第13話 理由

 今私達は、明神さんの後ろを歩いている。場所などを聞く勇気もないから『付いてこい』と言う言葉通りに行動するしかない。


「こ、殺されないよね」

「死んだらお前の頭蓋骨を山に埋めてあげるな」

「呪い殺す」


 お前は私の事をなんだと思っているのだ。


 小声でそんな会話をしていると、大きな屋敷が少しずつ見えてきた。

 緑に囲まれている古めかしいお屋敷、武家屋敷を元として作られているみたい。石畳を歩く明神さんの後ろを歩いていると、どんどんお屋敷がどれだけ大きいかわかってきた。


 何百人の隊員が住む寮も大きかったけど、このお屋敷も大きい。何百人の隊員が余裕で収まるほど立派な木製のお屋敷。

 

 確かに、こんな立派な所で死ねたら思い出にはなるか。冥土の土産ってやつかな納得。


「置いてくぞ」

「あ、待ってください」


 思わずお屋敷を見上げていると、明神さんが急かしてきた。おいて行かれたら絶対に迷子になる、早くいかないと。


 ついて行くと、廊下に出た。緑に囲まれているお屋敷だから、鳥の音や緑の重なる音が耳に入り癒される。水の流れる音まで聞こえてきて、今まで取り乱していた気持ちが落ち着き始めたなぁ。あはは…………。


「────人生最後に素敵な屋敷を見ることが出来て幸せです」

「まだ死ぬなんて決まってねぇけど」


 ※


 明神さんについていく事数十分、辿り着いた先には大きな庭が広がっていた。


 大の大人ですら覆い隠せるのではないかと思うほど大きな屋敷林、その下には鯉が泳いでいるのがわかる程透き通っている綺麗な池。

 太陽の光を反射して、キラキラ輝いている。理想的な庭が目の前には広がっていて心が弾んでしまう。


 うん、普通なら心が弾み、目を輝かせ色々歩き回りたい──のだけれど。それが出来ない理由が、その素敵な庭にはあった。


「あの、この人達は──」


 庭には六人の人が一人を覗いて、鋭い瞳で私達を見てくる。殺気立っている人もいるしすごく怖い。

 明神さんに聞いてみるけど、無表情で見返されに顔を引きつらせてしまう。


「こいつらは俺と同じの人達だ」


 私の意図を汲み取って簡単に教えてくれた明神さん。……あぁ、頭がフラフラする。倒れそう。


「そうか。私はこの人達に殺されるのか。はは、短い人生だった」


 って、あれ? そういえばさっきから静かじゃない?


「彰一?」


 名前を呼ぶと、彰一はハッとした表情で私の方を向いた。それまでは何か、恨んでいるような表情であちら側にいる六人を睨んでいるように見えたんだけど。


「あ、何」

「いや、大丈夫?」

「それは僕に聞いてるの? 自分の心配しといた方がいいんじゃね?」


 あれ? いつもの、人を小馬鹿にするにやけ面に戻ってる。めっちゃムカつくな、さっきまでの表情はどこ行ったんだよ。

 込み上げてくる怒りを我慢していると、甘ったるく耳に残るような声が聞こえた。あれ、なんか。生クリームを大量に口にしたような感覚が体を襲ってきたんだけど。


「ねぇ〜? 私達の事は無視なのぉ〜? ひどぉ〜い」


 そう口にしたのは六人の中に居た一人で、唯一私を睨んでいなかった人。確か、たしかぁ。あっ、茉李和音まつりかなでさんだ。やっと思い出した。


 ……うわぁ、噂通りすごく綺麗だなぁ。綺麗なんだけど、話し方がちょっと耳に残りそう。あと、胸から風邪ひきませんか? 思わず、私のあまり目立たない胸に手を伸ばしてしまったよ。


「あ、茉李さん。前回はありがとうございました。おかげで助かりました」

「えっ、知り合い!?」


 まさかの知り合いなのかい彰一や。


「あれぇ〜?? もしかして私の事忘れたのぉ〜? ひどくなぁい? 私と梓忌のおかげで助かったって言うのにさぁ〜」


 すごく甘い声でそのような事を言ってくるが……。言われているのだが……。

 あの、口に出すことは出来ませんが、正直気持ち悪いです。耳に残ります、胸焼けしそう。


 苦笑いを浮かべながら茉李さんを見ていると、目が合ってしまった。


「そういえばぁ〜、貴方がここに呼ばれた理由。どーせ、梓忌は話してないでしょぉ〜? ここで私が話してあげるわぁ〜」


 うっ、近づかれたから甘い匂いが……。頭がクラっとする。


 なんなんだろうこの匂い、香水とかではない気がする。匂い袋とか普段から持ち歩いているのかな。女子力高すぎかと思います。


「一体一で私達誰かと勝負するのぉ〜。勿論楽羅さんは、もう一つの人格で」


 語尾にハートマークが付きそうな言い方に思わず「きもっ」っと言うところだった。言ったら今すぐにでも殺される、耐えろ、私。


「あ、あの。なんで、ですか?」

「それはねぇ〜」


 茉李さんは私の頬に手を添え顔を近づけ──って、近い近い。近いです。


「貴方が本当に私達の味方なのか、強さはどのくらいなのかぁ、それを確かめるためよぉ〜?」


 鼻がくっつきそうな程、茉李さんは顔を私に近付けてくる。だから、近いですって。頭がクラクラします。


「あっあの、近すぎです」


 もう、限界。顔を逸らしても意味がないほど甘いにおいが……。


「ねぇ、和音ちゃん。それぐらいにしてあげない? 僕ももっとお話したいよ」

「そういえばぁ〜、鈴里すずりはこの子の事気に入ってたもんねぇ〜。ごめんごめん。私にその気は無いから安心してねぇ〜」


 私の頬から手を離し、ヒラヒラと後ろに手を振っている。


 女性と言えば低く、男性といえば高い。そんなお兄さんみたいな声が聞こえたな。今話してた人って誰だろう。


 ん〜、茉李さんの影で見えない。

 あ、一人の女性が五人の列から一歩前に出て会釈をしてくれた。どうもです。


「はじめまして、僕は海偉鈴里かいすずり。妖裁級に所属している刀使いだよ。よろしくね、輪廻ちゃん、彰一ちゃん」

「ちゃん?!?!」


 彰一をちゃん呼び。待って、笑う。そんな呼び方する人今までいなかったから、ふいうちはだめだって。

 呼ばれた本人はすごい驚いて固まってる。そのあほ面も笑うからマジでやめて。こらえているこっちの身にもなってよ。


 やっと落ち着いてきた。えっと……。


 彰一をちゃん呼びした海偉さんは小柄な女性。

 身長は百五十くらいかな。私より小さい。長い銀髪を後ろで二つに結び、桜の髪飾りをつけてる。

 目は黄緑色でぱっちり二重でかわいい系。

 軍服は女性の為スカートを履いて、靴も白いロングブーツで私や茉李さんと同じだ。違うところをあげるとしたら、首元に白いマフラーを巻いている事かな。

 今の季節は夏、暑くないのかなぁ。


「僕が輪廻ちゃんと戦いたいなぁ〜。ねぇ、他の人はどうかなぁ??」


 海偉さんが後ろを振り向き、残りの四人に問いかけた。


 後ろの人達全員怖い。お願いだから殺さないでくださいお願いします。

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