第ニ章

第7話 今後の為の作戦会議

 お告げがあった日から3週間が過ぎた。

 その間、タックやススリーと共に剣術や魔法の訓練を行い、試行錯誤しながらも徐々にスキルや魔法の使い方がわかってきた。


 今まで剣など握ったこともなかったはずのオレとタックは、目にも止まらぬ速さで剣を振るうことが出来るようになっている。

 剣技や型など全く知らないはずなのに、なぜか昔から知っているかのように身体が動いていた。


 また、ススリーとの訓練では、規模の大きな魔法や周りに被害が出そうな魔法は使えないが、小さな魔法を繰り返し使うことでイメージがより明確になり、瞬時に発動できるようになってきた。

 ススリーにも詠唱はレシピだ! と説明したら、初めは何言ってんだコイツという顔をしていた。

しかし、今では何となく理解してくれたようで、無詠唱での魔法も使えるようになってきた。


 一度実験で、『結界張っておけば大丈夫じゃね?』と思い、10m四方の結界を張り、中で爆発系の魔法を使ってみたことがあった。

 魔法が外に漏れだすことはなかったが、逃げ場を無くした全ての炎と熱風が自分に襲いかかってきた。

 慌てて結界をもう1枚張って難を逃れたが、またしても自分の魔法で死ぬところだった。

 その結果、『やっぱり魔法は危ない』ということの再確認と共に、『魔物を結界で閉じ込めて魔法をぶち込めばいいんじゃないか』という新たな可能性が見出された。


 もちろん一人になっても鍛錬を続けている。

 右手を広げ、親指先に小さな火の玉を灯す。

 なるべく小さく、1㎝くらいの火の玉を浮かべる。

 次に人差し指に水の玉。

 その次は中指に風の玉、薬指に雷の玉、小指に光の玉、という感じで順に指先に発動させていく。

 初めは小さい火の玉を作るのだけでも難しかったし、2つ以上異なる属性を同時に使うのも難しかった。


 しかし、連日暇さえあればやっていたら、徐々に出来るようになってきた。

 好きこそものの上手なれだ。

 今では両手の手根部を合わせて指を円形状に広げ、指先に異なる属性の魔法を灯し、さらにルーレットのように順次移動させることも出来るようになってきた。

 ウフフ……楽しいなぁ。


 その他の動きとしては、グロム国王からのお触れが出ていた。

 どうやらスキルを授かった者のリストを作成しているようだった。

 周りと比べても強い力を持つことが分かったオレたちは、それぞれが授かったスキルの詳細は伏せ、とりあえず剣術や魔法とだけ回答しておいた。


 その後、スキルを授かった者全員に通達があった。


 それは、八か国で会議を行った結果、各国が平等に人員や金銭を出資し、“ハンターギルド”という第三者機関を作ることが決まったため、魔物討伐に協力できる者はハンターギルドに登録をしてほしいという内容だった。

 ハンターギルドの総本部は、会議が開かれた、大陸の中央部にあるオズフェルト王国の王都ウィケッドに置かれ、他の国の王都には国内本部を置き、地方都市には支部が置かれるようだ。


