第18話 プラントさんと闇魔法


 プラントさんのご家族と熱い対面バトルをした翌日、セラーナのご両親と叔父さんとも対面した。

 こちらはファンゲルさんの時とは違い、一見穏やかだが水面下で目に見えない戦いが繰り広げられていた。

 始めは魔物やクラン、それぞれの街の話などをし、和やかな雰囲気で経過していた。

 しかし、私生活の話になってから雲行きが怪しくなり、『娘さんを下さい』を待っているご両親と、そういう話題を避けようとするオレの負けられない戦いが始まった。

 隣にいるセラーナはなぜか大人しく本を読んでいると思ったら、『愛される名前の付け方』という本を読んでいた。

 セラーナ、お前もか。

 グウェンさんとプラントも似たような本を読んでいるし、タックとススリーは我関せず『へー、そうなんですねぇ』と適当な相槌を打っている。


 こちらも4時間ほどに渡る死闘の末、何とか引き分けに持ち込んだ。

 孤立無援でジリ貧だったので、これからプラントの引っ越しの荷物を取りに行ってティルディスに向かわなければならない、いつでもティルディスの家や滞在用の家に遊びに来てくださいと伝え、何とか逃れることが出来た。


 ◆


「あぁ疲れた……。こんなはずじゃなかったのに……」

「お疲れヴィト。いやぁ参考になったぜ。結婚する時はああいう感じになるんだなー」


 完全に傍観者だったタックが暢気なことを言っている。

 またしてもムカッと来たので、歩調に合わせて土魔法で小さい段差を作ってやった。


「うぉっ!?」

「どうしたのよ、タック」

「いや、躓いただけだ。びっくりした」

「もう、気を付けて歩きなさいよ」


 ククク……土魔法は便利だぜ!

 神様も魔法を建築や悪戯に使われるとは思っていないだろうな。


「ヴィト、ありがとうございました。うちのお父さんとお母さんも安心してくれたようなのでよかったです。でも本当に遊びに来ちゃったらどうしよう」

「それならよかったよ。遊びに来てくれて全然かまわないけどね。どっちの家も部屋が一杯あるし、しばらく滞在してもらってもいいんじゃない? あ、王都の方は勝手に泊めたりしたらまずいのかなぁ?」

「王都なら叔父さんの所に泊まれますから。でも嬉しいです。もう両親との同居まで考えてくれているなんて……」

「そういうことじゃないからね!?」


 横でニコニコしながら歩いていたプラントさんも加わってきた。


「うちのお父さん、お母さんも喜んでましたよ!」

「えっ? お母さんはともかくお父さんは喜んでないでしょ……。昨日あんなこと死闘までしたのに……」

「でも皆さんが帰った後、お父さん褒めてました。『俺と互角に戦える奴は初めてだった。あの男ならプラントを任せてもいいかもしれん』って」

「任せられても困るよ……」


 プラントさんが頬を赤らめながら嬉しそうに話す様子を見るとやっぱり可愛いと思ってしまうが、プラントさんとは男の友情を築くと決めたのだ。

 流される訳にはいかない。


「ヴィト」

「ん?」

「私は両親がいないから挨拶しなくてもすぐ結婚できるぞ!」

「だから張り合わなくていいから!」


 3人娘(うち一人は男)の間で激しく視線がぶつかり合う。

 ススリーは『もう、しょうがないわねぇ』といいながら微笑ましくその様子を見つめている。

 タックは相変わらずニヤニヤしてこちらを見てくるので、再度土魔法で躓かせておいた。

 この魔法は”階段の踊り子ダンサ・ダンサー”と名付けよう。


 プラントさんの家で荷物を回収する際、ファンゲルさんの態度は先日より軟化していたが、あの話を聞いた後だったから今度はこちらが警戒をしてしまった。

 出立する時には、『プラントの事を頼んだぞ』と言われたので、『わかりました! 友達であり仲間ですから皆で協力していきます!』と強調しておいた。

 決しておかしなことを言っている訳ではないのでご両親もプラントさんも納得してくれていた。


 あとは馬車に乗ってまたティルディスに戻るだけだ。

 ティルディスに戻った後はお待ちかねの時間だ!!


 ◆


 ティルディスの我が家に戻り、プラントさんに家の中の案内や付与術を施された道具の使い方などを説明し、使う部屋を決めてもらった。

 プラントさんは外観に驚き、内観にも驚き、付与術道具にも驚くという、製作者を喜ばせるのに十分な反応をしてくれた。

 やはりお風呂が気に入ったようで、24時間いつでも暖かいお風呂に入れるというのは女性(?)にとってはポイントが高いようだった。


 一通り見学した後は、お待ちかねのプラントさんのスキルお披露目タイムだ!

