第10話 セラーナ、初めまして
狂乱のギルド登録から5日が経った。
“スキャン”の調査のため早めに王都入りしたオレたちだったが、結局到着当日にハンターギルドの登録も済ませてしまった。
その後は特にやることも無くなってしまったので、日中は王都観光や食べ歩き、夜はみんなで鍛錬をしていた。
串焼きのおっちゃんとその娘と仲良くなったりもして楽しく過ごしていた。
そしてクラン員募集会の当日となった。
クラン員募集会はハンターギルド総本部の近くにある公園で行われるらしい。
普段は景色を楽しみながら散策するような広々とした公園だが、そこの遊歩道や広場に屋台のようなブースが設けられ、各クランが募集活動をするとのことだ。
ハンターギルド総本部で参加クランの一覧や大まかな場所が記された用紙を受け取とり、公園へ向かう。
クランは既に200を超えているようだが、どこも出来たばかりだし、知っている所があるわけでもないので、入り口から順に見て回ることにした。
「むー混んでいるのだ。全然見えないのだ」
「迷子にならないで下さいね」
「子どもじゃないのだ! ……でも一応手をつないでおくのだ」
そう言ってオレの手を握ってくる。
まぁ迷子になられるよりはいいか。
ブースはお祭りのように遊歩道の両側に設置されているが、入り口から既に混雑しているため、片側分しか見られない。
流れ的には右側通行で進んでいるようだ。
「ホントに人が多いなー。これみんな“ハンター”なのか?」
「誰でも入れるようだし、一般の人も見学に来ているんじゃないかしら」
「たぶんそうだね。なんかいい匂いするし、本当のお祭りみたいに屋台も出てるよ」
「とりあえずりんご飴買うのだ」
クラン員募集ブースの間に、なぜか飲食の屋台も出ている。
グウェンさんの興味はもう屋台にしか向いていない。
りんご飴を与えて大人しくさせてから、ぐるっと一周回ってみることにした。
なぜかりんご飴の代金はオレが払わされた。
ブースの上にはクランの名前が表示されており、その下には『初心者大歓迎!』とか『懇切丁寧に指導します!』など誘い文句も書かれている。
みんな登録したばかりの初心者なはずなんだけどな……。
また、ブースからはクラン員が『今なら幹部候補ですよ!』とか『一緒に最強クランを作りましょう!』などと各々呼び込みをしている。
学院生のころの部員勧誘を思い出すが、おそらくそんなノリなのだろう。
オレは働かないといけなかったからどこにも入らなかったけど、見る側も勧誘する側も何だか楽しそうで懐かしさを感じる光景だ。
「いろんなクランがあるんだなー。"レッドドラゴンズ"に"ドラゴンフォース"、"ドラゴンスレイヤーズ"に"飛空竜騎士団"……。ドラゴンばっかりだな。ていうかドラゴンは敵なんじゃないのか?」
確かに。いいドラゴンもいるかもしれないけど、神話では敵だったな。
ドラゴンスレイヤーズならまだセーフか。
そんなことを話しながら見ていると、一際人が集まっているブースがあった。
「我らと平和の為に不惜身命の誓いを立てようぞ!!」
聞き覚えのある声とフレーズが聞こえてきた。
覗いてみるとやっぱりディリムスさんたちだった。
獣人族のみんなとクランを立ち上げたようだ。
クラン名は"天下泰平の道"と書いてあり、その下に『冬夏青青』と書いてある。
うーむお堅い。そして熱い。
「タック殿! タック殿ではござらぬか!」
「ディリムス殿。ご健勝のようで何よりでござる」
「貴殿等もクランをお探しに参られたのでござるか?」
「左様でござる」
また始まってしまった。
周りの人もキラキラとした目でタックとディリムスさんを見つめており、以前のような危うい熱気を感じる。
「そ、それならば我らと共に歩んでは下さらぬか!? 可能ならばマスターもタック殿に!」
「ディリムス殿。ありがたいお言葉でござるが、このクランはディリムス殿だけのものではありますまい。皆の魂の拠り所、外様の某が汚してよい場所ではござらぬ。同じクランに居らずとも、共に歩むことはでき候」
「はっ……!タック殿……! かたじけない! 某またしても道を誤るところでござった!!」
「誤った道から引き戻すのも友の勤めにござる。まぁ今のはまだ誤ったというほどの物ではござらぬがな。わっはっは」
「やはりタック殿のお言葉は全て至言にござる。これからも是非ご指導を賜りたい」
またしても感銘を受けた様子のディリムスさんとそのクラン員たち。
見学していた人も感動しているようだ。
これのどこに何をそんなに感動しているんだろうか?
