第33話 こだわりの男

 

 和やかな雰囲気になり、すっかり本来の目的を忘れていた。


「どういうつもりか説明しろ!!」

「えっ? えっ??」


 ネイルズは混乱している。

 代わりにクラン員の女性が恐る恐る尋ねてきた。


「あの、ヴィトさん、どういうことでしょうか? 他にも何かしてしまっていたでしょうか……?」

「あぁ、これはもう許されない。許しちゃいけない」


 ネイルズもクラン員も、周囲を取り囲むハンターたちも息を飲む。


「す、すみません。謝罪をしたいのですが、恥ずかしながら何をしてしまったかすら分かりません! 教えて頂けないでしょうか?」

「爆炎陣という名前と実際の魔法だ」

「えっ?」


 再びネイルズに向き、本人に直接訪ねる。


「あの爆炎陣はお前が編み出して、お前が名付けたのか?」


 言葉を発さずコクコクとうなずくネイルズ。


「あれのどこが“爆”、“炎”、“陣”なんだ? ただのファイアストームを5つ出しただけだろう!? それじゃ“炎”だけだろうが!! “爆”の要素はどこに行った!! “陣”はどこに行った!!」


 ネイルズも周りのみんなも目を丸くし、口をポカーンと開けているが構わず続ける。

 話している内にまた腹が立ってきた。


「ただ五角形に並べたのが”陣”だと言いたいのか!? ふざけるな!! もっとカッコいいやり方があるはずだろ! 自分の魔法を作る時にはもっとちゃんと考えろよ!! あれじゃ“爆炎陣”も悲しんでるわ! その魔法に二度と“爆炎陣”なんて言うカッコイイ名前を使うな!!」


