第21話 新たな敵

 幡羅さんに付いて行くこと八分。ずっと全速力だったんだけど、死にそう。


「はぁ……はぁ………しん……し……んだ」

「はぁはぁ。ここって、前回僕達が勝てなかった怨呪が出現した、石牙村」


 石牙村は、何ヶ月か前に私達が獅子型の怨呪と戦闘を行った場所だ。

 私達が弱かったせいで家やお店が潰れてしまい、村人も沢山死んでしまって今は住んでいる人は居ない。


 あ。でも、お昼とかは直しているみたいだな。崩れてしまった所にはハシゴがかかっていたり、近くにはトンカチや直すための道具や材料が置いてある。今はもう周りが薄暗くなってるから、作業を一時中断しているみたい。


 よかった。まだ、この村自体は死んでいない。まだまだこれから生き返ることが出来る。


「感じる。だが、小さいな。ちっ、予定変更だ、お前ら武器持ってるか?」

「二丁拳銃なら持ってます」

「私は持ってないです……。部屋に置いてきてしまいました」


 いや、だって。部屋で寝ていたところで彰一に呼ばれそのまま向かったもん。今日は任務の予定もなかったし。


「まったく、何もかもないのか?」

「…………ないです」


 えっ、これ私悪いの? 幡羅さんも彰一も、私を呆れたような顔で見て来るんだけど、なんで?!


「──ごめんなさい」

「謝罪は言葉じゃなく現金だろ」

「えっ?!」


 いやいやいや。幡羅さん、私達より絶対お金多く貰ってますよね。なんで私が払うんですか!?


「嘘」

「嘘かい!!!」


 えっ、なんなのこの人。本当に妖裁級なの? いや、実力からして分かるけど。

 前回コテンパンにやられたみたいだし。もう一人の私が……。


「ニシシッ。さて、本気で見つけるか。この村には今怨呪が存在している。怨配が感じにくいから、結構多くの怨みが集まっている可能性があるな」


 感じにくい……か。私は全く感じないんだけどな。

 一応、幡羅さんみたいに顔を俯かせ意識を怨配に集中してみたんだけど。まったく感じない。


「彰一、感じる?」

「全く」

「ですよね」


 これが妖裁級と私達の差なんだなぁ。

 経験の差もありそうだけど。いや、でも幡羅さんは私達より年下っぽいのに、経験も何もないと思う。才能の違いか、仕方がない。


「────見つけた。ついでに、クソ男の気配も」

「クソ男?」


 え、え? いきなり道なりの方向に顔を向けたんだけど。何を感じたんだ? それに、なにか、焦ってる?


「お前らはここにいろ。これは強い」

「へっ?」


 あ、またしても目で追えなかった。どんな瞬発力してんの幡羅さん……。しかも今回は、米粒ぐらいの大きささえ見つけられない。どこに行ったのさぁ。


「嘘でしょ」

「お前の顔面ほど冗談はないと思ってたんだが、これは嘘でもなんでも無さそうだな。僕達も行くぞ。これは、見ておかなければならん」


 ちょ、だから置いていかないでってば。てか、なんか聞き捨てならん言葉が聞こえたような気がしたんだが!? 長屋の屋根を走っていくなぁ!!


「その言葉、どういう意味よ!!!! 待ちなさいよー!!!」


 なんでいつも私は置いていかれなければならないのだ!! まちなさぁぁぁぁああい!!!


 ※


 屋根を伝い、彰一と一緒に走っていると前方の方から物が碎けるような大きな音が聞こえ始めた。


「何が起きてるんだろう」

「知らん、とりあえず普通じゃない。早く行くぞ」

「これって、入れ替わった方がいい感じ?」

「武器ねぇから意味無くねぇか?」

「ですわよね」


 もう一人の私でも、さすがに武器がなかったら無理だよね。

 あ、でも凍らせることはできるんじゃないかな。私は拳銃がないと氷は作り出せないけど、もう一人の私なら。


 そんなことを考えていると大きな音が聞こえた方から、次は刀同士がぶつかり合う音が聞こえ始めたぁ? 