「タ、タック、あまり長居しちゃ他のみんなの迷惑になるからもう行こう」
「む、そうだな。それではディリムス殿。失礼するでござるよ」
「タック殿! 貴殿等も良き日を! クランが決まった際にはぜひご一報下され!!」
ディリムスさんとクラン員たちに別れを告げ、ほかのクランも見て回る。
背後から“天下泰平の道”に入りたいという希望者が殺到している様子が伝わってきた。
通行の邪魔をしちゃったけど、クラン員募集に一役買えたならよかったのかな。
あそこのクランなら人々の役に立てそうだし、クラン員のことを大切にしてくれそうだ。
疲れそうだからオレはあまり入りたくはないけど……。
◆
その後も色々見て回ったが、ピンとくるクランはなかった。
「いくつか高Lvっぽい人がいるクランがあったけど、神様が言っていた仲間はあの人たちなのかなぁ?」
「うーん。確かに強そうな感じはしたけど、なんかしっくりは来ないのよね」
「俺もそうだなー。これだ! って感じのビビビッとした感じがなかったな」
「わたしも……モグモグ……特に何も感じなかったのだ」
みんなピンと来てないようだ。
タックはいつもの話し方に戻っている。よかった。
あれはディリムスさん専用イベントのようだな。
グウェンさんはいつの間にか串焼きソーセージを頬張っている。
オレはずっと手を繋いでいたはずなんだがいつの間に……?
「みんなピンと来ていないなら今すぐクランに入る必要はないかな? 一応高Lvっぽい人のクランに話を聞きに行ってみる?」
「そうね。入るか入らないかは別として、話を聞いてみるだけならいいかもね」
遊歩道の終わりにある広場のクランも一通り眺めたので、折り返して先ほど強そうな人がいたクランに向かおうとした時、ふと広場の端の方が気になりそちらを注視した。
「どうしたの?」
「いや、なんかあそこが気になって。何もないはずなんだけど」
「確かに気になるわね。何かしら?」
「何もないけどな。でも確かに変な感じがする」
タックとススリーも感じたようだ。
何もないし、誰もいないただのスペースなのだが、なぜか違和感を覚える。
しかし、どこかで感じたことがあるような感覚だ。
近づいていくうちに何となくわかってきた。
「結界だ、あれ」
「結界?なんでこんなところに?」
「わからないよ。何の結界かまではわからないけど確かに結界だ」
神様に教えてもらった結界とは違い、ガラス板に模様が入っているわけではないが、何か膜のようなものが感じられる。
結界の前まで来たが、やはり普通に芝生が広がっているだけだ。
しかし、ここだけ人がいないし明らかにおかしい。
「強固なものってわけでもなさそうだし、人除けの結界か何かかな? まさかこれが<ワームホール>なわけないよね?」
「なんでクラン員募集するところで人除けなんかするんだ?」
「なんでだろうね? でも気になるしオレがまず入ってみるよ」
理由まではわからないが気になってしょうがない。
何があるかわからないので、補助魔法をかけ、意を決して一人で中に入ってみる。
「ひぇっ!?」
「あれ……?ブース?」
するとそこにはクラン員募集のブースがあり、机に突っ伏して寝ていた黒髪の小さな女の子が、驚いた表情でこちらを見ている。
「こ、こんにちは。お邪魔します……」
「あ、こんにちは……」
先ほどまで見ていたブースと同じものだ。
クラン名は“ブルータクティクス”と書いてある。
「ここはクラン員を募集しているんですか?」
「あ、はい、してます……」
「……なぜ結界が……?」
「あ、すみません、私人見知りなもので……」
「あ、そうでしたか。それはどうもすみません……」
「あ、いえ、こちらこそ……」
もじもじとしながら伏し目がちで話す女の子。
初めて会うのになぜか懐かしいような、何となくだがこの子なんだなという不思議な感じがした。
「クランの話を聞かせてもらってもいいですか? できれば友人も一緒に」
「あ、はい。ぜひ!」
確認を取って外で待っている3人に声をかけ、中に入ってもらった。
「あれ? ブースなのだ」
「ホントだ。何もなかったはずなのになんでだ?」
皆不思議がっているが、結界に入ったときの感覚だと、人除け兼不可視化の結界だったようだ。
ちゃっかり既に“
「すみません……。募集はしたいんですが、人見知りなものであまり大勢の人に来られても困ってしまうので……。どうしようか迷ったんですが、結界があったとしても来てくれる人が、お告げで言われた人かなって思って……。あ、申し遅れましたが、私はセラーナと言います。ロレンシアの街からきました」
「私はススリー。こっちはヴィトにタック、グウェンよ。私たちはティルディスから来たの。よろしくね」
「はい、よろしくお願いします!」
「それでお告げで言われた人っていうのは? 神様からのお告げなのかしら?」
ススリーが尋ねると、セラーナさんは少し逡巡したが、決心したように『うん』と呟き、小さく頷いてから話し始めた。
「はい。私は神様からスキルを授かったんです。その際に、一緒に戦う仲間がいるから、今日ここに行くようにと言われたんです」