 ハンターギルドに登録した者は、”ハンター”として魔物討伐や調査を行うとのことだ。

 ギルドに登録するメリットとしては、討伐や調査に見合った報酬が得られると書いてある。

 その他にも、討伐で得た報酬は、ギルドへの手数料が若干引かれるものの税は免除されること、別な国への移動や転居をする際に便宜を図ってもらえることなどがある。

 ただし、街や村に危険が迫った場合には、緊急招集されることもあるらしい。


 さらに通達では、共に戦う仲間と“クラン”という団体を作ることが推奨されていた。

 クラン員が討伐や調査などで貢献をしていけばクランの貢献ポイントが貯まり、クランに対して追加の報酬が出るとのことだ。

 特に優れた貢献をしているクランに対しては、各王都に拠点として使える場所を提供してくれるらしい。

 恐らく報酬を目当てに一人で無茶をする人を少なくしたり、優秀なハンターの所在管理をし易くするためでもあるのだろう。

 もちろんハンターギルドに登録しなくとも、登録して一人で活動したとしても、特に罰則などはない様だが、メリットもあまりない。

 登録後の討伐や調査にも義務やノルマなどは課せられていないようだ。


 ただし、設立したばかりなので、まだ確定していない部分や改訂されていく部分が多々あるだろう。

 組織を運営してから初めて気が付く事も多いと思われる。

 しかし、国ごとで対応が異なったり個々で纏まりなく動かれるよりは、組織を作り、人材確保や情報共有をしていく方が全ての人のメリットになるだろう。


 そしてハンターギルドへの登録や、クランの設立及びクラン員募集の合同説明会が1週間後に王都ソルティアで開かれるらしい。

 それについて話し合うために、オレの家にタックとススリー、そしてグウェンさんが来ていた。

 話し合いと言っても堅苦しいものでもなく、お茶とケーキを用意しての気楽な話し合いだ。


 とりあえず通達の内容をみんなと再度確認していく。


「ギルドへの登録は任意で行うようだね」

「そうみたいね。まぁ色々な考えの人がいるでしょうしね。元々王国に仕えている人もいれば、国の為に力を活かしたいという人もいるでしょうし、強制はできないもの」

「俺らはどうする?」

「オレは登録しておいた方がいいと思うなぁ。出来たばかりの組織だから色々問題も生じるだろうけど、魔物の情報をもらえたり共有できたりするのは大きいよね。あと報酬とか」


 何処に魔物がいるのか分からなければ、力を持っていても討伐が出来ない。

 出現場所や魔物の数などの情報は非常に重要だ。

 また、魔物と戦う力があるといっても、生活費は稼がなければならない。

 魔法じゃクリームパンは作れないのだ。

 仕事をしながら訓練をして、討伐も行うというのはなかなか厳しいだろう。

 報酬の額や討伐頻度などにもよるが、魔物討伐に集中できるのならありがたい。


「私も登録には賛成だわ。緊急招集されると言っても、そんなに緊急事態なら言われなくて駆けつけるもの。問題はクランの方よね。どうする?」

「この4人で参加することは決まってるんだし、俺らで作っちまうか?」

「うーん。クランについては王都で募集とかを見てからでもいいんじゃないかな。神様が話してた他の仲間とも会えるかもしれないし、もしかしたらその人が既にクランを作っているかもしれないからね」

「じゃあそうするか。でもなんでハンターギルドが設立したばかりなのに、もう募集が出来るクランがあるんだ?」

「クランを創設して募集側で参加したい人は、前もって連絡するようにって書いてあったよ。募集する側はオレたちみたいに知り合い同士がいたとか、元々ある程度まとまった組織の人たちだったとかじゃないかなぁ」


