第15話 合宿最終日

 



 翌朝、昨日と同じ音で起こされた俺たち。


 昨日と同じようにランニング。


 そして朝食。


「いやー、作るって大変だね!」

 ものすごい笑顔でこういう武田。


「お前、いいのか?」

「ん?何?」

「お前が焼いている目玉焼き、焦げてんぞ」

「あああああ?!」


 バカだろ。

 バスケは上手いのに、それ以外がからっきし。

 なのにこいつモテる。俺にはそれが不思議でならない。


 そんなことを考えていたら、いつの間にか味噌汁がいい具合。


「よしっ」

 満足だ。


「伊織ー、こっちもサラダできたー」


「おーう。ちょっと待ってて」



「伊織、ご飯盛り付けこんな感じ?」

「伊織?ウインナーこれでいい?」

「伊織、目玉焼きの焼き方教えて」


「ああ、もう!うるせぇ!1人ずつ喋れ!!」


 俺は、昨日のこともあってか料理番長(武田命名)にされた。

 料理がうまいってだけで。


 ……いや、ご飯の盛り付けぐらいわかるだろう。ウインナーなんて見た感じで判断できる。目玉焼きのやつ……知らん。


 と、色々あって朝食完成。

 ちなみにメニューは、白飯、味噌汁、目玉焼きにウインナー。サラダに梅干し。そしてヨーグルト。


「「「いただきます!」」」


 作るのに手間取っても、食べるのは一瞬。

 すぐに楽しい時間は終わる。

 談笑しながら後片付け。


 そして練習へ。


 今日は、割と実戦的な練習ばかりだ。


 とにかくボールが回る回る。

 パスからパス、そしてパス。さらにパス。

 走って走って走って。


 とにかく動きまくった。


 多分朝飯全て体力に消費したってくらいに動いた。


 そして昼飯。


 3日間全部食堂だ。


 今日はグラタンにした。

 食堂のメシはいつもうまい。


 本当に学食のおばちゃんたちには感謝だな。


 お腹が膨れた後はまた練習。


 練習なんだけど……。


「ゲームするぞー」


 監督が一言。


「マジで?!」

「よっしゃー!」


 周りがざわつく。


「合宿最終日だからな。合宿で学んだことを生かして頑張ってくれ」


「「「はいっ!」」」


 もうみんなの顔がイキイキし始めたよ。



 チームで半分に分かれる。

 サブコートを使ってゲームだ。

 3年と2年の一部、2年の残りと1年で分かれた。



 今回は全員が出れるように交代交代で試合に出るスタイル。


 俺は赤色のビブスとなった。ちなみに相手は緑だ。

 武田は……、赤か。たまには対決してみたいけどな……。


 まあ、いいか。

 赤ビブスをマネージャーの人から受け取りつつ、早速試合を始めてしまっている上級生側のゲームをチラリと見る。


 やっぱすげぇな……。

 思わず見惚れていると……。


「おいっ、伊織、始めるぞ!スタメンだぞ!」


 武田が俺を呼んでいる。


 ん?まじ?俺スタメン?

 聞いてなかった。


「すまんすまん」


「しっかりしろよー」


「すまん」


 なんか謝りっぱなしだ。

 なんか武田はバスケの時だけ真剣だからな。

 こういう時は頭が上がらないと、チームメイト歴1ヶ月にして悟りました。


「いくよー」


 審判のマネージャーの声があって、


「「「よろしくお願いしますっ!」」」


 挨拶を交わし、それぞれポジションにつく。


 俺のチームのスタメンは、俺、松野、福田、中木(初登場、2年)、林(初登場、2年)だ。


 バッシュの裏を手で擦って、スキール音を確かめる。

 いい感じだ……。


 審判がボールをあげた。


 俺の方のチームの、松野がジャンプボールを制した。


「ナイス松野っ」


 ポイントガードの林先輩が、ボールを持った。


 パスを回していく。


 林先輩から俺、俺から福田、福田から中木先輩……。


「へいっ!」


 一際大きな声を出した松野は、ゴール下で戦っている。


 ボールを持っていた中木先輩は、迷わず松野にパス。


「よっしゃあ!!」


 松野が雄叫びを挙げ、マッチアップしている小林に突っ込んでいく。


「いけぇ!!」

「いけるぞ松野ぉ!」

「押し込めぇ!」


 味方のベンチも応援をしている。


 応援の声が通じたか、松野はゴリ押しでゴール下のシュートを決めた。


「ナイッシュウ!!」

「いいぞいいぞー!!」


「ナイス松野っ」


 松野とハイタッチを交わし、ディフェンスへ。


 バスケットは、守りでも攻めでも勝たないと試合に勝てない。

 1点1点の積み重ねが大事になってくるのだ。


 一瞬たりともプレーに手抜きをしてはいけない。


 ディフェンスでもオフェンスでも変わらない。


 だから必死でディフェンスする。


「カバーオッケェ!!」

「見てるよ見てるよ!!」


 コミニュケーションの言葉が飛び交う。


 相手の佐々木が林先輩を抜きにかかってくる。

 うえっ、こっちじゃん。ちゃんと止めて欲しいっす。


「カバーっ!!」


「次っ!次!」


 俺がカバーに出て、その影響で陣形が変わる。


 コミュニケーションも取れないと、バスケはやっていけないのだ。


 中木先輩がボールを取った。


「速攻っ!走れ!」


 パスを繋ぎ、相手がディフェンスに戻るよりも早くゴールへ!