 確かに詠唱と実際の効果が異なったら、戦闘中に騙される奴がいるかもしれない。

『ファイアストーム!』と叫んでアイスアローが飛んで来たら引っかかるやつもいるだろう。

 まぁ強い奴には全く効果がないだろうけど、慣れていない奴には一定の効果があるだろう。


 そういう意味合いで“爆炎陣”と名付けているなら百歩譲ってまだ理解できるが、コイツは決してそうではない。

 何も考えずこんなにカッコいい名前を付けているのだ。

 勿体なさすぎて絶対に許せない。


「え、ええと、すみませんでした……」


 クラン員の女性が謝ってきたが、なんだかよくわからないという顔をしている。

 ネイルズもその仲間も、他のハンターも同じ表情だ。

 しまった。


「すまない、興奮しすぎてしまった。ネーミングセンスは抜群なのに、実際の魔法の方はダメダメだったから魔法をこよなく愛する身として、決して許す事は出来なかったんだ」

「い、いえ。では、どうしたら……」


 周囲からは『爆炎陣ってそんなにカッコいいか?』という声が聞こえてきたので、そちらをキッと睨んでやった。

『ヒッ』という小さな悲鳴と共に静かになったので今回は許してやろう。


 ネイルズはどうしたらいいか分からず、もう既に泣いている。


「オレが“爆炎陣”という名前に相応しい魔法を作るからちょっとそこで待ってろ。その代わり二度とアレを“爆炎陣”と呼ぶな」

「はい、わかりました……、えっ? 作る? 魔法を?」


 作ることに疑問を呈しているようだが、無視して“爆炎陣”というカッコイイ名にふさわしい魔法を考える。

 まずは重要な”陣”の部分だろう。

 地面などに設置して触れたら発動するようなタイプの魔法が分かりやすいかもしれないが、トラップ系の魔法だとカッコよく『爆炎陣!』と叫ぶ機会がないので却下だ。

 ううむ、どうしようか。


 名前とは程遠いが、ネイルズの魔法で褒められるべきは5つ同時にファイアストームを使用していたことと、それに反時計回りの動きを与えていた事だ。

 どちらもなかなか難しいが、それが何も効果を発揮していないのがけしからん。

 せめて高速回転させて5つのファイアストームで更に大きなファイアストームを構成するようにしたらいいのに。

 ただ、それでも“爆”も“陣”もないのでオレの逆鱗に触れていただろうけど。

 とりあえずまずはその辺を修正していこう。


 極小サイズのファイアストームを使いながらあれこれ試しながら考える事10分。

 オレが魔法を作っている間、ネイルズ達も周囲のハンターたちも静かに待っていたようだった。


「よし、出来た。ちょっと試してみるから見てて」

「は、はい」


 土人形で的を作り、20m四方の“次元隔離結界ディメンションドーム”で覆う。

 中に入って更に自分にも“次元隔離結界ディメンションドーム”をかける。


「じゃあいくよ。“爆炎陣”!」


 10mほど先に、高さ5mくらいの火柱が5本立つ。

 一辺が3mの正五角形を形どり、反時計回りに火柱が移動していく。

 ここまではほぼネイルズと同じだ。

 しかし、火柱が通り過ぎた跡の中空部分に火で描かれた文字や幾何学模様が浮かび上がってくる。

 側面部分に隠された魔法陣を炙り出しにしているのだ。

 周りから『おぉ、すげえ』とか『美しい……』といった声が聞こえてくる。

 そうだろうとも。

 分かっているじゃないか君たち。


 火柱が一辺分移動すると、五角柱の面の部分に魔法陣が浮かび上がった。

 次に火柱は内側へと向かって動いていく。

 5つの火柱が中心に近づいた時、火柱は溶けるように崩れ、五角柱の底面に燃え盛る火炎として広がった。


 次の瞬間、地面に展開されていた魔法陣が発動し、火炎と共に下から上へと強烈な爆発が生じる。

 衝撃が五角柱の上面に達すると、今度はそこに展開された魔法陣が発動し、上から下へ爆発が生じる。

 それと共にきらきらと雪のように小型の魔法陣が降ってくる。

 よしよし、良いぞ、その調子だ。


 最後に側面部分に展開された魔法陣が発動し、中心に向かい火炎放射が行われる。

 炎が小型の魔法陣に触れると小規模な爆発を引き起こしていく。

 五角柱の内部はまさに爆発炎上中だ。

 しばらくすると魔法陣と炎が消えた。

 的にしていた土人形は当然跡形もなく、地面には1mくらいの深さの穴が開いていた。


「こんな感じさ! どうかな!?」


 中々いい出来だと思う。

 満面の笑みで皆に問いかける。


「す、すごいです……」


 顔を引きつらせながら答えてくれた。


「そうでしょ! 炎からの爆発からの炎と爆発! 魔法陣を連鎖式に発動するようにしてみたんだ! まさに“爆炎陣”って感じじゃない!? 火柱の移動と共に魔法陣が浮き上がっていくとこもカッコよくない!? そもそも初めのファイアストームは無くても発動できるんだけど、ああした方がカッコよさそうだし、ファイアストームで攻撃と見せかけて上下からの爆発とかなかなか対処が難しいでしょ!! それに」

「ちょっとヴィト、ヴィト!」


 いつの間にか横にいたススリーに肩を掴まれた。


「ん? ススリーどうしたの?」

「ちょっと落ち着きなさい。みんな引いているわ……」

「あ……」


 周りの人たちは顔を引きつらせながら愛想笑いを浮かべている。

 また興奮しすぎてしまったようだ。

 家を作った時と同様に魔法で何かしようとするとついのめり込んでしまう。


「えーと、まぁこんな感じです……。ということで、ネイルズ君、やってみよう」

「……えっ?」

「教えてあげるからやってみよう。そして今日からこれが“爆炎陣”です。そこんところよろしく」

「えっ、この魔法使って良いんですか? ってできるかな……」

「大丈夫。君なら出来る! まてよ、“爆炎陣・改”にした方がいいかな? “新爆炎陣”じゃちょっと弱いもんな。あ、“真・爆炎陣”でもいいかも!」

「ヴィト!」

「あ、ごめん……」

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ブルータクティクス 三太丸太 @sayonara-sankaku

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