第31話 まもののむれをやっつけた!


 突然出現した火柱に驚くハンターたち。

 他のハンターよりも魔物に近づいて潜んでいた4人組の中の一人が攻撃を開始したようだった。

 竜巻の様な炎が正五角形の頂点に配置されているようだ。

 その形のまま反時計回りに動きながら進んでいく。


「あれが爆炎陣……!?」


 森ごと魔物を焼き払っていく魔法に驚きと共に怒りを感じたが、今はそれどころではない。

 魔物がこちらに気づいてしまった。


「爆炎陣の使い手め! 先走りやがって!!」

「ヤバいぞ! 全員戦闘態勢に入れ!」


 今の魔法で十数体の魔物を倒したようだが、それでも全体の極一部でしかない。

 それまで大人しくしていた魔物の大群が一斉に動き出した。

 作戦も注意すべき魔物の情報も伝えられないまま、戦闘が始まってしまった。

 代表者として集まっていたハンターが自身の仲間の所に戻り、素早く説明をしているようだが、魔物は待ってくれない。


「慌てるな! 補助魔法展開! 他のクランを信じてまずは正面の奴に集中しろ!」

「みんないつも通りにやろう。無理はしないで1体ずつ確実に減らしていこう」

「うぉぉぉぉ!! かかってこいやぁぁぁ!! お前ら魔物を根絶やしにしろぉぉ!!!」


 至る所で指示が飛び、各クランが戦闘に入っていく。

 指示の中にもそれぞれのクランの特徴が出ていて興味深い。


「こっちはオレたち“レッドドラゴンズ”に任せろ!」

「我ら”飛空竜騎士団”なり! みんな名を上げるチャンスだ! 死力を尽くせ!」


 どこかで見たような名前のクランもいた。

 当然ながら飛空竜騎士団の皆さんは竜に騎乗しているわけではなく、地に足を付けて戦っている。


 オレたちの横にいるのは“わんにゃんストリーム”というクランの様だ。

 犬人族、猫人族のクランかなと思いきや、筋骨隆々のいかついヒト族のメンズが揃っている。

 みんな上半身裸だ。


「ジョージさん! 妨害魔法をお願いします!」

「了解です! “泥状化マッディトラックス”!!」


 クランマスターらしきムキムキスキンヘッドが指示を出すと、ジョージと呼ばれたムキムキスキンヘッドが魔法を放つ。

 地面が泥状になり、魔物の突進の勢いが削がれる。


「今です! 撃ってください!」


 ぬかるみに足を取られ失速した魔物に、多数のムキムキスキンヘッドから放たれた矢や魔法が突き刺さり倒れていく。


「いいですよ! その調子です! ジョージさん! 後列にも妨害魔法をお願いします!」

「わかりました! “鈍足化ヘビーフッテド”!!」


 後方の魔物に風が纏わりつき、動きを遅くする。

 しかし、動きが鈍った魔物の上を、数体のキラービーが飛行してきた。


「来ましたよ! スージャさん、ジャンさん! お願いします!!」

「「お任せを! “蜘蛛の巣スパイダーネット”!!」」


 他のムキムキスキンヘッドたちが飛来するキラービーをネットに絡める。

 そこへムキムキスキンヘッドの矢と魔法の集中砲火を浴びせ、まさに一網打尽にしていく。


 様々な妨害魔法と巧みな連携で魔物に次々と集中砲火を浴びせ、確実に倒していく。

 指示も適切だし、それに応じるみんなの技量も素晴らしい。

 ただ、全員ムキムキスキンヘッドなのに丁寧な口調と可愛いクラン名なので、違和感が凄い。

 人を見た目で判断してはいけないんだろうけど、『なんか違う!』と思ってしまう。


「なぁ、爆炎陣の使い手ってなんなんだ?」


 そんなことを考えているとタックが話しかけてきた。


「オレも良く知らないけど、最近活躍しているBランクのハンターらしいよ。あまりいい噂を聞かなかったけど、アレだと確かに他の人には良く思われないかもね」

「そうですね。脅威を先に取り除くというのは間違ってはいませんが、これだけ多数の人が動いている時ですからね。もう少し他のやり方があればよかったのですが」


 集団行動時の勝手な行動は、自身の命のみならず他者の命も危うくする。。

 オレもさっきの魔法を思い出し、ムカムカしてきた。

 戦いが終わったら文句を言ってやらなければ。


「まぁお話はあとにしましょ。私たちも手伝うわよ」

「そうですね。未知の魔物はいつものようになるべく完全な形で倒しましょう」

「「「「了解!」」」」


 “わんにゃんストリーム”の皆さんの邪魔にならないよう注意しながら向かってくる魔物を倒していく。

 敵を弱体化させて一気に叩くという、お手本のような戦い方は実に勉強になる。

 オレたちはどちらかというと各個人の力でごり押しということが多いので、今後に備えてみんなで練習しておくべきかもしれない。


 着実に魔物の数を減らしていく中、時折向こうの方から『爆炎陣!』という声が聞こえてくる。

 5本の火柱が出現し、轟音と熱風がこちらまで届いてくる。

 その後決まって、『あぶねぇだろこの馬鹿!』とか『てめぇいい加減にしろ!』と怒号が聞こえてくる。

 魔法自体は魔物を倒しているようだが、魔法が発動されるたびにオレも怒りが溜まってくる。


 ◆


 その後も討伐自体は順調に進み、遂に“範囲探知エリアディテクション”にも魔物の反応が無くなった。

 戦いの音が止み、誰かが『勝ったぞー!』と声を張り上げてから、あちこちで雄たけびや歓喜の声が上がった。

 軽症から重症まで負傷者は結構いるようだが、幸い死者はいないようだった。

 ここまで大規模な戦いは全員初めてだったが、各クランが協力して奮闘したため、死者を出さずに済んだのだろう。

 今回の闘いは全員にとって良い経験になったに違いない。


 ただ、人が多数集まるとやはり問題も生じるようで、離れた所から怒鳴り声が聞こえてきた。

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