第30話 まもののむれがあらわれた!

 ティルディス支部のギルドで情報集め中、周囲を監視していた職員がギルドに飛び込んできた。


「南東方向20㎞付近に“信号弾シグナル”発見! 恐らく紫3つと赤5つ、黄1つ、青1つです!」


 ギルドに緊張が走る。


「おい、紫って確か100以上の魔物だったか?」

「あぁ、紫3つ、赤5つってことは350以上の魔物だまりってことだな」


 “信号弾シグナル”は少しずつ改良が重ねられ、魔物が100体以上いる場合に紫を使うことになった。

 また、救援に向かう際には返答のために緑色の“信号弾シグナル”をその方向に向けて打ち出す事になっている。

 これも現在改良中で、クランの場合はマークを、個人の場合はランクが記された光の玉を打ち出せるように調整しているが、マークやランクが見えづらく難航中だ。


「南東方向20㎞付近に大量の魔物だまりが発見されました! 救援に迎えるクランやハンターは集合をお願い致します!」


 職員が改めてアナウンスし、他の職員も関係各所に連絡するため慌ただしくしている。


「私たちが先に現場に向かってハンターの援護をします。皆さんは準備を整えて向かってきてください。」


 セラーナが職員に申し出た。

 少数の魔物であれば対応できるものが迅速に向かうことになっているが、今回の様に大量の場合はバラバラに向かうと各個撃破されてしまう恐れがある。

 そのため、多少遅くなってしまってもある程度まとまっていく方が安全だが、その分現場にいるハンターが危うくなってしまう。

 魔物の殲滅ではなく、ハンターの安全確保ならオレたちだけでも何とかなりそうだ。


「セラーナさんよろしくお願いします! あの方面にはウェスリー隊長が5名で巡回しているはずです!」


 ウェスリーさんは良く知っている人だ。

 オレたちが倒した魔物を律義にギルドまで運んでくれていたり、助けてもらったお礼にとご飯をご馳走になったりしたことから、交流するようになった。

 ご飯に関してはセラーナだけを誘っていたのだろうけど、グウェンさんのせいでみんなで行くことになってしまった。

 それでもウェスリーさんは満足していたようだから良かったけど、グウェンさんもちゃっかりご馳走になっていてちょっと申し訳なかった。


「オレはタックを呼びに行ってくるよ。セラーナはススリーとプラントさんを呼んできて。東口で集合にしよう」

「わかりました。すぐに行きます」


 ギルドを出てそれぞれ走り出す。

 タックは今日、建築工房の仕事の手伝いに行っており、北町の方の現場だと言っていた。

 詳しい場所までは分からないので“範囲探知エリアディテクション”をしながら走る。


 オレたちはもう仕事をしなくても十分食べていける様にはなっているが、タックもススリーも手が空いている時などは以前の仕事を手伝っている。

 オレはグウェンさんのお店だから家で働いているようなものだけど、タックは一職人として十分に頼りにされているし、ススリーもファンが沢山いるので辞められると困るのだそうだ。