「え、なんでこんな音が」

「刀同士がぶつかる音だな。一人はおそらく幡羅さん。でも、もう一人は誰だ?」


 彰一もこの状況に困惑しているみたい。そりゃそうだよね、まったく意味が分からない。


「本当に怨呪ならこの音はおかしい。普通は動物や虫。刀を使う生き物は人間ぐらいだと思うが」

「言い方やめてくれないかな。あ、音が近付いてきた」


 ちょうど長屋もここで切れてるし、一旦ここで立ち止まろう。近付きすぎても足でまといなだけだろうし──と、いうか。これ以上、近づけない。巻き込まれる。


「なに、これ。いや、目で追えないんだけど」

「ギリちょい。いや、無理だわ」

「いや、無理なんかい」


 屋根の下。何も無いように見える空間に、所々で浮き出てくる人の残像。

 あ、幡羅さん見つけた。あと一人は結構身長大きそう。微かだけど見える、本当に微か。


 これくらい目で追えないと上には登れないって事か。もう諦めた方がいいような気がする。あんな速さについていくなんて無理だよ、足がもげる。


「一体、何が」

「──っ?! 後ろ!!!」

「えっ──きゃっ?!」


 彰一が急に私を抱え横に飛んだ?! その勢いのまま体が転がってしまったけど、頭を支えてくれたおかげで体が少し痛いくらいで済んだ。助かった……。


「何が起きたの?」


 彰一が一転を見続けてる? 私達がさっきまでいた場所に何が……。


「人? なんでこんなところに。それと、なんであの人。拳一つで屋根に穴開けてるの? しかも、私達を狙ったように」


 殴ったままの体勢で固まってるから、右こぶしが屋根にめり込んだまま。


 ボロボロの服に茶色の上着。黒い七分丈ぐらいのズボンを履いて、足元は草履。

 服の裾はボロボロになっているのも気になるけど、それより気になる事があるなぁ。


「髪ながっ」

「そこでは無い」


 ストレートな銀髪を後ろで一つにまとめているけど、風でなびき普通に綺麗に見えてしまうのだが。

 長さ的には膝ぐらいまでじゃない? 腰くらいでも頭洗うの大変よ? どうやって洗ってるのかな。


「クックックッ。女、女だ。女は全て、俺のもんだ。俺のもんだ。誰にも渡さん。渡さんぞ。ケケケッ」


 え、今。あの人がしゃべったの? 低い声だからかな、すこし体が震えたんだけど。何あの人。なんか、やばそう。


「何あの人。気持ち悪い」

「同感」


 早く立ちあがらないと。あの男性も動き出したし。


 ……右手。屋根にめり込んでいたのに無傷。木製とはいえ、ありえないでしょ。どんだけ鍛えてんのよ。


 気持ち悪いにやけ顔を向けるな。吐き気がする。

 舐めまわすようにも見られてるんだけど何ですか。めっちゃ気持ち悪い。体がゾクゾクする。


「気持ちが悪い」

「二回も言わなくてもいい」


 だって、本気で気落ち悪いんだもん。それによく見てみると、あの人の目。普通じゃない。白い部分が黒くにごって、瞳孔は赤。


 一言でいえば、化け物。


 獲物を見つけ、それに狙いを定めた猛獣のような感じ。怖いんだけど。舌を垂らすな、唇をなめ回すな。本当に、見ているだけで吐き気がしてくるよ。胸辺りが締め付けられる。


「つーか、なんで私、見られてるの?」

「だよな。お前みたいな女男より、他に沢山色っぽい女性はいるのに」

「そうそ──殺す」


 本当に余計なことしか言わないんだから。今はそれどころじゃないんだから変なことをいわな――……


「これは、女性にしては筋肉があるが──まぁ、悪くないな」

「──えっ?! きゃぁぁぁああああ!!!!」


 なになになに?! いきなり浮遊感に襲われたかと思ったら体触られてるんですけど?! 脇掴まれてるし、後ろから抱きつかれている気持ち悪い!!

 これならまだ彰一に抱きつかれた方が何倍もマシだよ!! 一生ないと思うけどね!!


「おっと、この女がどうなってもいいのかい?」

「あ、彰一……」

「ちっ」


 彰一が私の後ろにいる男性に銃口を向けていたけど、今の言葉で腕を下ろしてしまった。


 あぁ、私が油断したから──いや、あれは私悪くない気がする。

 半分は彰一じゃない? 絶対に私じゃない気がする。


「ケケッ。こんなに若い女の肉は、さぞ美味いんだろうな。夜が楽しみだ」

「ひっ?!」


 首を舐められたぁぁぁああ!!!

 私を食べても美味しくないって!! 食べるなら痛感が壊れているであろうもう一人の私にして?!?! って、夜??? そっちかぁぁぁああ?!!!

 きもいきもいきもい離せぇぇえええ!!!

 私の初めては心に決めた人だと決めているのよぉぉぉおおお!!!


「何が目的だ。お前は何者だ」

「俺は──」


 え、うわ!! またしても浮遊感!! 誰かが助けてくれたんだ。でも、だれ? 彰一はあの変態と正面で話してたから無理だろうし……。


 あ、後ろから頼もしい手が伸びてきて転びそうになってた私を支えてくれた。ありがとうございます。でも、誰?


「あ、あの。ありがとうございます──誰ですか?」

「俺は、君の未来の旦那様だよ」

「あ、やばい人だ」


 私を片手で楽々だき抱えてくれた男性。声は結構低くイケボ。少しだけ掠れているのがまた、大人の色気を出している気がする。


 裾の長い軍服の上着に、中はワイシャツ。ボタンは四つくらい開けているから、胸筋が丸見えだ。

 袴みたいな長ズボンに、足元は──えっ、下駄? なぜ?


 ボサボサの黒髪に赤いメッシュ。適当に切られているな。目元位まで長い。その目元は、妖しげに赤く光っている。うっ、少し見られただけで体が震える。


 あ、これって。妖殺隊の隊士であることを表すエンブレムが胸元に刺繍されてる。


「もしかして、妖裁級?」

「シシッ、お見事。俺は妖裁級に所属する隊士。名は、幡羅京希はらきょうき

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