 オレたちも闇魔法と召喚術は今まで見たことがなく、プラントさんもまだ怖くて1回も使っていないとのことだった。

 万が一、王都で使って何かあったら大変だと話し合い、自宅に戻ってくるまで我慢していたのだ。


「よし! プラントさん早速やってみよう!」


 念のため20m四方の“次元隔離結界ディメンションドーム”を張り、周囲に被害が及ばないようにする。

 プラントさんとオレ以外は結界の外で見守っている。

 オレは以前、結界内で魔法を使って死にかけた経験があるので、いざという時にプラントさんを守れるよう準備していた。

 プラントさんは緊張した面持ちだ。


「な、何をどうしたらいいですか?」

「まず闇魔法から見てみたいな。あそこに的を作るからあれ目掛けて魔法を打ってみてよ」


 15mくらい先に土で人形を作りだす


「わかりました。じゃあまず“腐食ディケイ”という魔法を使ってみますね。文字通り腐食させる魔法だそうです。」


 プラントさんが手のひらを土人形に向けて詠唱すると、手のひらから濃色の蒸気が立ち始め、同色の蒸気が土人形に纏わりついていった。

 プラントさんが“腐食ディケイ”と口にすると、煙は土人形に染み込むように消えていった。


「あれ? 消えたね」

「そうですね……。失敗しちゃったんでしょうか……?」

「いや、魔法はちゃんと発動してたと思うよ」


 2人で確認の為土人形に近づいていく。

 すると土人形がヒビだらけになっているのがわかった。

 嫌な予感がしたので石を拾って投げてみた。

 コツンと石が当たると、ボロボロッと崩れていき、土も泥状になっていった。


「うぉっ……これはエグイ魔法だね……」

「本当ですね。いつどこでこんなの使えばいいんでしょう……」

「とりあえず人はもちろん、魔物にもなるべく使わないようにしようね……」


 内側からドロドロに溶けていく魔法の様で、使われた方はもちろん、使った方も精神的なダメージを受けることは間違いないだろう。

 ……一応“模倣コピー”はしておこうかな。


 他にも“浸食イロージョン”という外側からドロドロにしていく魔法や、“吸引サイフォン”という魔力や体力を奪う魔法など、様々なものを“模倣コピー”させてもらった。

 色々試した結果、『全体的に闇魔法はえげつない』という事が分かった。


 そしてお待ちかねの召喚術だ。

 プラントさんを“スキャン”したその時から気になって仕方がなかった魔法だ!

 何を召喚できるんだ!?

 ワクワクが止まらない!


「じゃあ、いよいよ召喚術の方を……お願いします!」

「はい! ええと、召喚術は自分の魔力を媒体として適合する魔物を呼ぶパターンと、魔物と直接契約するパターンがあるようです。今回は呼ぶパターンの方ですね」

「お願いしまーす!」


 プラントさんが詠唱を始めると、結界魔法でも見たような文字や記号、幾何学模様が地面に浮かび上がり、青白く光り始めた。

 徐々に光が強くなり、プラントさんが“召喚コンジュレイション”と唱えると、魔方陣から女性が出て来た。


 背中に2枚羽が生えていることから、一見鳥人族の女性かと思ったが、鳥人族よりもはるかに大きな翼をもっている。

 凛々しく端正な顔立ちがとても美しく、豊満な胸と全てが見えてしまいそうな際どい衣服で目のやり場に困る。


 しかし、そんなことは言ってられない。

 何が起こるか分からないため、注意深く観察しながら警戒する。

 不測の事態に備えて一瞬たりとも目を離さない。

 特にいきなり剣や魔法で襲われては困るので、上半身に細心の注意を払う。

 何も見逃さないように視線は既に1か所に釘付けだ。


 魔方陣から出て来た女性がゆっくりと目を開けた瞬間、右足のつま先に激痛が走った。

 何の攻撃を受けたかもわからず、焦って自身の足を確認すると、プラントさんの足が乗っていた。

 こちらを冷たい目で睨みながら、怒っていらっしゃる。


「見過ぎです」

「け、警戒していただけです」

「まぁ確かにあれは凶悪な武器ですからね……。今後の為にもあの目障りなブツに“腐食ディケイ”でも掛けておきましょうか……。あ、“吸引サイフォン”であの胸だけ吸収できないかな……。クフフフ……。」


 さっき禁じ手にしたばかりの魔法を早くも解禁しようとしていらっしゃる。

 怪しく笑うプラントさんのダークサイドが垣間見えたような気がした。

 使える魔法は性格なども影響するのかな……。


 召喚された女性はキョロキョロと辺りを見回しこちらに顔を向けてきた。


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