未来への穴

せいや

未来への穴

穴の前で、一人の男が悩んでいた。

私は彼に話しかけた。

「君はここで、何を悩んでいるんだい」

「決まっているだろう。この穴に入るかどうかだ」

私は穴を見た。一見すると何の変哲もない穴だ。

「なんだこの穴は」

「この穴に入ると、未来へタイムワープできるらしい」

私は驚いて、彼の顔を見た。冗談ではなさそうだ。

「どのくらい後の未来へ行くことができるんだい?」

「それが分からないから、迷っているんじゃないか」

男の表情には、不安の色と、僅かな期待の色が滲んでいる。

けれど私は、未知の世界を想像して気分が高揚した。

彼が言った。

「もし君がこの穴に入って、一ヶ月後にワープできたら、何をする」

「そしたら、ぼくの好きなバンドの新曲をいち早く聴くね」

誰よりも早く新曲を聴く自分を想像して、胸が高鳴った。

「もしも、一年後にワープできたら、何をする?」

「そうだな、○○社の最新の電化製品を買うかな」

「あまり変わらないじゃないか」

「一年というのが中途半端なんだよ」

「そしたらもしも、十年後にワープできたら、何をする?」

私は少し考えた。

「子供の顔が見たいな」

まだ見ぬ我が子の事を想像して、気分は最高潮になった。

私は言った。

「もう我慢できない。ぼくは穴に入るよ。君はどうする」

「ぼくも入るよ。ただ、君が先に入ってくれ」

「怖いのかい」

「怖くなんかないさ。直ぐに後を追うから」

彼は言ったが、強がりのようにも見えた。

「わかった。先に入るよ」

私は意を決して穴に入った。視界が暗闇に包まれた。


目を覚ました。

ふと横を向くと、先ほどの男が穴の前で悩んでいた。

男の顔をよく見ると、髭が少しだけ伸びていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

未来への穴 せいや @mc-mant-sas

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