 そして、戦いが始まった。


 部屋にシャーペンを走らせる音が鳴り続ける。


 ちょっと手伝うくらいに思っていたのが、本格的にやることになった。

 本来であればこいつ1人がやるべきだが、あまりにも残りすぎていてなんか可哀想なのと、一回約束したこともあって真剣に取り組む。


 カレーパンカレーパンカレーパンカレーパンカレーパン……!


 呪詛のように報酬のカレーパンの名を呟きつつ淡々と課題を進める。


 ***


「休憩にしたらどう?」


 やっと三分の一程度が片付けられたところで母さんが盆に乗せた菓子とジュースを持ってきてくれた。


「ありがとうございます!いただきます!」

「どうぞ召し上がれ。ところで何をしてるの?」

「こいつの宿題を手伝ってるんだ」

「な、なぜ?」

「こいつゴールデンウィークの宿題ほとんどやってなかったんだよ……」

「な、なるほど……頑張りなさいね」


 少々顔を引き攣らせて母さんは戻っていった。


「おおう……伊織のお母さんに引かれた……」

「変なダメージ受けてるんじゃねぇ」


 自業自得だろうが……。


「さあ、さっさと休憩して、さっさとやるぞ」

「休憩にさっさととかある?!」

「あるんだよ。ほら、さっさと食ってさっさと飲め」

「ひでぇ……」


 束の間の休息を得た後、地獄に戻る。


 うめきながら課題に取り組んでいる武田。

 カレーパンと呟きながら黙々と課題に取り組む俺。


 俺の部屋には変な光景が出来上がっていた。


 ***


「これ以上は家で1人でやるんだな」


 四分の三を完了させて、現在時刻が六時近くになっていることを確認した俺は武田にそう告げた。


「おおう、もうこんな時間。ありがとな伊織。1人じゃ絶対無理だったよ」

「この経験を生かして次回は最終日に焦らないようにすることだな」

「わ、わかってるよ……。じゃあ、お邪魔しました」


 そして、武田は帰っていった。


 片付けをして、一階に降りる。


「母さん、夕飯あとどれくらいでできる?」

「多分八時くらいじゃない?お父さんが帰ってきてからよ」

「わかった。それじゃあちょっとだけバスケしてくる」

「あんまり暗くならないうちには帰ってきなさいよ」

「ほーい」


 近所の公園に、ストリートバスケのコートが二面ある。

 俺はそこに向かった。

 流石にこの時間帯は人が少ない。

 心置きなくシューティングができる。


 今日あまり入らなかった分、シュートを打ちまくる。


 ひたすら打ち続ける。



 ガコンッ


 ガコッ


 スパッ


 パスッ


 パシュッ


 …………。




 気づいたら辺りはだいぶ暗くなっていて、ゴールが見えにくくなっていた。


「……帰るか」


 公園を出ると、ちょうど父さんが歩いてきた。


「あー、おかえり?」

「ただいま……か?外だけどな、ここ」

「なんでもいいじゃん」

「よくないんじゃないかそれは」


 河田先輩の時より会話が弾む。

 河田先輩相手だと緊張するんだなと今更ながら感じる。


 父さんと話すのは合宿前日以来だ。


 合宿の話を中心に、ゴールデンウィークであったことを話しながら歩いていたらいつの間にか家。


「「ただいまー」」


「おかえり」


「これが正解のただいまとおかえりだね」

「そうだな」


「? よくわからないけど、ご飯できてるよ」


「ああ、いい匂いするねぇ」

「お腹減ったよー」



 久しぶりの一家団欒の時間だ。


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読んでくださりありがとうございます!




















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