第27話 勧誘

 妖裁級の人達が私を見てくる。もう、「余計なことをしたらぶった斬るぞこのクソメス女」と言いたげな目だ。でも、私が話したことある三人の目は、そんなに怖いとは感じない。


 明神梓忌みょうじんしきさんは普段からマイペースなのか。今も何を思っているのか分からない顔。茉李和音まつりかなでさんは少しニヤニヤして楽しんでるし、海偉鈴里かいすずりさんは優しげな表情の中に、少しの不安を滲ませている。うん。鈴里さんだけは本当に優しい方なんだと分かる。でも、マフラー暑くないんですか?


「入れ替われないかい?」


 再度主様は私に問いかけてくるんだが……。やば、無表情だけど少し悲しげな声に聞こえた。それに、周りの人からの殺気が体に突き刺さる。怖いです。


「いいいいいいいれかわることはできますが……あの、もう一人の私はめんどくさいらしく、口は悪いし直ぐに殺り合おうとする人物とお聞きしています……。なので少し不安で……」


 主様を見ることが出来ず、思わず下を向いてしまった。


 もう一人の私はこの状況をどう思うのだろうか。ビビり──はしないだろうけど、なにかやらかさないか不安だよ。マジで……。


「見ての通り。ここには妖殺級が全員では無いけれど揃っている。何かあればすぐに対処はできるよ。安心してくれて構わない」


 表情筋を普段から動かさない人なんだろうか。さっきから無表情だ。でも、口調は普通だし、抑揚もある。感情はしっかりとあるはずだ。

 実年齢がいくつなのかわからないけど、確実に私より年下。そんな子供が、こんな大きな隊を支えている。相当な苦労をしたに違いない。だからこそ、私も支えたいし、できる限りいう通りにしたい。


 でも、正直不安なんだよなぁ。入れ替わるの……。


「本当にだいじょ──がはっ!!」

「主様が大丈夫だと言えば大丈夫なんだよ、さっさと入れ変われ」


 うぅ……。

 年齢は知らないけど、小さいくせに馬鹿力。私の横腹をどうしてくれようか。


「うぅ、分かりましたよ。何かあっても知りま──殺さないでくださいね、私の体」


 この人達がどうにかなるのはないよね。どっちかというと私の方が危ない。死なないかな私。まぁ、なるようになれ!!


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「……………あ? 何だこの状況。怨呪居ねぇの?」


 なんだこれ。怨呪……ではないよな。また、妖裁級のやつらと戦えと? いや、視線の意味が違うな。殺気に含まれているのは、強い不満。そん中でも、隣からの視線が一番いてぇな。


「君が転生者、楽羅輪廻だね」

「あぁ? 誰だて──って?! てめぇ……殺す」


 このチビ。俺の横腹にワイヤー銃をぶつけようとしやがった。何とか掴み今は力比べ状態というか、押し合いになっている。つーか、なんでわざわざワイヤー銃を使うんだよざけんな。


「京夜、問題ないよ。このまま話を続けよう」

「失礼しました」


 前にいるガキが喋ったら、すぐにワイヤー銃を懐にしまった。なんなんだこのガキ。


 あぁ………あいつ、なんか独特な空気を纏ってやがるな。表情は変わんねぇけど、なんだ。纏っている空気が、他の奴とは違ぇ。不気味な感じだ。何かを腹に詰めているような……。隠していることがたくさんあるような。とりあえず、不気味だ。


「君は、自分が転生者だと知っているかい?」

「転生者? 俺は輪廻の生まれ変わりであり、恨みの姿だ。転生者とか知るか」

「そうか。では、もう一度説明しよう。ここに居る者達は皆、異世界転生を果たした者達だよ。今俺達がいるここは、元々我々が存在していた世界から見れば異世界と呼ばれる場所。そして、先程までここにいたもう一人の君は、この異世界で生まれた人格で、今ここにいる君が、本物の異世界転生者だと考えている」


 待て待て待て。どういうことだ。なんでそんなことわかんだよ。


「なぜ、そう言いきれる」

「君には前世の記憶があるのではと思っている。その理由が、もう一人の君にははっきりとした記憶がないから。あと、異世界転生をする条件として、我々はを持つことだと考えている」

「恨みって、確かに俺は恨みそのものだ。だからって、異世界転生したとは限らねぇだろ」


 それに、ここに居るヤツら全員が異世界転生者なのだとしたら、こいつら全員。


 、と言うことにならねぇの?