 みんなしっかりしてるなと思いながら走っていると、タックの反応を見つけた。

 ドワーフの職人さんたちと“信号弾シグナル”の方向を見ているようだ。


「おつかれ、タック。行けるかい?」

「お、ヴィト。今ちょうど話をしてたところだ。行けるぜ!」

「こっちなんかいいから早く行ってやんな!」


 ドワーフの親方の了承も得ているようだ。

 頭を下げ、セラーナたちと合流するため東口に向かった。


 ◆


「隊長、ヤバいっすね」

「あぁ。しかし発見できて良かった。今日も気づかなかったとすれば、更に魔物が増えていたかもしれん」


 街から離れた森林地帯で鳥が騒がしく飛び回っているのを発見したため確認に来たところ、魔物だまりが出来ていた。


「確かに。いつからあるのか分からないけど、こんなに魔物がいるのにまだワームホールが開いてますもんね」


 通常、ワームホールは3~40分もすれば徐々に小さくなって消えていくはずだが、ここのワームホールはまだ健在だ。

 幸い、魔物が森の外に出ようとしたり、増えたりしている様子もないが、これ以上増えると周囲に甚大な被害がでるかもしれない。


「なんにせよ“信号弾シグナル”は出した。応援が来てくれるまで監視に徹しよう」


 今回はさすがに自分たちだけで何とかしようとするのは無理だ。

 むしろ下手に刺激して魔物が行動を始めてしまったら大変だ。

 直ぐに追加の“信号弾シグナル”を上げられるように準備をしながら、増援を待った。


 ◆


 セラーナたちと合流して補助魔法を掛けて全力で“信号弾シグナル”の方へ向かう。

 出発してから20分ほど経ち、だいぶ近づいてきたのでもうすぐで到着するはずだ。


「あの森の辺りだね」

「みたいだな。あれ以降“信号弾シグナル”は上がらないけど大丈夫かな」

「あそこにいるのはウェスリーさん達のようですので、迂闊な行動はしないと思いますよ」

「とりあえず無事でいてくれたらいいわね」

「そうですね。魔物が暴れている感じはしないし、大丈夫だとは思いますけど」


 みんな全力で走りながらも普通に会話が出来るようになった。

 日々の訓練の賜物だ。


 森に近づいてきたのでスピードを落とし、“範囲探知エリアディテクション”で位置を確かめる。


「あっちだ。5人いる。みんな怪我もなく無事みたいだよ」

「本当ね。でも魔物の数も凄いわね」

「400体くらいですかね? Bランクも結構いますねー。どうしましょう?」

「私たちだけで何とか出来なくもないけど、打ち漏らしがあったら大変ですし、応援が来るまで待機していましょう」


 一先ずウェスリーさん達に合流し、怪我の有無や状況の確認を行うことにした。


 ◆


「じゃあ見つけた時には、既にこの量の魔物がいたんですね」

「は、はい!」


 ウェスリーさんがピシッと気を付けの姿勢でセラーナに答える。


「僕たちがついてからもしばらく経つのにワームホールがまだ閉じてないなんて変ですよね。更に増えるのかな」

「俺たちが到着してからは増えた様子はありませんが、その可能性はあると思います!」

「早めに“空間途絶ホール ディスラプション”をしてしまいたいところですが、まずは魔物をどうにかしないとダメですね」


 やはり討伐部隊が来るのを待っていた方が良いだろう。

 その間、魔物の観察をしていくことにする。

 ブラッドウルフにトロール、キラービーにジャイアントスパイダーなど、知っている魔物が三分の二くらいだ。


「見た事がないタイプの魔物も結構いるね。2本角が生えた馬みたいなやつ。Bランクで雷魔法Lv6を使ってくるみたいだから気を付けて。あと、毒々しいヒマワリみたいなやつ。闇魔法で“吸血ドレイン”というのを持ってるみたいだ」


 今のうちに見たことがない魔物の解析を行い、注意すべき点を共有しておく。

 それぞれ強さはさほどでもなく、Bランクのトロールやジャイアントスパイダーと同じくらいだと思うが、キラービーの様に集団だとAランクとなる可能性もあるため油断はできない。


 見たことがないスキルや魔法を持っているものが多く、片っ端から“模倣コピー”したい欲求が駆られるが、何が起こるかわからないので我慢だ。


 概ね情報の共有が終わり、ティルディスから討伐部隊がやってくるのを待つ。

 たまに鳴き声のような音が聞こえるが、不思議な事に魔物たちはその場からほとんど動くことがなかった。


「移動しようとする気配もないですね。ありがたいですけどなんか不気味ですねー」


 プラントさんが口にしたが皆も感じていた様だ。


「そうね。何かあるんじゃないかと思ってずっと“範囲探知エリアディテクション”をしているんだけど特に何もなさそうなのよ。セラーナとヴィトはどう?」

「私もです。何かを待っているような気もしますが、はっきりとはわかりません」

「オレもわからない。でも、少なくとも結界とかは見当たらないかなぁ。」


 行動に対する違和感はあるが、結界や隠れている奴の気配などの違和感はなかった。


 その後も警戒を緩めなかったが、結局、魔物には動きがないまま時間が過ぎてゆき、討伐部隊が続々と到着し始めた。


 ギルド職員と各クランやパーティーの代表者が集まり、状況と魔物の情報などを共有する。

 Bランク以上の魔物が複数いるので、討伐手順や連携などを素早く確認していく。

 ここまでの大規模な集団は初めてだが、各々これまで経験を積んできているので話し合いもスムーズだ。


 概ね方針も決まって作戦を開始しようとしたその時。


「爆炎陣!!」


 突然の詠唱と共に5つの火柱が出現し、森を焼きながら魔物に迫っていった。


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