 色んな人がいるだろうけど、共に戦う仲間だから慎重に選びたい。

 もしピンとこなければ、タックが言うように自分たちで作っても問題ないしね。

 一応、ずっと大人しく幸せそうにケーキを頬張っている年長者に聞いてみるか。


「グウェンさんはどう思う?」

「む? わたしはヴィトたちと一緒なら別になんでもいいのだ。戦えるわけじゃないから皆の意見に従うのだ」


 ちらっと顔を上げてそういうと、またケーキに意識を戻して食べ続ける。

 じゃあ何しに来たのあなた……。

 途中、頬に付いたクリームをススリーに拭かれている姿はとても10歳上とは思えない。


 そして今気が付いたけど、そのケーキは2個目だな。

 いつの間に取ったのか分からないが、必然的にタックのケーキが無くなってしまった。

 残っているケーキを自分の方へ引き寄せこっそり確保しておくと、ススリーもさりげなく自分の方に引き寄せていた。

 タックはまだ気づいていない。

 かわいそうなタック。


「じゃあとりあえずクランについては王都に行って様子を見てから考えようか」

「そうね。後は、私たちのスキルもどこまで明かした方がいいのか悩むわね」

「そこだよね。オレたち以外にも同じような人がいたらいいんだけど、今の所そういう人たちはいないもんね」


 確保したケーキに手を出しつつ、対策を考える。

 すると2個目を平らげ終わったグウェンさんが、ようやく会話に参加してきた。


「そういえば“他者のスキルがわかる”というスキルを持っている人が、王都にいるという話を聞いたのだ」


 オレとススリーはケーキを口に運ぶ手を一瞬止めてグウェンさんに視線を向ける。

 それは初耳だ。

 すごいスキルだと思うが、自分たちにとっては厄介なスキルな気がする。

 ススリーの方を見ると、表情からして同じことを思っているようだ。

 一方、タックはようやく自分のケーキがないことに気づいてがっくりきている。

 グウェンさんの皿が二枚重なっているのを見て諦めたようだ。


「スキルがわかるってどういう感じなんでしょうね?」

「わたしも聞いた話だからよくわからないが、スキルの種類や強さがわかるらしいのだ」

「それだったら隠しても意味ないかもなぁ。むしろ隠していたことを咎められたりするのかな……」

「咎められることはないと思うけど、なんで隠したのって聞かれるかもしれないわね」

「そうなったら正直に言うしかないか。どんな奴がいるか分からないから内緒にしてましたって」

「まぁ言い方さえ気を付ければ、そう酷いことにはならないわよ」


 他者のスキルがわかるスキルか。どんな風に分かるのかとっても気になるな。


「ヴィトなら使えるんじゃないのか?」


 グウェンさんがオレに確認してくる。


「いや、オレはそんなスキル持ってないですよ」

「“魔法創造クリエイトマジック”で出来ないのか?」


 言われてみれば確かにそうだ。

 そういう魔法も作れるのかもしれない。


「あ、でも一度見るか体験しないと難しいかな」

「なぜなのだ?」

「作るにしても、『他の人が持っているスキルを見つけ出す感覚』がよく分からないですから。どういう作用でどういう反応が出るとかがイメージ出来ないから難しいかも」

「へー。そういうものなのか」

「なんでも思い通りになるわけじゃないって神様も言ってましたからね。単純に"身長体重を調べる魔法"とかだったら、何となくイメージが付きやすいから出来ると思いますけどね」

「ヴィト? 余計な魔法は作らない方が身の為よ?」


 ススリーのゾッとするような冷たく重い声に、生命の危機を感じた。


「も、もちろん、そんな魔法を作る予定は一生ございません……。あは、あはは……」

「そう。ならよかったわ。大切な友達を一人亡くしてしまうところだったもの」


『なくす』のニュアンスが違うような気がするが、気にしないようにしよう。

 余計な魔法を作らなければ、生きていけるのだから。

 誤魔化すように話を戻す。


「ま、まぁ“スキルを調べるスキル”というのは気になるね! ギルドの登録自体は1週間後だけど、少し早めに王都に行って色々調べてみない?」

「えぇそうね。運がよければ何か分かるかもしれないものね」

「そうだな。俺は親方に事情を説明してあるから明日からでも行けるぜ!」

「タンブルウィードはしばらく臨時休業にするのだ! わたしも明日からでも行けるのだ!」

「さ、さすがに明日すぐってわけにもいかないでしょうから、明後日出発にしない? 1週間ちょっとの滞在で準備も色々あると思うしさ」

「「「はーい」」」


 そんなこんなでギルド登録が開始される前に、前乗りで王都に入り、“スキルを調べるスキル”の調査を行うこととした。

『旅行だー!』と最年長者が一番はしゃいでいるが、まぁいいか。

 最近お店が大混雑でお疲れのグウェンさんもいい気分転換になるに違いない。

 オレ自身も王都に行くなんて何度目かなので楽しみではある。

 タックやススリーも嬉しそうだ。


 折角だし、“スキルを調べるスキル”の情報収集をしつつ、王都の美味しいお店の情報も収集してやろうじゃないか!

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