第37話 エピローグ3

『話を続けて良いかな?』


「すみません、どうぞ」


『そういうわけでその星にホイホイと人を送れないのだよ。しかし犯罪者がその星を狙う可能性は高い。なのですでに抗体を持っている君なら仮に被害がでたとしても最小限ですむ』


「なるほど、それで俺ってことなのですね」


 長官のいうことは理解した。俺はますますやる気になった。何よりも皆と一緒にいられるのである。しかしテレッサは俺のやる気をみて冷ややかな視線を送って懸念を抱いていた。


「長官、質問よろしいでしょうか?」


『何だね?』


「少なくとも私のほうで把握しているだけでも亜人の種類は12種類は確認しています。つまり残り10種類の抗体はどうするのですか?」


 テレッサ……なんて危険な質問をしたんだ。俺は恐ろしくて二人の前でソレは聞けなかったというのに……


 トレニィとカテリアはハッとして、その質問の意味を理解するとワナワナと震えて俺を睨んできた。


『ああ、それね。万が一出会ったらヤっちゃって』


「は?」


『だからぶちゅーっとやっていいから。こっちとしては容認するから』


 俺は冷や汗が止まらなくなった。恐ろしい殺気を背後で感じた。俺は恐る恐る振り向いて二人をみた。二人は歪んだ笑みで顔をひきつらせている。


「良かったですねクリフ。12人とやりたい放題ですよ」


 テレッサはわざと二人を焚き付けた。


「そんなの嫌よぉ!」


「あたしだってこれ以上増えるのは許さないんだから!」


 二人は怒って俺に詰めよってきた。あの温厚なトレニィまでもが怒っていた。よほど嫌らしい。


「わかった。わかったから、他の種族とはできるだけ接触しないから……」


 俺の弁明に二人はいまいち納得していないようである。


『続きいいかな? 宇宙警備隊として君が使用する装備だが、君が使ってた宇宙船とシャトル、トレーラーを改修してそのまま使用してもらうから』


「テレッサは?」


『アンドロイドは君の所有のままでよい。あと警備隊への資格に関してはおいおい通信教育で取ってくれ。以上だが何か質問は?』


 勝手に兵器を使用するようなアンドロイドが宇宙警備隊所属では都合が悪いのであろう。そこは分からないでもない。


「俺、ずっとここにいていいんですか? 転属とかあるのですか?」


『むしろずっと居てくれ。他の部署にこられても迷惑だから』


 その言葉を聞いた四人が一斉に喜んだ。そして再び俺に抱きついてくる。今度は漫勉の笑みをもって。


 ん? 四人? 俺は恐る恐る背の低い二人を見ると目をランランと輝かせて頬を赤く染めながら俺の事を見つめているリプルとラプルがいた。嬉しさを隠しきれず尻尾をフリフリさせている。


「リプル? ラプル?」俺は嫌な予感がした。


「リプルはクリフのお嫁さんになるのだぁ」


「ズルいーラプルがお嫁さんになるのぉ」


 その言葉を聞いたトリニィ、カテリアに衝撃が走る。早速二人が懸念していた事件が起こってしまったようだ。


「テレッサ……まさかこの二人……」俺は否定して欲しいと願いをかけてテレサに聞いた。


「はい。刷り込みのスイッチが入りましたね。確実に」


「マジか!?」


 なんてことだトリニィそしてカテリアに続いて二人もだと。見た目が子供だから完全に油断していた。


「ささ、責任もって二人に接吻して早く抗体を作ってください」


「い、いや、しかし……こんな小っちゃい子に接吻だと」


「何を言っているのですか、早く抗体を作らないと他のラグーン種の雌全員とこうなりますよ」


「だが……まだ子供だぞ」正論かも知れないが、いくら俺でもこんな子供に手を出すのは抵抗がある。


「その迷いが身を亡ぼすのです。早くしてあげて下さい。このロ・リ・コ・ン」


 俺はたじろいだ。さすがにそれは良心の呵責に押しつぶされそうだ。だが悩んでいる俺の隙をついて二人は行動に出る。


「クリフ―」二人にステレオで名前を呼ばれると飛びつかれて唇を交互に何度も奪われてしまった。二人が嬉しそうに行為を終えると、今度は嫉妬したトリニィとカテリアに俺は襲われて再び唇を奪われた。二人はもう抗体できているのに。


◇◇◇◇◇


 あの事件から数日が過ぎた。俺はシャトルを飛ばしてこの星のパトロールだ。


 その後、オオツカンパニーや社長は普通に健在しているようで今でも忌々しく俺は思っている。あっちこっちに相談を持ちかけたが立件は難しいと首を振られた。


 だがいくら悪徳社長とはいえ、ここまで用意周到に完璧に悪事を隠せるものなのだろうか……いや、いくらなんでもおかしい。俺のその疑問の回答が得られたのはその直後だった。