 よくわかんねぇな……。


「そして、君を転生者だと決めた決定打は、その目だ」

「目?」


 目がなんだって言うんだ。


「左右非対称の目。それは、君が異世界転生を果たした証となる」

「それはおかしいだろ。なら、なんで他の奴らは左右非対称じゃねぇんだよ」


 他の奴らは俺とは違う。改めて見回してもそうだ。左右非対称の奴はいない。どういうことだ。


 ――――っ


 な、なんだこの悪寒、目の前のガキ。いきなり、笑いやがった? 何だよ、マジで気持ち悪いな。一体、何を考えている?


「そうだね。まだ、君に説明していないことがある」

「な、んだよ……」

「異世界転生者が強い理由。それは、異能を使えるからというのも一つだよ。この世界では恨力と呼ばれる物だね。そして、ここにいる人達がなぜ左右非対称じゃないか。俺の恨力で、みんなの恨力をからだよ」

「消し去ってる? なんでだ。なぜ消す必要がある。それに、消し去ってんなら、なんでこいつらはあんなに強い。京夜なんかは一度やり合ってるから分かるが、めちゃくそ強かったぞ」


 スピードを活かす戦闘。それだけでこいつは凄いが、それだけじゃないことくらいは分かる。

 消し去ってんなら、なんでこいつらは妖裁級と呼ばれるくらい強いんだよ。最後の砦になるほどに。


「異世界転生者を狙う者がこの世界には居る。そもそも、なぜここに居る人達は異世界転生をしたのか、されたのか。誰がしたのか、まだわからないことだらけだ。だから、今は守備に回るしかない」


 …………なるほどな。


 俺達をここに呼び寄せた人がいる。そして、その人が異世界転生者である俺達を探している。見つけ出して、何をさせる気なのか。予測も何もできない状況というわけか。

 もしかして、異能を利用してこの世界を壊そうとか思ってんのか?


 んー、とりあえず頭を整理するぞ俺。


 えっと、まず俺は異世界転生者で、今まで使っていた凍冷は転生者の特権だった。そして、俺は恨みの具現化ではなく、そもそももう一人の俺がここの世界の人格で、今の俺が元いた世界から転生した──って事か? 待て待て頭が追いつかん。


 確かに前世の記憶はあるが、俺が考えてたものとは違いすぎるだろ。これが事実だよと言われたらそれまでだが。


「…………ドウデモイイ」

「頭がショートしたかな。一度に沢山のことを言って悪かったね。少しずつでいい。とりあえず、今回君を呼んだ理由は最初に言った通り──」

「っ! 主様。失礼します」


 バンッ!!


 ん? あ? いきなりどうしたんだ。ここでお得意のスピードを活かすんじゃねぇよ。ドアを開けて何があった?


「換気したかったのか? どんだけ勢いよく換気するんだよ」

「んなわけねぇだろクソガキ。誰か居た気がしたが──あ?」


 なんだ。廊下に何か落ちていたのか。

 あ? それって──


「…………色の付いたコンタクト。確かカラコンってやつか。なんで黒色のカラコンがここに落ちてんだよ。目から落ちたのか?」

「知るか」


 知らねぇのかよ。つーか、京夜。そのカラコン、ポケットに入れてどうすんだ? そのまま何もなかったかのように襖を閉めて、俺の隣に戻ってきたし。


「失礼しました」

「大丈夫だよ。ありがとう京夜」


 つーか、俺の方が襖に近いよな。全く気付かなかった。ムカつくな。


「話の続きをしよう。ここに君を呼んだ理由は最初に言った通り──と言っても、君は記憶にないんだったね。なら、もう一度言おうか」


 何だよ、スパッと言えや。


「君には、妖裁級に入って欲しい」

「まじか」


 主様と呼ばれた人の言葉に反射で頷いちまった。


 いや、だってよ。これで――


 彰一に馬鹿にされなくなるからな!! ざまぁ!!!!

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