「神様って創造神アガッシュ様だった?」
「そうです。他の方々は天使様からお告げを受けたようですが、私はアガッシュ様から直接お告げを受けました」
「オレたちもそうなんだよ。それぞれ特別なスキルも貰ったんだ。グウェンさんは天使だけど、高Lvのスキルを貰っているよ」
グウェンさんが『えへへー、照れるのだ』といって、グウェンさんが天使の様だという意味だと勘違いしているようだが、いつものように無視だ。
「私たちも仲間がいるということは聞いていたのだけど、詳しいことは聞いてなかったのよ。ヴィトとタック、グウェンさんは昔からよく知っているから、すぐにそうなんだなって思ったんだけどね。他の仲間については分からなくて、もしかしたらと思って、今日来てみたの」
「セラーナさんがどう感じたかはわからないけど、オレはそう感じたんだよ。何となくここが気になって来てみたら、あぁこの子かなって」
「私もそうです。上手く言えないけど、初めて会ったはずなのに、前から知っているような気がします。誰かくるとは思っていなかったのでびっくりしちゃいましたけど」
はにかみながらセラーナさんが答える。
さっきみた他の高Lvの人たちとは違う印象があり、セラーナさんもそれを感じているようだった。
「ところでクラン員を募集しているんだよね? 一応話を聞かせてくれない?」
「はい。といっても、まだ何も決めてなくて……。神様からお告げを受けたからクランの設立申請をしてみたんですが、どうしたらいいかわからなくて。もし誰か来てくれたら一緒に考えていければいいかなって思っていたんです。すみません、こんなので……」
「いや、大丈夫だよ。むしろ募集してくれていてよかった。ピンと来るところがなかったら、オレたちもクラン作ろうかと思っていたんだ。よかったらオレたちをクランに入れてくれないかな? あ、その前にオレたちのことも話さないとね」
そう言って改めて自分が貰ったスキルやLv、Sランクだったことなど、隠さず全て説明していった。
「ご説明ありがとうございます。改めまして、私はセラーナ、16歳です。私も先日登録し、Sランクで登録されました。アガッシュ様からは回復魔法、結界魔法と、“
「えっ? 魔物が出てくる穴を塞げるの?」
「そうみたいです。まだ使ったことはないですが……。でも神様から、『その力は1人じゃ活かしきれないから、仲間と共に、人々の為に使ってほしい』って言われたんです」
「確かに魔物がうじゃうじゃ沸いてくる穴を塞ぐなら近づかなきゃいけないだろうし、一人じゃ無理だもんね」
「はい。私に戦う力はありません。でも人々の為にこの力を活かしたいんです。だから皆さんの力を貸して頂けませんか? お願い致します!」
一応みんなの顔を見渡すが、当然のごとく反対はなかった。
「もちろん。こちらこそクランに入れてください。よろしくお願い致します!」
「よろしくなのだ!」
こちらがクランに入れてもらう側なので、皆で頭を下げる。
クラン員登録は書類に必要事項を記載し、ギルドに提出すれば完了する。
セラーナさんはクランマスターを譲りたがっていたが、こちらも断固拒否した。
何となく、マスターはセラーナさんが良い気がしたからだ。
「クラン名は”ブルータクティクス”って言うんだね。どういう意味なの?」
「えっと、そんなに大した意味だとかはないんですが……。私、青色が好きなので『青』っていれたいなーって思って」
恥ずかしそうに俯きながら話す。
「後は……、私は青い空、青い海が広がるこの世界が大好きなんです。この美しい風景を魔物に壊されたくなくて。でも私ひとりじゃ何も出来ないから、神様が言ってた仲間たちと、この風景や人々を守っていきたい。皆で力合わせて、街や村、人々の笑顔を守りたい。もちろん自分たちもたくさん笑える楽しいクランにしたい。その為に、どうしたらいいか、何が出来るのかを皆で一杯考えて実行してきたいと思ったんです」
顔や耳まで赤くしつつも徐々に顔を上げて、オレたちを見ながらしっかりと話をしてくれる。
「そう考えていたら、みんなで『次どうする』とか、『どうやって戦う』とか作戦会議しているようなイメージが浮かんだので、“ブルータクティクス”って名前にしてみました。あの、変だったら変えてもいいですので!!」
「とんでもないよ。いい名前だと思うし、オレもそんなクランにしたい。むしろ、なんちゃらドラゴンとかより全然いい。物凄くホッとした」
「何とかの道とか、堅苦しい名前よりずっといいわ」
「よーし、今日から私たちはブルータクティクスなのだ! タック! えいえいおー!」
「えいえいおー!」
こうしてオレたちは顔見知り以外の初めての仲間に出会えて、クランにも所属することが出来た。
新しい仲間が入りやすいように、楽しいクランにしていけたらいいな。
『えいえいおー!』に巻き込まれ、照れながら一緒にやっているセラーナを見ながら、このクランなら大丈夫だなと感じた。
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