 ピロンと機体を操縦しているテレッサから通知音が聞こえた。


「クリフ、あなた宛にメールが届いています」


「俺宛? 誰からだ?」


「差出人は……私です」


「は?」


「正しくは二週間前の私です」


「あぁ、配達指定メールか、何でそんな面倒な……ん? 二週間前って事件の起こった日じゃないか」


「はい。送った時間からしてステーションを出る前ですね」


 テレッサには俺と共に行動していた記憶は残っていた。だがオオツカンパニーに関する部分はすっぽり抜け落ちているため整合性がとれず彼女は気持ち悪いと言っている。


「どんな内容なんだ?」


「内容は……」


「どうした?」


「いえ、内容はあの事件の裏で起こっていた社長と宇宙軍および警備隊の秘密についてのようです」


「えッ!?」


 情報を消されるとわかっていたテレッサが事前にだしておいてくれたのかと思った。だがメールの内容はどうやらそうではなかった。このメールを出すことを社長は知っており容認していたのだ。


 宇宙海賊による亜人の人身売買がずっと問題視されており、業を煮やした警備隊の長官が宇宙軍の知り合いである将軍に相談をしたのが全てのきっかけだ。


 宇宙海賊のもつ武力は強力なため宇宙軍の協力は必要不可欠だった。だが警備隊にも宇宙軍の内部にも海賊は紛れ込んでいるため公に動くとバレてしまう。


 そこで将軍の友人であるオオツカンパニーの社長に協力を求めた。社長はこれを受けた。無論危険を犯すなりの見返りはあったのだろう。


 そのための装備として陽気なエンゼル号やテレッサを回してきたというわけだ。本来なら外しておくべき装備がそのままだったり、テレッサが妙に高機能だったのはこのためだ。


 テレッサは軍では潜入工作やスパイを得意としたアンドロイドなので他のアンドロイドと異なり嘘をついたりするのだそうだ。


「どうりで色々できたり、知っていたりしたわけだ……」俺は冷ややかな目を彼女に向けた。俺はずっと騙されていたのだから。


「だけど、いくらなんでもただの民間人である俺を巻き込むのは酷いんじゃないか? なんで俺がこんな戦争なんかしなきゃならなかったんだ」


「それについてはあなたの自業自得によるところが大きいです」


「どうして?」


「本来の任務は疑いのあったこの惑星を調査し、証拠を持ち帰るだけの任務でした。そうすれば後は軍や警備隊が動く手筈となっていたのに、あなたが私の忠告を無視して現地人とコンタクトをとってしまったことから計画が狂ってしまったのです」


 確かにトリニィと接触しようとしていたのをテレッサは止めていた。しかし宇宙船が壊れてジャミングで通信もできないなにどうやって脱出するつもりだったのか尋ねてみた。


「宇宙船が壊れていたというのは嘘です。ハイパースペースでニアミスしたのも嘘です。ですからシャトルで宇宙船に戻って逃げるだけでした」


 こ、こいつまた俺に嘘をつきやがった……しかし、これで大方の筋書きはわかった。たがたった一つだけわからないことがある。


「もう一つ、なぜこの事件の担当に俺が当たったんだ? 何かしら人選するよな……能力的に俺が妥当とは思えないぞ」


「それはあなたがサクラ嬢に手を出したことが原因です」


「は?」なぜここでサクラさんの名前が出るかわからない。


「実はあの社長、前々からサクラ嬢を狙っていたのですが、クリフが先に手を出してしまったことで社長の反感を買ったようです」


「な、なんだよソレ、不倫じゃないか!!」社長はすでに既婚者だ。


「完全に私怨じゃないか、ふざけやがって。だんだん腹立ってきた」


「ですがクリフ、長官が司法取引を持ちかけたり、警備隊に配属させたりなど、社長はあなたの万が一に備えていた節があります」


「どういうことだ?」


「あの短時間でそのような重要な話を即決できるわけありません。何かあった際にクリフを長官に預けるつもりだったのではないでしょうか」


「う、うむむむ……」


 確かにテレッサの言うことも一理ある。といっても動機が不倫では素直に喜べないのも確かで、その点についてはテレッサも同意してくれた。


 そうそう、宇宙海賊が言い残していた『あの方』なのだが、調査の結果、やはりバックには大きな海賊組織がいることが判明した。


 だがこの一件で彼らの賞金が跳ね上がったことにより、命知らずの賞金稼ぎがこぞって彼らの首を狙ったそうだ。


 その中でもあの宇宙海賊ですら恐れるという有名なハンターがたった数人でその海賊組織を根こそぎ倒したというから凄い。世の中桁外れな人がいるものだと俺は感心した。


 そんな連中とはおそらく縁がないであろう俺は今もこの星にいる。


 ――今日も晴天につつまれ眼下に広がる大地はどこも緑、緑、緑。だがこの下で多くの人型亜人が今日も生を営んでいる。彼らの信じていた『神』も『楽園』も今はもうない。しかしそれでも彼らは生きている。彼らにそんなものは必要ないのだ。


 俺は宇宙警備隊の制服を身に着けてシャトルを飛ばして今日もパトロールだ。そして彼らの営みをそっと見守ってゆく。俺の大事なパートナーの四人と一人のアンドロイドと共に。


―完―

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名も無き深翠の未開惑星と偽りの楽園 滝ノ森もみじ @takinomori

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