「へい!!」


 俺が呼んで、林先輩からボールが飛ぶ。


 俺はもうゴール下。


 シュートをきっちり決める。


「ナイシュー!!」

「いいぞ伊織」

「いやー、料理もできて勉強もできて、バスケもできて。うちの伊織かあちゃんは最強だなぁ!」

「た、武田、それは伊織の逆鱗に触れるぞ……。多分」


 おうおう、田中くんわかってるじゃないですか。


 黙るんだ武田。

 誰が伊織かあちゃんだコノヤロウ。

 あとでぶっ飛ばす。



 ここで交代。俺は瀬川と交代する。


 他にも各自で交代。

 こういうところにチームの仲良さって出ると思う。

 譲り合いとかね。


 水分補給をし、試合を見る。

 それと同時に、ここまでを振り返っておく。


 林先輩はパスがやたら上手い。

 手を出すところに寸分違わずボールがやってくる。


 ボールが「こんにちはー」ってやってくる気分になった。

 ……大袈裟か。


 松野もセンタープレーが上手かったな。

 そういやあいつ、この合宿中、ずっとセンターやってたな。ポジションはパワーフォワードだったと思うんだけどな。


 合宿によって、チームメイトについてより知れた気がする。

 それがなんか嬉しかった。



「頑張れー!!」

「いけるぞー!!」


 絶賛応援中です。

 松野がすごいです。


 マッチアップ相手を軽々吹っ飛ばして、リバウンドは取るし、ゴール下のシュートは決めるし。

 挙げ句の果てにはダンクかますし。


 松野に渡せばなんとかなる状態です。無双中です。



「す、すげぇ」

「やばいなあれは」


 武田も口をあんぐり開けて驚いている。


 また松野がシュートを決めた。


 俺と武田は思わず顔を見合わせた。




 ただし、そんなのがいつまでも続くわけがなく。

 村山と交代した。


 そのタイミングで、俺と武田も出陣。


 現在俺のチームは俺、武田、林先輩、村山、渡辺先輩(初登場、2年)である。


 おっしゃ、いくぜっ!!

 闘志に燃える。



 林先輩がボールを持ち、攻める。


「伊織ぃ!」


 うわっ!もう来た。


 パスが俺の手に飛んでくる。

 林先輩、あなたはパスの天才です。多分。


 ……あら?俺のマークマン、離れすぎじゃね?


 少なくとも俺にとったら大した距離じゃないぞ、それ。


 迷わず打ってやる。


 スパンッ


 綺麗な音を発しながら、ゴールネットを揺らす。


 マッチアップの相手は驚いている。


 ……そんなに驚かれても困るんだけどな……。


 ディフェンスに移る。


 相手の小山からすごい気迫。


 絶対気が抜けません。これは。


 ***


 交代を何度もしながら、試合は数時間にわたって続いた。


 結果。


 赤ビブス342ー328緑ビブス。


 凄まじい点差に。


 そりゃあ、数時間も交代しながら同じゲーム扱いで点数を重ねたらそうなるよ。


 ということで、俺たちが勝った。


「いやー、面白かった!」


「それは同意」


 珍しく(?)武田と俺の意見が一致。


 さらに、一日目のしんどさを忘れたのかどうかは知らないが、武田はものすごい笑顔で「合宿毎日楽しかったぁ!!」と言っている。


 大丈夫か、武田よ。


 ***


 合宿を締め括る最後のミーティングが合宿所の会議室で行われている。


 ありがたい監督のお話からスタートだ。


「まず、お疲れ様でした。まあ、よく頑張りました。多分夏合宿はもっときついと思うので覚悟していてください。それで、この合宿を通しての話。初日はフットワークを中心に––––––––」


 真剣に監督の話を聞く。


 なんだかんだ……と言ったら変だけど、監督の話はいつもタメになる。

 校長先生の話は面白くないが、監督の話は面白い。

 ……面白いとはちょっと違うか。


「––––––と、いうわけで、何はともあれよく頑張ったと思うぞ。お疲れ様でした。そして、明日。ゴールデンウィーク最終日だ。明日は午前練だけとする。朝7時半からな。忘れるなよ。以上」


「「「ありがとうございましたっ!」」」


 そして、顧問の先生の話もあって。


 合宿所を使えるのは顧問の先生のおかげなので、しっかりお礼を言って。


「じゃあ、また明日な。解散っ!」


 キャプテンの声で、合宿が終わった。




 家に帰ったら、母さんに土産話を要求された。

 何も話すことないし、早く寝たい……。


____________________________________


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